表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第2章 学校に行ったって帰りたい
20/116

お家に帰る為に仕事を頑張るのです

 瘴気で真っ暗状態が、一際ドス黒い闇で塗りつぶされる。あんまり暗いので、術を使って明かりを灯した。

 放置された鉄筋コンクリビル。いかにも物騒なにーちゃん達が屯していそうなその場所は、今は不自然なくらい人気がない。


「あんまりにも喧嘩で大怪我人が出たり、不自然な事故が重なって、みんな自然と離れていったみたいだよ」

「自然と? ここまでいないの不自然じゃね?」

「この街の不良さんって、こういう場所からはささーっといなくなるみたい」


 常葉情報に、嫌な予感を覚えた。ただの人間がそこまで的確にヤバイ場所を察知する訳もなし、ヤバイと分かってて突撃するなんて話は怪談の典型的なパターンだ。それを、確実に無人にさせるとなると……。


「よし、さっさと終わらせよう」

「あれ? 瑠依が急にやる気ー」

「今、物凄くヤバイ予想が組み上がった」

 てきぱきとリュックからめぼしい呪術具をピックアップして並べつつ、その予想を口にする。


「まず、それだけ完璧にいなくなるってのは、ぶっちゃけ怪奇現象だろ?」

「そうかもねー」

「となると、この街の術者が人払いしている可能性があるわけだ」

「おおー、リアル術者!」

 何故喜んでるのか分からんが、構わず続けた。


「でだ。そうなると次に術者は元凶潰しに、つまりここの浄化作業をしようとするよな? けど、この瘴気は普通の術じゃ祓えねーの。鬼狩りにしか無理な訳だ」

「うん、その辺は前にも聞いたよー」

「言ってたか。けどな……鬼狩りもそうなんだけどさ、術扱える奴ってみょーにプライドが高いのな」

「……えと、自分は特別な力を持ってるーとか、そういう感じ?」

「中二病ぽくて大変痛々しいが、まさにそんな感じ。あと一応、この街を守ってるという自負もあるっぽい」


 微妙な顔をした常葉が、俺の説明を聞いて首を傾げる。


「妙に詳しいねー? 見てきたみたいな」

「みたいっつーか、見た。バトれるくらい術を扱えるのは特にエリートらしくて、めっさプライド高いの。いや、仕事に対してプライド持つのは悪くねえよ? 最初は、一般人だと思った俺らを心配するような感じだったし」

「あ、優しさもあるんだ」

「というか、基本はそうだし、俺らが素直に引き下がれば問題無く良い奴だと思う。俺らが、素直に、引き下がれば」


 大事なことなので2回言う。並べた呪術具に意味づけ作業を行いつつ、俺は視線を遠くに飛ばした。


「……いやさ、俺らも引き下がる訳にもいかねえよ? あちらさんが瘴気と鬼で被害出たら怒られるの俺らだし。そもそも俺らの仕事だし。けどな、こう……あちらさんの顔を立てて引き下がってもらおうって努力くらい、日本人ならしようと思うじゃん?」

「そうだねー」

「ところがどっこい、疾に「顔を立てる」なんて単語は辞書登録されていないらしくてな……」


 ふう、と思わず溜息付いちまうぞ。あの惨状は軽くトラウマだ。


「心配してくる相手に「こっちも術者だとすら分からないのか無能者」から始まって、「この件でお前らに出来る事はねえ、寧ろ邪魔」、「足手纏いだからすっこんでろ」、「くだらねえプライドで意地はってんじゃねえよ」と……オンパレードでした」


 全力で喧嘩を売りに行くスタイルの疾に、当然術者は切れる訳で。


「そのまま術者バーサス鬼狩りの状況が完成、俺も巻き込まれてちゃっかり盾にされつつ、一方的なフルボッコからのプライドへし折りフルコース。いやあ、俺までしっかり敵認定されたよな」

「あはっ、疾君てば、予想以上の俺様ぶりー♪」

「他人事ならいっそ笑っていられたけどなあ……」


 あそこまで全力で煽る様は、傍から見世物として見てりゃーおもろいかもしれない。


「だが俺は、二度目の術者遭遇なんてイベントは御免被る! 逃げるとしても疾が喧嘩するとしても、帰るの遅くなるじゃないか! もう俺は少しでも早く帰って、オフトゥンといちゃいちゃしたい!!」

「……瑠依って、ほんっと寝るの好きだよねー……」

「3大欲求のうち睡眠欲さえ満たされていれば幸せとは伊巻家の家訓だ! よし完成!」


 やっとこさ出来上がった呪術を起動する。溢れ出した赤黒い文字が俺の周りをぐるぐる回る。腕を伸ばして指揮者のようにそれらを操作し、ビルへと張り巡らせていく。


「ええっと、あっちに伸ばしてこっちにも張って……おっと、こっちもだな。こうしてあーしてこっちにも持っていけば、元凶ごと全部祓えるはず! 多分!」

 複雑な操作を何とかこなした俺は、1度見直してからよしと頷いた。

「我ながら完璧! 発動!」


「テストもそれくらいやれば、良い点数取れるのにー」

「あんな訳の分からんもの、俺には絶対無理!」

「また赤点とるよー?」

「やかましい!」


 ぐだぐだなやりとりをしている間に、発動した術は徐々に瘴気を溶かしていく。段々と暗闇が薄れていくので、もういらんだろと明かりを消す。それでももう、視界が奪われることはなかった。


「いよし完了! さあ帰ろうとっと帰ろうすぐ帰ろう! お布団が俺を待っている!」

「締まらないなーもう……」


 常葉が呆れたような声を出したけど、俺の帰巣本能は何人たりとも奪わせやしない。

 仕事が終わったら真っ直ぐ帰宅、これぞ世界の常識だ。



「お、終わったか。じゃー報告行くぞー」

「変態は失せろ、その歳で三途の川渡りたくなければな」

「ちえー……見送りくらいしてよう、か弱い女の子なんだからー」

「どついても死なねえだろうが変態。おら瑠依、とっとと行くぞ」

「それくらい疾と竜胆でやっといてくんないかなあ!? 俺今日頑張ったぞ!?」

「常に遅刻するようなサボり魔が何をほざくか、却下」

「理不尽!?」



 なのにサービス残業させようとしてくる俺の仲間達は、本当に非道だと思う。帰らせろよちくせう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ