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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第2章 学校に行ったって帰りたい
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分かっていたけど鬼畜でした

「つまり、疾の行動パターンを分析するだけの情報収集能力があれば、鬼が発生しそうな瘴気溜まりを探し出すのも可能って事か」

「瘴気が溜まると諍いごとが増えるから、その頻度とか調べれば一目瞭然なの♪」

「この情報屋どころか局すら凌ぐ情報網に免じて、今の所闇に葬るのは我慢してやってるわけだな」

「……疾、相当この子にストレス感じてんだな……」


 結論。

 こんな会話を繰り広げているのから分かるように、連れて行かれた。


「くそうくそう、竜胆の馬鹿野郎……」

「いや馬鹿は瑠依だっつうの。案の定盛大にごねやがって」

 竜胆は溜息付くけど、俺悪くない。

 ここしばらく鬼を探して毎晩出歩き、ようやっと狩って。朝一叩き起こされて学校行ったら勉強会に強制連行。挙句に幼馴染みの変態趣味に振り回され、また鬼がでますーだぞ? オフトゥンにしがみついて離さなかった俺、悪くない。


「むしろ、良く普通に歩いてきたな。絶対担いでくると思ったが」

 腕を組んだ疾が呆れた口調でそんなことをおっしゃる。連れてこいって言ったのお前だからな? 俺忘れてないからな?

 疾の問いかけに、竜胆は溜息をついて答える。

「そりゃもういつも以上に粘りやがったけどな。﨑原さんも一緒に引っ張ってたら、菫さんが出て来て一喝してくれた」

「やめろ竜胆、思い出させるな」

「瑠依はお母さんに弱いよねー♪」

「うっせ!」


 がうと牙を剥いたけど、常葉は「瑠依がやっても怖くないよう」と平然としてやがる。そもそも、俺は常葉が何かにびびってるトコを殆ど見た覚えがない。


「なるほど、マザコンか」

「ちがわい!?」

 全力で否定しようとしてるってのに、疾はさっさと本題に戻りやがった。名誉挽回の機会くらいよこせ。


「瘴気の溜まり場は人の負の感情の淀み。それがその地に住まう妖に取り憑き、鬼と化す。……理屈は分かるが、人間の感情に妖が左右されるってのも妙な話だな」

「あー……妖は本能の生き物だからな。その分、環境に影響を受けやすいんじゃねえの? 小さい子どもが親の感情に敏感なのと同じだ」

「なるほどな」

 疾が小さく肩をすくめた。ちらりと、竜胆を見上げる。


「で。そこの変態を気にしたんだろうが、竜胆は良いのか?」

「え? 何々、竜胆君隠し事? 全然気にしなくって良いんだよ、寧ろオカルトも私は大好きだから♪」

「えっ、あ、いやその……」

 ずずいっと詰め寄る常葉に、たじたじとなる竜胆。珍しく調子を狂わされっぱなしの竜胆は、まだ高校生モードの姿のままだ。


 常葉から身を引いて困った顔をする竜胆を見て、疾が俺を睨み付けた。

「瑠依、変態の管理はきちんとしろ」

「え何、今日俺の仕事それなの?」

「アホか、鬼の発生前の瘴気浄化作業だぞ。その才能の無駄遣いとしか思えねえ、中途半端極まりない呪術をここで使わねえでいつ使う」

「え、でも常葉の身を守るのも俺の仕事だよな? お前何すんの?」

「ぶっちゃけいなくても良いくらい仕事ねえな」


 清々しく言い切られた。おい、しれっとさぼんな。


「ひっで、仕事丸投げかよ」

「わざわざいなくても良いのに付き合ってやってるだろうが。他人様の大事な時間を使ってやってるんだぞ、寧ろ感謝しろ」

「うわあ……何その俺様理論」

「疾君の俺様素敵!」

「黙れ変態」

 すぱっと切り落とし、何事もなかったように竜胆に目を向けた。

「ま、竜胆も俺も馬鹿の手際悪ぃ仕事ぶりを高みの見物するだけだしな。そのままでも問題ねえか」

「ねえ何? 今日俺なんかした?」


 竜胆という貴重な俺の味方までも奪おうとしてくる疾が、いつもより辛辣すぎる気がして仕方が無い。こいつひっでえのはいつもだけど、今日は更に機嫌悪い気がする。


「お前らという存在が目障り」

「セットにすんな!?」

 この幼馴染みへんたいとセットとか、屈辱にも程があるだろ。


「あー……2人とも、その辺にしとけな? そろそろ、範囲に入るぞ」

 溜息混じりに告げられた言葉に、疾がすっと目を眇めた。


 気付けば周囲の空気が、なんとなく粘っこく重い。呼吸する度に肺の奥に纏わり付くような不快な感触に、げえと顔を顰めた。


「ものすごーくやべえ気配じゃないですか」

「かなり瘴気が濃いな。この辺り、殺人でも起こったか」

「むかーし、一家惨殺だか児童惨殺だかって惨い事件が起こったって話は聞いたけど?」

「オカルトお断りっつってるだろ常葉!」

 しれっと会話に混じって都市伝説を口にする常葉に、悲鳴混じりに抗議した俺悪くない。竜胆がまた溜息をついた。

「瑠依、んなもん慣れろ。……疾、ここから先まだ瘴気が濃くなるぞ。ただの人間に進むのは無理だ」

「おい馬鹿、結界」

「へーへー……」


 ご命令に従い、リュックから取り出した消しゴムとシャーペンを犠牲に呪術を発動する。赤黒い文字が周囲を覆うと、ふっと呼吸が楽になった。


「おー、瑠依がなんかそれっぽーい」

「それっぽいだろ、人数限定版だけどな」

 褒められれば気分が良いのでそう言って胸を張った俺だけど、疾の発言に思わず凍り付く。


「2人が限度のようだし、丁度良い。お前らちょっと行って祓ってこい」


「そんなおつかいみたいに無茶振りする奴があるか!?」

 非常に真っ当な訴えをしたというのに、疾は事もあろうに俺の襟首をぐいと掴んできた。嫌な予感するけど嘘だよな? おい、顔から血の気が引いちゃうぞ。


 じたばたともがくのに、襟首を掴む手は小揺るぎもしない。じわじわと、明らかに暗くなってる南の——瘴気の源と思しき方へと押し出されていく。


「いつまで抵抗してんだ、とっとと逝ってこい」

「ちょ嘘、やめっぎゃああああ!?」


 がつっと背中に衝撃が走り、俺はどっぷりと瘴気渦巻く方向へ蹴り込まれた。


「わあい、今日は2回も蹴ってもらえたー♪」

 意味の分からねえ喜び方をしている、常葉と共に。


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