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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第2章 学校に行ったって帰りたい
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鬼が来ようと俺は布団にしがみつこうと思います

 異能。

 魔術とも術とも違う、けど魔術のような術のような、あるいはそれ以上の奇跡を引き起こす能力。

 この街に生まれる人間は、何故かそんな異能を持つ事が多いらしい。ほとんどの人はそれを発現させずに一生を終えるし、発現させても本人も気付かない些細なもの……やけに植物が育ちやすいとか、くじが当たりやすいとか、その程度が多いらしい。


 鬼狩りとしてもらった資料に書かれてたんだが、まさかそれを幼馴染みが持ってるとは夢にもおもわねーわな。


「疾の突き蹴り投げ全部無効だもんなあ……関節技試してみねえ?」

「この変態に関節技? 触れるのも気持ち悪いのにねえわ」

「……いや、うん。流石に非難すべきかと思ったけど、俺が疾の立場ならそう思うかも」

 深く溜息をついて、疾の失礼極まりない発言は聞かなかった事にした。


「つうかこれ、身体強化魔法でも破れないのか興味あるんだが、試して良いか?」

「疾、すまん。流石に、破れた場合の被害が半端ねえから勘弁してやって……」

 拝むように手を合わせて頭を下げると、ちっと舌打ち。おお、引き下がってくれたか。

「コイツの情報網がもう少し役立たずなら、どんな手を使ってでも闇に葬るんだがな」

「ナチュラルに人の幼馴染みを殺そうとしないで!?」


 物騒なことを言う疾に必死で頼み込む。いや、ストレス溜め込んでるのは分かるから、身体強化しなきゃいくらサンドバッグにしても構わないから。


「なら竜胆はどうだ。おい竜胆、その変態を全力で蹴っ飛ばしてみろよ」

「うわお、なんて外道発言」

「い、いや……流石にそれは出来ねえっつーか」

 ふと思い付いた、くらいの軽さで提案されて、どん引きする俺と竜胆。一方常葉はと言えば、キラッキラしてた。


 もう1度言う、常葉はキラッキラしてた。


「え!? 竜胆君にも蹴ってもらえるの!? 是非♪ この身で味わってみたいので寧ろカモン!」

「なあホントなんなんだよこの子!?」

「変態」

「救いようのないと付ければ尚良いな」

「答えになってねえよ!」

 そう言われても、俺と疾からこれ以上的確な答えは出てこねえって。


「はあ……」

「溜息つきてえのはこっちだ。何で竜胆まで駆り出してストーカーしてんだ、この変態」

「あ、いやそれは帰宅途中だからであって、意図的に巻き込んだ訳じゃないぞ、多分」

「あ?」

 眉を寄せた疾に、おやと首を傾げる。

「気付いてねえの珍しいな。ここ、俺ん家直ぐ側だぜ」

「……わざと方角狂わせる道選んでたのが災いしたか」


 またも舌打ち。今度は自分に苛ついているっぽいな。割とこの辺は理性的なんだよな。


「なんだ、近所に住んでるのかと思って俺も驚いてたけど、違うんだな」

「もしそうだったら、俺は迷わず引っ越しの手続きを開始してた」

「全力で拒絶かよひっで!」


 前言撤回、こいつやっぱひでえ。


「てか、そろそろ行くぞ常葉。お袋様の料理食いっぱぐれたくはないんだろ?」

「えっ、その前に竜胆君の蹴り……」

「まだ言うなら連れてってやんねえぞ」

「うううっ……おばさんの手料理、食べたいです」


 がっくりと項垂れる常葉にほっと胸を撫で下ろす。コイツの胃袋をお袋様が握っててくれて、本当に良かった。お袋様、ありがとう。


「さて、んじゃ俺ら帰るわ。昨日鬼も狩ったし、とりまテスト終わるまでは自由の身だよな?」

「定期巡回もまだ先だし、それでいんじゃねえの」

「おい2人ともっ、何をここで——」

 竜胆が慌てたように割って入ってくる。鬼狩りの存在守秘義務をガン無視したのは俺らなので、竜胆が本来は正しい。


 が。


「わり、竜胆。とっくにばれてんだ」

「はあ!?」

「ストーカーっつったろ、夜に待ち伏せてやがった。局長も知ってるから気にすんな」

「はあっ!?」

「懇切丁寧に常葉の変態振りを語った時のあの同情の眼差しは忘れらんねえ……」


 思わず遠い所を見てしまった俺を見て、竜胆も色々察したらしい。何とも言えない目を、常葉に向けた。


「……マジで無茶苦茶じゃねえかよ、あの子」

「そういう事だ。良かったなーひとつ賢くなって」

「知りたくなかった……」

 がっくりと肩を落とした竜胆に、俺と疾は分かると頷いた。

「俺は幼馴染みじゃなければ良かったと何度も思った」

「俺は何でこんなのを幼馴染みに持つ馬鹿と関わりを持たなきゃならねえのかと何度も思った」

「俺かよ!?」

「文句あんのか?」

「ありません!」


 軽く殺気立った目を向けられて元気よく答える。常葉のせいでストレスMAXの疾の八つ当たりはごめんです。


「じゃー次は試験後ってことで——」

「ところがどっこい、そうはいかないのだ!」

「へ?」

 適当に疾に別れの挨拶——よく考えたらレアだな——してた俺は、割って入った常葉に間抜けた声を上げた。


「私の情報網によると、今夜0時辺りに南の丘近くで発生の可能性・大!」

「またか、最近多いな」

「は?」


 疾が嫌そうな声を上げる。怪訝そうな声を上げた竜胆に説明なんてしない。俺はぱっと踵を返して走り出した。


「竜胆、その馬鹿確保」

「え、おう」

「竜胆っ! 裏切り者!?」

 即座に捕まった。抗議の声を上げた相手は、要領を得ない顔で疾を見る。

「えーと。瑠依が逃げるっつうことは、鬼狩りの仕事か?」

「そういう事だ。23時半にいつもの場所集合な。そっちの変態も連れてこい」

「はあっ?」

「わあい♪ 疾君てば、やっさしー」

 万歳する常葉と目を丸くする竜胆を余所に、俺は全力で叫んだ。


「嫌だ! 俺は、お布団が、オフトゥンが待ってるんだ! 寝るったら寝るったら寝るっ!」


「……なあ疾、これを連れてくのか? 物凄い駄々こねそうな感じだけど」

「応援はしてやる」

「げえ、めんどくせえ……」

 抗議は綺麗に流されたけど、今夜はぜってえ俺は行かん。


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