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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第2章 学校に行ったって帰りたい
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だから幼馴染みはごめんなのです

 辻山の家は、常葉の家から俺んちまで行く途中で別れ道を行った先にある。よって、俺達はぶらぶらと4人で暗くなった道を歩いた。


「そういやさ、伊巻って波瀬と知り合いなのか?」

「へ?」

 他愛もない話題の中にぶっこまれた唐突な問いかけに、変な声が出る。構わず辻山が続けた。

「いやさ、何だかんだ挨拶してんじゃん、伊巻。崎原はともかく伊巻が常にガン無視する波瀬に律儀に挨拶するって何か変じゃね?」

「そうかあ? 隣だし、一応するけど?」


 そんな理由かとちょっとほっとしつつ返す。いや、これはマジで他意はなかった。


「そんなもんか?」

「瑠依はお母さまが厳しいもんねー。挨拶しないとか命が幾つあっても足りないのだ」

「それな」

 大きく頷くと、辻山が苦笑した。

「何、マザコン説浮上?」

「逆らって良い相手と悪い相手っているだろう!? お袋様は明らかに後者だ!」


 ちなみに、俺の周りは後者ばっかりな気がしなくもない。


「……まあ、俺もねーちゃんに逆らって良かった試しないな。けどさ、ちらっと聞いたんだけど、伊巻去年、波瀬に朝一めちゃめちゃ親しげに話しかけたとか」

「ぅぐっ」

「お、マジだったの?」

「……ヒトの黒歴史を抉るのは、いかがなものかと思います」

 ぷいっと横を向いて、それ以上の追求を拒否る。空気を読まず、辻山が聞いてきた。

「で、知り合いなの?」

「別に、寝惚けてただけだし。どーせ席替えの事実も忘れて隣に話しかけましたよ、ええ俺がアホでしたよ」


 ちなみに、嘘じゃなかったりする。後で正直に暴露して謝った所、蹴り1つで許してもらえた。……許された感はなかったけどな。


「ははっ、伊巻らしいわ。何、寝坊すれすれで駆け込んで宿題忘れて頼み込もうとしたとか、そんな感じ?」

「具体的すぎるわ!」

「だって伊巻のあるあるパターンじゃん」

「瑠依……」

「あーあー聞こえねー!」

 ぎゃあと喚いて竜胆のひんやりした声を振り解く。辻山が苦笑する。


「伊巻と竜胆見てると、同い年には見えねーわ。竜胆の方が遥かに年上っぽい」

「だよねー。面倒見の良いお兄さんって感じ♪」 

 常葉が楽しそうにそんな事を言うので、じっとりとした目で見てやる。

「竜胆は寧ろオカンだけど、常葉に言われると死ぬ程むかつく件」

「えー、ひっどーい」

「つか、誰がおかんだ」

「あてっ」

 竜胆に軽く後頭部をどつかれた。それを見て常葉がケタケタ笑う。おのれ。


「お、じゃあ俺こっちだから。崎原、今日はありがとなー。出来ればもっかいくらい頼みたい」

「持ってきてくれれば学校でも教えるよー。あと1週間頑張ろうね〜♪」

「おう。伊巻と竜胆もじゃーな」

「おー、明日なー」

「また明日」


 ひらっと手を持ち上げて挨拶をし、辻山と別れる。去り際のさりげないグッジョブは、もしや激励のつもりか。同情するなら変われ辻山。


「はあ……」

「どうした瑠依、もうちょっとで家だってのに」

 怪訝そうに聞いてくる竜胆と、やけににこにこしている常葉を交互に見て、俺はもっかい溜息をついた。


「……で、常葉。そろそろ吐け。今日は何で付いてきた」


 辻山もさっさか逃げたことだし、本日で竜胆と出会ってひと月。そろそろ限界なんだろと促せば、常葉はぐっと親指を立てた。


「瑠依、たまには役に立つー! この流れで水を向けてくれるとは思わなかったよー」

「え、っと、﨑原さん、何か用だったの……?」

 話を呑み込めないながらも竜胆がそう聞くと、常葉が頷いてくるっと竜胆を振り返る。俺はといえば目と耳を塞いでいたい。いや寧ろ2人を置いて帰りたいんだけど、そうもいかない。


「あのね、竜胆君……」

「何……?」


 この、乙女のように目を潤ませている幼馴染みの監視は、俺の仕事と化している。

 だからそこの困った顔で常葉の続く言葉を待つ竜胆、自ら墓穴を掘ったというのに助けてやる俺に深く感謝するよーに。


 白けた視線を向ける俺に構わず、常葉は乙女そのものの仕草で両手を胸の前で組んだ。



「竜胆君の……大胸筋、触らせて!」



「……………………は?」



 竜胆がぽかんと口を開ける。その反応は大いに分かるが、ひと月も我慢した常葉あほは止まらない。


「固まらず無駄なく引き締まった大胸筋! いえそれだけじゃない、菱形筋や僧帽筋、棘上筋に肩甲下筋! 肩こりのかの字もないハリのある筋肉、是非とも触らせて欲しいの♪」


「は? え……はあ?」


 勢いに気圧された竜胆がじりじりと後ずさるも、常葉はそれ以上の歩幅でじわじわと竜胆に迫る。


「もちろん他の部分にも興味はあるけどっ! 梨上筋とか大臀筋越しにしっかり触ってみたいけど! 流石に最初からはハードルが高いしっ、私は上半身派だから大丈夫! だからまずはその素敵な上腕二頭筋を支える上肢帯筋を是非っ」


「瑠依! 何この子!?」

 多分一言も分からないながらも危険を感じたらしい竜胆が、悲鳴混じりに聞いてくる。何って? 言いたくないけど教えてやるわ。



「ソイツは崎原常葉——筋肉が大好きと高らかに歌って憚らない、重度の変態だ」



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