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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第2章 学校に行ったって帰りたい
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親戚や幼馴染みという立場は便利なようです

 2時間後。


「よーし、今日はこのくらいにしておこっか」

「崎原、感謝……数学結構解けるようになった気がする」

 辻山がほっとしたような声で常葉に礼を言うのが聞こえてくる。そういえばコイツ、数学は前回赤点すれすれだったっけな。

「いーえー。辻山君は教え甲斐あったよー。幾つかポイント押さえれば、直ぐ点取れると思う」

「い、いや、それが出来ればそもそも苦手とは言わないんだけどな……」

「目指せ、苦手克服♪」


 ……なんて微笑ましく聞こえなくもないやり取りを、俺は机に突っ伏して聞いていた。


「……で、生きてんのかそれ」

「んー? 瑠依の限界すれすれは見極めたから、大丈夫だと思うよー?」

「流石幼馴染み……」

「ふふー。でもちょっと意外、竜胆君が案外スタミナなかったねー」

「それな」


 ぐってりとしたまま、隣の竜胆を小突く。

「だってよ」

「うるせえ……瑠依にだけは言われたくねえ……」

 物凄く疲れた声を出して、ソファーにもたれている竜胆が小突き返してきた。


 知ってたけど、この幼馴染み鬼だ。勉強嫌いに3時間みっちり教師とか、何考えてるんだ。というか、3時間も勉強に睡眠奪われたとか、許せん。


「うん、瑠依はどうかと思うよー? 竜胆君はずうっと真面目に頑張ってたから、疲れちゃうのも分かるけどさ」

「伊巻は定期的にくだ巻いては竜胆に怒られて渋々やってたもんな……竜胆も大変な、こんなのが親戚だと」

「……うん、否定出来ない」

「ひっでー……」

 失礼極まりないけど、喚く元気もない。そんな様子に、常葉だけでなく辻山までもがけらけらと笑った。



 竜胆が高校に編入するに当たって、というか俺んちに住むに当たって、困ったのは周囲、特に家族への説明だ。だって、いきなり現れたら怪しまれるじゃん。

 「俺がそのまま説明したら間違いなく警察呼ばれる騒ぎになるぞ! 良いのか竜胆が困っても!?」「俺かよ」「ちったあてめえの頭で考えろ」「無理に決まってんだろ!」というやり取りでごねにごねたら、疾がさくっとうちの両親にばらしてくれおった。


 もう1度言う、疾はさくっとうちの両親に鬼狩りと竜胆のこと説明しおった。


 ぶっちゃけ俺の人生終わったと思ったんだけど、何故かお袋様はにこにこしてた。意味理解したのかは微妙。

 で、両親の協力も得て竜胆は俺の親戚扱いに。海外で生活していた竜胆が、両親の仕事の都合で帰国。けど直ぐに両親がまた別の国に異動することになっちまって、もういっそうちで預かって日本の高校に通わせようって話になった、という雑設定。

 いつの間にか用意されていたパスポートとか住所録に関しては……気にしない事にした。何かあったんだろ、多分。

 お袋様は常々「竜胆君が息子だったらねえ……本当に良い子だもの」なんて微妙に引っかかることを仰ってるので、まあ取り敢えずは上手くやれてると思う。



 あのドタバタ騒ぎを半ば魂の抜けた状態で回想している間に、常葉は紅茶を淹れて戻ってきた。礼を言って受けとる。

 琥珀色の水面にミルクと砂糖をざざっと入れると、常葉にからかわれた。

「相変わらずオコサマ舌ー」

「うっせ」

「瑠依……そんなに入れて甘くねえの?」

「苦いよかいーだろ、ほっとけよ」

 ぷいとそっぽをむいて紅茶をすする。うむ、甘い牛乳味おいし。


 ぐだぐだと雑談に入りかけたが、時刻は既に7時を過ぎてる。流石に常葉の両親も帰ってこようってもんだし、俺達も帰らないと夕飯抜かれる。高校生の男子にとって、夕飯抜きは死刑宣告だ。紅茶を飲み干した所で、俺達はよいせと腰を上げた。


「んじゃ、そろそろ帰るわ。じゃーな」

「お邪魔しました、﨑原さん」

「さんきゅなー」

 テキトーに——いや竜胆はやけに丁寧だけどな、相手は常葉だぞいらねえって——挨拶を口にした男3人に、常葉はぴっと手を上げた。


「はいっ、送っていきます!」

「来るな!」

「結構だ!」

 俺と辻原の声がシンクロする。そんな反応に文句を言ってくるのは、まだ察しない竜胆だ。


「瑠依、辻山……その言い方はないだろ。﨑原さん、もう遅いから見送りは良いよ。送った帰りが危ないだろ?」

 俺達を咎めて丁重に断る竜胆。そうだな、俺もそれがまともな対応だと思うよ。

「ふふー、心配ありがとう♪」


 常葉(コイツ)がまともならな。


「でも大丈夫! 今夜は瑠依ん家で、おご飯ご馳走になるつもりでーす。実は本日お呼ばれなのだ♪」

「おい待て常葉、そんなの聞いてないぞ!」

「だって言ってないもーん」

 にやにやと宣う常葉だが、俺は知ってる。呼んでるならお袋様は俺に、常葉を家に連れてくるよう釘を刺す。それがなかったという事は、いわゆる「突撃隣の晩ご飯」だ。


 ……厄介なことに、お袋様は大歓迎なんだよな、コイツの場合。


「あ、そういうことなのか。じゃあ一緒に——」

「やめろ竜胆、俺は今猛烈に嫌な予感がしてる。これは絶対に連れて行っちゃ駄目な奴だ!」

 常葉の言葉を疑うことなく信じる竜胆を遮り、俺はびしっと常葉を指差す。隣で辻山がうんうんと頷いた。


「伊巻の気持ちに今だけ同感する。けど、俺は無駄っぽいと見た」

「なんだと!?」

 思わず振り返ると、辻山があっさりと言う。

「だってほら、もう2人玄関向かってるし」

「げ」

 振り返ると、言葉通り竜胆と常葉が連れだって玄関へ向かってた。


「ちょい竜胆!?」

「早くしないと遅くなるから、さっさと行くぞー」

 叫んだけど、竜胆はさらっとそんな事を言ってスルー。くそう、日々主としての威厳が失せていく……!


「ま、諦めるしかないだろーな。頑張れ、瑠依」

「くそう……1人で真っ直ぐ帰りたい……」

 辻山の同情半分面白がり半分の応援に、俺はがっくりと項垂れた。


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