テスト勉強は苦手なんです
勉強って言葉を聞くだけで物凄く嫌な気分になるのは、絶対テストのせいだと思う。
新しいことをへえぇって知るのはそこそこおもしれーのに、それを試験に出すって聞くと途端やる気が無くなる。テストの為に勉強すると、何でこんな事してんだって気持ちになる。
ほら、勉強が嫌なのはテストのせいだ。俺悪くない。
「だから、そろそろ勉強やめさせてください。俺帰りたい」
「そろそろって、瑠依なーんにも終わってないじゃん。そのプリント終わらせてないの、瑠依だけだよ?」
「伊巻、まだぐだってんの? そろそろ観念しろよ」
俺の真っ当な訴えを、常葉と辻山が取り下げる。こいつら、竜胆と結託して逃亡しようとした俺を待ち伏せ、辻山が羽交い締めにして常葉の家まで運び込みやがった。
辻山はやっぱ後でジュース奢らせるとして、問題は常葉の作ったプリントだ。さっぱり分からず、一問も解けないまま1時間が経過している。ああ、俺の睡眠時間……。
「だって訳わかんねーし! 数学なんか出来なくたって将来困んねーよ!」
「そりゃ大いに同感だけど、諦めろって」
基本俺側の辻山までそんな事を言って、俺を追い詰めやがる。ひでえ。
「ほら、簡単な問題作ってあげたんだから早く解きなよー。sin30°はいくら?」
「30分の1?」
適当に答えた途端、3人とも黙り込んだ。
「…………伊巻。流石にそれは引く」
「え何、違った? 360分の30だから、あ15分の1か」
「……瑠依……、小学校からやり直そう?」
「なんで!?」
どん引きした顔の辻山と常葉。竜胆を振り返ると、会話も聞こえてないくらい真剣にプリントに取り組んでた。……何でそんなガチなんだよ、寂しいだろ。
「伊巻、どうやって高校入ったんだよ……基本の割り算も出来てないとか、はずいぞ」
「だってもう眠いんだよ! 俺はいい加減寝たい! 帰らせて!」
「もー……瑠依ってば、いっつもそうやって赤点になっちゃうんでしょ。どこかで頑張らないと、大学受験困るよ?」
「あーあーキコエナイっ!」
耳を塞いで現実逃避した俺に、常葉は溜息をついた。
「はあ……瑠依って、高校入ってから途端に勉強しなくなったよね。中学の時はまだましだったじゃんー」
「へえ、そうなんだ。飽きたとか?」
「飽きたは飽きた」
頷いて同意を示しつつ、常葉がひやっとすることを言いやがったので軽く睨む。常葉が小さく舌を出した。くそ、確信犯だコイツ。
「……よし。﨑原さん、これで良いのか?」
その時、今まで一言も話さなかった竜胆が声を上げた。常葉にプリントを差し出すのを見て、俺は愕然とする。
「おー、竜胆君なかなかのペースだったね! 今採点するから待っててー」
「ありがとう」
笑顔でお礼を言う竜胆に、俺と辻山は顔を見合わせた。
「……竜胆はえー。おい伊巻、見習え」
「辻山だって大差ないだろ。ひたすらシャーペンくるくるしてたの見てたぞ、そのほとんど白紙なプリントを隠しても無駄だからな!」
「手を付けてもいない伊巻が言うな!」
責任の擦り付け合いをしていた俺達は、続く常葉達のやり取りに固まる。
「竜胆君、そっちよろしくー」
「了解」
「「げ」」
同時に首を声の方に向けると、目の笑ってない竜胆がいた。
「さーて、瑠依。みっともねえ駄々こねまくってたけど、覚悟は良いか?」
「だよな!」
「待て辻山、俺だけ差し出すな卑怯者!?」
ぐいぐい背中を押す裏切り者の腕を掴んで壁にしようとする俺を、竜胆は容赦なく襟首掴んで持ち上げた。
「うわあっ、竜胆君力持ちー!」
「ちったあ真面目にやれ!!」
常葉のやや猫の剥がれかかった歓声と、竜胆の怒声が不協和音を奏で。
「ごふうっ」
遠慮容赦ない一撃が、俺の背中に入った。
「背中いたそ……ってか何で背中?」
「いや、最初は普通に拳固にしようと思ったけど、これ以上馬鹿になっても困るなと」
「あ、なるほど」
「竜胆君さっすがー♪」
他人事の様に盛り上がる3人を、床に突っ伏した俺は恨めしげに見上げる。せめてもの反撃にと、ぼそっと一言。
「竜胆……似てきてるのはどうかと思う」
「これに関しては見習おうと思ってる」
平然と——残りの2人に聞こえないよう——返された言葉に、俺はがっくりと項垂れた。ちくせう、味方がいねえ。