表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第2章 学校に行ったって帰りたい
12/116

テスト勉強は苦手なんです

 勉強って言葉を聞くだけで物凄く嫌な気分になるのは、絶対テストのせいだと思う。

 新しいことをへえぇって知るのはそこそこおもしれーのに、それを試験に出すって聞くと途端やる気が無くなる。テストの為に勉強すると、何でこんな事してんだって気持ちになる。


 ほら、勉強が嫌なのはテストのせいだ。俺悪くない。


「だから、そろそろ勉強やめさせてください。俺帰りたい」

「そろそろって、瑠依なーんにも終わってないじゃん。そのプリント終わらせてないの、瑠依だけだよ?」

「伊巻、まだぐだってんの? そろそろ観念しろよ」


 俺の真っ当な訴えを、常葉と辻山が取り下げる。こいつら、竜胆と結託して逃亡しようとした俺を待ち伏せ、辻山が羽交い締めにして常葉の家まで運び込みやがった。


 辻山はやっぱ後でジュース奢らせるとして、問題は常葉の作ったプリントだ。さっぱり分からず、一問も解けないまま1時間が経過している。ああ、俺の睡眠時間……。


「だって訳わかんねーし! 数学なんか出来なくたって将来困んねーよ!」

「そりゃ大いに同感だけど、諦めろって」

 基本俺側の辻山までそんな事を言って、俺を追い詰めやがる。ひでえ。

「ほら、簡単な問題作ってあげたんだから早く解きなよー。sin30°はいくら?」

「30分の1?」


 適当に答えた途端、3人とも黙り込んだ。


「…………伊巻。流石にそれは引く」

「え何、違った? 360分の30だから、あ15分の1か」

「……瑠依……、小学校からやり直そう?」

「なんで!?」


 どん引きした顔の辻山と常葉。竜胆を振り返ると、会話も聞こえてないくらい真剣にプリントに取り組んでた。……何でそんなガチなんだよ、寂しいだろ。


「伊巻、どうやって高校入ったんだよ……基本の割り算も出来てないとか、はずいぞ」

「だってもう眠いんだよ! 俺はいい加減寝たい! 帰らせて!」

「もー……瑠依ってば、いっつもそうやって赤点になっちゃうんでしょ。どこかで頑張らないと、大学受験困るよ?」

「あーあーキコエナイっ!」

 耳を塞いで現実逃避した俺に、常葉は溜息をついた。

「はあ……瑠依って、高校入ってから途端に勉強しなくなったよね。中学の時はまだましだったじゃんー」

「へえ、そうなんだ。飽きたとか?」

「飽きたは飽きた」


 頷いて同意を示しつつ、常葉がひやっとすることを言いやがったので軽く睨む。常葉が小さく舌を出した。くそ、確信犯だコイツ。


「……よし。﨑原さん、これで良いのか?」

 その時、今まで一言も話さなかった竜胆が声を上げた。常葉にプリントを差し出すのを見て、俺は愕然とする。

「おー、竜胆君なかなかのペースだったね! 今採点するから待っててー」

「ありがとう」

 笑顔でお礼を言う竜胆に、俺と辻山は顔を見合わせた。


「……竜胆はえー。おい伊巻、見習え」

「辻山だって大差ないだろ。ひたすらシャーペンくるくるしてたの見てたぞ、そのほとんど白紙なプリントを隠しても無駄だからな!」

「手を付けてもいない伊巻が言うな!」

 責任の擦り付け合いをしていた俺達は、続く常葉達のやり取りに固まる。


「竜胆君、そっちよろしくー」

「了解」


「「げ」」

 同時に首を声の方に向けると、目の笑ってない竜胆がいた。


「さーて、瑠依。みっともねえ駄々こねまくってたけど、覚悟は良いか?」

「だよな!」

「待て辻山、俺だけ差し出すな卑怯者!?」


 ぐいぐい背中を押す裏切り者の腕を掴んで壁にしようとする俺を、竜胆は容赦なく襟首掴んで持ち上げた。


「うわあっ、竜胆君力持ちー!」

「ちったあ真面目にやれ!!」


 常葉のやや猫の剥がれかかった歓声と、竜胆の怒声が不協和音を奏で。


「ごふうっ」


 遠慮容赦ない一撃が、俺の背中に入った。


「背中いたそ……ってか何で背中?」

「いや、最初は普通に拳固にしようと思ったけど、これ以上馬鹿になっても困るなと」

「あ、なるほど」

「竜胆君さっすがー♪」


 他人事の様に盛り上がる3人を、床に突っ伏した俺は恨めしげに見上げる。せめてもの反撃にと、ぼそっと一言。


「竜胆……似てきてるのはどうかと思う」

「これに関しては見習おうと思ってる」

 平然と——残りの2人に聞こえないよう——返された言葉に、俺はがっくりと項垂れた。ちくせう、味方がいねえ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ