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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第10章 新人教育とか帰りたい
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流石に反応に困ります

 その後しばらくダラダラと街中を巡回して、初回の鬼狩り研修は終わった。竜胆がやけに懇切丁寧に鬼狩りの仕事を説明してて、流石はおかんである。


「で? 瑠依は説明聞いて、分からねえ事とかなかったか?」

「へ? なんで俺?」


 菅野さん相手の説明だろ? 俺欠片も聞いてないよ?

 きょとんとした俺を見て、菅野さんが改めてゴミを見る目で睨んできた。


「……ほんっと、こんな奴が私の先輩なんてうんざり」

「はい!?」

「瑠依。いい加減に。しろ」

「痛いいたい!? 痛いよ竜胆!?」


 何でいきなり頭わし掴んでぎりぎりしてくるの竜胆さん! 理不尽過ぎて帰りたい!!


「……瑠依、本当にそろそろ自分の身の振り方を見直しなさい」

「何故に!?」


 報告の場だったせいでフレア様にまでそんな事を言われた。解せぬ。


「ほんっとうに、なんでそんな冴えない上にゴミみたいな奴が、私の先輩で教育係扱いなの? 完璧美少女の私を馬鹿にするのもいい加減にしてよね」

「ゴミ!?」

「教育係は実質ツェーンよ。そっちはおまけ」

「おまけ!?」


 だから俺に美少女美女に貶されて喜ぶ趣味はないんだって帰りたい! というかなんなんですかねこの扱い理不尽がすぎない!?


「まあ、それはどうでも良いとして」

「どうでもは良くないです帰りたい!」

「互いの戦闘スタイルについては、情報共有できたのかしら」


 フレア様に改めて問いかけられて、俺と竜胆は顔を見合わせた。


「そっちのぱっとしない奴は呪術でしょ? こっちは近接格闘って聞いたわ」


 今日は鬼が出なかったから実際には見ていないけど、と菅野さんが答えた。淀みない返事に満足げに頷き、フレア様は俺らに目を向けた。


「で?」

「そういや聞き流したっきりじゃね?」


 呪術組んでる間にやたら長い前振りだけ聞かされた記憶あるけど、中身聞いてないなーと気付く。そういや、あの後の巡回は瘴気の淀みもあんまなくて、要チェックポイントの説明して終わったんだよな。

 そう思って竜胆を振り返ったけど、竜胆が答えるより先、フレア様に思い切り哀れむような声を掛けられた。


「聞き流したって……瑠依あなた、数時間前の説明すら覚えていられないくらい残念な頭なの?」

「違わい!? 聞く機会を逃しただけです!」

「あー、まあ確かにタイミングは悪かったな……」

「何よ、その男が私の言葉に耳を傾けることすらしない無礼者ってことでしょ」


 菅野さんのこの絶対的な自信については、疾と別ベクトルとは言え鋼メンタルが過ぎると思います。


「で? 結局なんなんだ?」


 このままじゃ埒が明かないと思ったらしい竜胆が尋ねると、菅野さんが堂々と胸を張った。


「勿論、この超絶美少女に相応しい、スマートかつ高火力の──」

「丁度良いわ、闘技場借りてあるから実践見せてきなさい。いちいち貴女の説明に何度も付き合わされるだなんてごめんよ」


 高らかな前振りをやっぱりバッサリと刈り取られ、菅野さんが顔を赤らめたが、フレア様は当然のようにガン無視で立ち上がり、俺らを先導するように歩き出した。……そういやウチの局長サマも鋼メンタルでしたね、俺の周りこんなんばっかでホント帰りたい。




 というわけでやってきました、局長名義で借りてた闘技場。


 ……なんか勤務外労働に加えて更に残業まで加わってない?


「よし帰ろう」

「帰らないっつの」

「……さっきの今でそんな事を言うだなんて、本当に頭が悪いのね?」

「瑠依……貴方……」


 竜胆に首根っこ掴まれるわ、フレア様と菅野さんに揃って冷たい目を向けられるわ、帰りたくなるのは当たり前じゃないか。俺別におかしかないぞ、普通だぞ。


「はあ……ったく。やることさっさとやったほうが早く終わって帰れるだろ。菅野さんの武器はなんなんだ?」

「これよ!」


 反っくり返るレベルで胸を張った菅野さんが取り出したのは、なんかトゲトゲした鉄球から鎖が伸びて、指揮棒みたいなのに繋がった奴。なんだっけ、ふれ……ちぇ……


「チェーンフレイルか」

「あ、そうだそれだ」


 ラノベで読んだわ、そんな名前だ。竜胆の意外そうな呟きで答えが分かり満足した俺は、次いではてと首を傾げた。


「……スマート?」

 むしろ物騒じゃね? これぶん回して鬼ぶっ飛ばすわけだろ? やだおっかない。


「そんな事無いわよ。鬼みたいなドロドロ気色の悪いものに近付き過ぎずにかっ飛ばせるんだから」

「お、おう」


 やっぱなんかおっかなくね? 帰りたい。


「……あー。つまり、それに神力纏わせて鬼を殴る前衛職っつうことか?」

「そうよ!」


 俺と同意見らしく微妙な顔をした竜胆が聞くと、菅野さんは更にふんぞり返った。そろそろひっくり返って転ぶんじゃね?


「あと、鎖を利用して最前線で戦うやつの援護も可能よね! 流石私!!」

「そっか……あー……」


 テンションの上がる菅野さんとは真逆に、竜胆がなんかどんどん困り顔になっていく。どした、おかん。帰りたいの?


「えっと、それ、実戦で使ったことはあるのか?」

「……ま、まだないわよ! 私新人よ!!」


 あれ。なんか、菅野さんからも帰りたそうなオーラが。

 はてどうしたと首を傾げたところで、しばらくだんまりだったフレア様が深々と溜息をついて口を挟んできた。


「とりあえず、使うところを見せなさいな。とっとと白黒付けなさい」

「うっ……」

「言っておくけど、誤魔化すのは認めないわよ」

「わっ、分かってます!」


 さっきまでのふんぞり返りがしゅるしゅると元に戻った菅野さんが、頬を膨らませながらチェーンフレイルを構えた。


「瑠依、貴方は的役よ」

「はい!?」

「結界張れば問題ないでしょう。早くなさい」


 人間を的にするという鬼畜この上ない発想をごく普通の顔で提案してくるフレア様がおっかないです。もうヤダ、なんで俺の周りの人達、理不尽と鬼畜を煮詰めた人外ばっかなの?


「ちなみに断るなら、今から貴方にこれを1から勉強してもらうわ」

「結界はりまっす!」


 なんか信じられないぐらいぶっとい本をちらつかされたオレは、潔く的になる事を選んだ。勉強するくらいなら結界頑張るやい。


「えーと、取り敢えずこんなんでいっか」

「……結界の出来だけは良いのよねえ」

「本当にな……」

「……っ」


 だから、俺、呪術の出来自体は鬼狩りの中でも優秀なんだよ? 周りがチートなだけなんだって、その残念そうな目やめよう? 帰るよ?


「……まあいいわ。さっさとやりなさい」

「い、いいわ! さあ見なさい、これぞ私の……っきゃあ!!」

「……はい?」

「あー……」



 …………うん。そうだな。


 そういや菅野さん、体育じゃなかなか愉快なすっ転び方してたわ。当然のように疾が誘導しているとは言え、あの芸術的なシュートミスとかさ、思い出したら納得だ。そりゃ竜胆が微妙な顔してるわけだよ。


 とはいえ、まあ、うん。


 ありとあらゆる疾の外道行為にどん引きしつつツッコミ入れていた俺でも、だ。



 ……自分が振り翳した鎖に足巻き付けてすっ転んで、目標を失いながらも手から零れた鉄球がゴンッと頭に落ちるとかいう狙っても出来なさそうなドジへのコメントなんて、思い付かないから帰って良い?


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