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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第10章 新人教育とか帰りたい
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仕事したのに扱いが悪いです

 駄弁ってるうちに、瘴気が吹きだまりやすいポイントその一に辿り着いた。


「ここは……三叉路?」

「そう、瘴気が一番淀みやすい場所だ。大体この辺って、対策としてカミが祀られてることが多いんだけどな……土地開発だったり社の手入れをしていなかったりで、こんな風に無法地帯になっちまうことがある」


 菅野さんに竜胆がめっちゃ丁寧な説明をする。俺に説明する時もそのくらい優しくて良いと思うんだ。少なくとも、拳固は帰りたくなるだけです。


「で、どうするの? 浄化すればいいわけ?」

「うーん……鬼が発生しかねねえレベルまで淀んでたら必ず浄化する。無闇矢鱈に陰陽のバランス崩すのも良くねえってんで、毎回までは浄化しねえんだ」

「そこは土着の術者さんにお任せでいーんだぞ」


 陰陽のバランスとは何ぞやと思ったけど、そもそも俺ら鬼狩りには要らん知識なのでさっくりと告げてみる。けど、菅野さんは聞こえなかったような素振りで竜胆にしか目を向けない。


「ふーん。このくらいだとどうするの?」

「そうだなあ……ま、やっといて悪くねえっつー感じだな。瑠依、よろしく」

「えー……」


 なんか仕事が回ってきた。やだ帰りたい。


「……瑠依」

「え、この地味男がやるの? 貴方は?」

「竜胆な。俺は近距離での戦闘がメインだから、後方支援は瑠依の仕事。こういう浄化作業もお手の物だ。なあ、瑠依」

「……帰りた」


 ぐだりかけた俺の言葉を最後まで聞かず竜胆が、ぐっと拳を握った。


「帰りたいけどやりまっす!」

「ったく……」

「びっくりするくらいやる気ないのね……」


 菅野さんがめっさ冷え切った目で睨んでくるけど、伊巻家から帰りたいを抜いたら何も残らないぞ。帰る為に生きていると言っても過言じゃないからな!


 なんて内心で胸を張りながら──最近口に出すと竜胆にごっつんされるから内心だけ、なんでそんなトコ疾に似るかな帰りたい──、俺はリュックからテキトーに取り出した鉛筆だのロープだのをせいやっとその辺にばらまいた。


「え、なにしてんの?」

「準備。俺の神力は呪術として発動するから、道具必須なんだよな。めんどい」


 実際、疾みたく銃ぶっぱなすだけで鬼狩れるとかマジ羨ましい。なんかやたら便利なのはいいんだけど呪いって響きからしておっかないし、何よりこのちまちました作業してるとホント帰りたくなる。


「……神力なのに呪術? 何それ、変なの」

「あーよく言われた」


 並べた呪術具に意味づけしつつ、俺はてきとーに相槌を打つ。うん、マジでよく言われた。なんで冥王様の力もらってんのに呪うんだよとか、スプラッタが趣味かよとか。そんなおっかない趣味なんかないわ、俺の趣味はオフトゥンといちゃいちゃすることだ! つったらなんかどん引きされたんだけど、なんでだったんだろ?


「そーいや、菅野さんの媒体って何?」

「私? 私は勿論! この美しい美貌にぴったり似合う、スマートかつ高火力で──」

「呪術に集中したいから手短にプリーズ」

「……なんかあんたに言われるとすっごいむかつく」

「あーはいはい」


 菅野さんの声がぶすくれたけど、呪術の作業中なのでスルー。いやホント、地味に面倒臭いんだってこれ。間違うとどかんだし。


「……瑠依があしらってるって滅茶苦茶違和感だな」

「竜胆。俺の幼馴染みは誰だ?」

「……ああ、うん」


 何とも言えない顔で頷いている竜胆よ、忘れるんじゃない。あの変態は会えば必ずあの電波的変態理論を垂れ流してくるんだぞ。まともに聞いてたら帰りたくなるから、せめて気持ちだけでも帰る為にスルースキルは完璧だっての。


「もう! とにかく、私の媒体は私に相応しくとっても美しいの! あんたも見ればひれ伏すこと間違いなしなんだから!」

「あーさいですか」

「だからっ……少しは私の話を聞きなさいよ!」


 もう! と喚く菅野さん。常葉(ヘンタイ)とはまた違った帰りたさがある、帰りたい。

 こーなったらさっさと呪術を完成させて帰ろう……と意味づけ作業に集中することしばし、完成させた呪術を起動した。


「うわ、血文字じゃない。美しくないわね」

「おっかないよなー、なんでこーなんだろ」


 あからさまに嫌そうな声を上げた菅野さんに同意しつつ、俺は血文字を操って瘴気を払っていく。幸いというか鬼が今直ぐ出るほどには酷くなかったお陰で、割と直ぐに淀んだ空気が消え去った。


「……こんなにあっさり……」

「うぇ?」

「なんでもないわ!」


 さー終わった帰ろうと立ち上がる音に紛れた菅野さんの声に聞き返すも、なんか凄い剣幕で言い返された。帰りたい。……てか、瘴気祓ったんだから今晩の仕事終わりじゃね?


「よし、帰ろう」

「まだ見回りの途中だからな、瑠依」

「うぇえ……帰りたいぃ……」


 回れ右した瞬間に竜胆に首根っこ掴まれた俺がいつものように呻くと、菅野さんがうんざりしたような溜息をついた。


「なんで、こんなうだつの上がらない男が私の先輩なのよ……」

「……言うだけ無駄だから、諦めろって」



 なんで菅野さんと竜胆が距離縮めた感じで俺をディスってるんだろうね、当たり前の事しか言ってないのに。




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