改めて考えてみると謎です
あの後、暫くフレア様の愚痴メインのお説教を聞かされた俺達は、そのまま巡回に行かされた。……菅野さんを連れて。
「帰りたい」
「うるせえ」
「普通に帰りたいわ! 今日新月ですらないじゃんどういうこと!?」
「新人研修の初回は慣れるためだから、鬼が必ず出る新月は避ける。基本だっつの」
「仕事増えてるじゃん帰りたい!!」
何でこんなことになったのかなあ本当に!
というか、俺らどっちかというとバリバリの新参者だぞ。1年前に鬼狩りになった時、新人とか久々だなあって言われたのちゃんと覚えてるし。……帰れないのを喜ばれてふて腐れた俺、悪くない。
そんな下っ端に新人研修つるっと丸投げするの、ひどくね? 教育するならベテランさんのがよくね??
「私だって、あんたみたいな地味なヤツに面倒見られるなんてごめんよ」
と、菅野さんがつんとした感じで割って入ってきた。初めて見たときの愛らしさはどこかに不法投棄してきたらしく、俺らとの巡回開始からずっとこんな感じでつんけんしている。……なんで俺の周りには擬態を解いて残念な姿見せつけてくる人ばっかなんですかね、帰りたい。
「あ、でもそっちの男の子は及第点かな?」
「はは……菅野さんは、えっとなんつーか、顔に拘るのか?」
おかんよ、言葉選ぶ必要なんて無いと思うぞ。普通に面食いのナルシストだと思う、この人。
「当たり前でしょ。私は可愛いんだから、ちやほやされて当たり前。どうせなら顔の良い男にちやほやされたいじゃない。それを、何なのよ波瀬は!」
……ここまで自身満タンに痛い発言嚙ますナルシスト、俺どん引きです。関わりたくない帰りたい。
「あ、そうだ」
竜胆がちょっと慌てた声を出す。おやなんぞと首を傾げる俺と菅野さんにちょっと頭の痛そうな顔をした後、言葉を選び選び続けた。
「えっと、今日先に帰っちまった奴な」
「波瀬でしょ?」
「うん、あの……鬼狩りの仕事中は、そう呼ぶのなしな」
「は? なんで?」
思い切り胡乱げな顔をした菅野さんを余所に、俺はちょびっと顔を引き攣らせた。あ、やっべ忘れてたな。
「鬼狩りの名前に関するルール、覚えてるか?」
「……名字か名前かどっちか名乗れ、だっけ。魔術師とかに呪われないため?」
「うん、取り敢えずその認識で良いよ」
「おお、よく勉強してるなー」
「…………」
「……」
何故黙る。普通に褒めただけじゃん、俺成り立ての頃知らなかったよ?
「ねえ、なんであいつが教育係なの?」
「……多分ほぼ間違いなく、俺が知識関連教えられるからだと思う」
「あー、なるほど」
納得。確かに竜胆はおかんで歩く生き字引だもんな! 下手なベテランよりずっと詳しいよな。……あれ。
「じゃあ俺いなくてよくね?」
竜胆が菅野さんの面倒見ながら巡回すれば万事オッケー。俺はおうちでオフトゥンぬくぬくできる。うむ、完璧じゃね?
名案じゃないかとほくほくした気分で見上げると、竜胆が頭を抱え、菅野さんはなんだかゴミを見るような目を向けていた。え、俺そんな目で見られて喜ぶ趣味ないよ?
「……ともかく。あいつは名前を名乗るようにしてんだ。だから、学校では名字で、鬼狩りでは名前で呼ぶようにしてくれ。あーあと……多分、どこかの場面で鬼狩り以外の術者と関わる場面があると思うんだけど、そん時はどっちも呼ばない方がいい」
「というか呼ぶと死亡フラグです」
「……何よそれ?」
ものっそい怪訝な顔をされたけど、俺はマジです。この際スルーされたのは許しちゃうぞ、菅野さんの説得に回ろうじゃないか。……納得させておかないと確実に蹴られるの俺な気がするんだ、理不尽すぎる。
「何か知らんけど、名前知られたくないっぽい。鬼狩りのルールはルールだからいちおう俺ら知ってるけど。……迂闊に魔術師にばらして見ろ、死ぬより酷い目に遭うの確実。帰りたい」
「……ねえ、一応聞くけどアイツ味方よね?」
「まあ、うん……言いたい事は分かるけど、優秀だから」
ふいと顔を背けながら、それでも精一杯フォローする竜胆マジおかん。俺もう疾に関して一切の庇う言葉思い浮かばないぞ。
「……まあ、いいや。取り敢えず覚えておくわ。それで、えっと……あれ? 結局アイツの名前って、何よ」
「へ?」
「え……あー」
思わず素っ頓狂な声を出しちゃった俺と違って、竜胆はなんか困った顔で頭をかいた。……そういや、学校でも疾の名前知ってんのいなかったな?
「……そうなると、これ勝手に教えていいのか?」
「めっちゃ微妙」
「何よそれ? 2人が知ってるなら良いじゃない」
「「いやー……」」
俺と竜胆の声がぴったり揃った。おお、なんか珍しくね?
「俺、パス。地獄に蹴り込まれる気しかしない、帰りたい」
「ああ、うん……やっぱ怒りそうだよなあ……」
「微妙な以上は絶対避けた方がいい、帰れなくなったらやだ。うっかり間違ってたら死亡フラグだぞ?」
「だな……」
うん、今更だけどさ。
「……ほんと、アイツなんなの??」
「それな」
名前ひとつでここまでしなきゃなんねー疾って、ホントよくわっかんねえよな。