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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第10章 新人教育とか帰りたい
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新人研修を押しつけられそうです

「新人教育よ」


 第三者の乱入で少し頭が冷えたらしいフレア様が、そのおっきな胸の下で腕を組んで説明してくれた。……別に、掬い上げられた時の揺れに気が散ってなんかいないぞ。


「貴方達もあったでしょう? 一通りの研修が終わった後、実際の鬼狩り業務におけるイロハを学ぶ場よ。基本は担当が被りそうな地域で先輩について回るわね」

「アメリカの担当者、いたんじゃねーんすか」


 竜胆が尤もな疑問を投げ掛けると、フレア様が肩をすくめた。


「勿論いるにはいるけれど。その子は元々日本人だし、家族の都合で日本に来る予定だったの。だから、日本の鬼狩りにって」

「その条件なら他にいるだろうが。見え透いた建前並べるんじゃねえ」

「……。最近、日本で鬼の異常な活動が多いと、鬼狩り局でも問題になっているのよ。少しでも人員を増やしたいけれど、言語の壁が厚いから」

「下らない建前なら良いとでも思ったのか? 残念な発想もあったもんだな」

「…………」


「帰ろう」

「あのなあ瑠依……」

「竜胆、今俺達に出来るのはここで黙って流れ弾を待ち受けるか、帰るかの二択だぞ? それとも何、あの舌戦に加わりたい?」

「……」


 おかんよ、そろそろ現実を見よう。鬼よりおっかないうちの相棒、本格的にフレア様煽りに入ってるだろ? このままバトルになって俺ら盾にされるの目に見えてるじゃん? 

 帰るに決まってるだろ、俺にあるのは帰宅願望であって自滅願望ではない。棺桶はオフトゥンに入らないのです。


「喋ってる……やっぱり、聞き違いじゃない……」

「「…………」」


 呆然と呟いてる菅野さんの言葉に、俺と竜胆は顔を見合わせて何も言わない事に決めた。まあ、気持ちは分かる。俺も最初は結構びびった。

 今はその鬼畜ぶりにどん引きする日々だけどな! ……帰りたい。


 バンッ! と机を乱暴に叩く音がする。痺れを切らしたらしいフレア様が、きつく疾を睨み付けた。


「貴方達が! 好き勝手やらかすせいでしょう!?」

「え、俺も!?」


 疾だけかと思いきや、俺や竜胆にまでそのおっかない視線が向けられていた。帰りたい。


「ほお、面白い言い訳が出て来たじゃねえの」


 そして疾さん、お願いそろそろ煽るのやめて。これ確実に俺が八つ当たられるやつだって、帰れなくなる。


「鬼狩りの業務はサボる! そのくせ未然防止率がいいから数字だけは良い! 挙げ句に人鬼狩りでは冥官様の足を引っ張ったそうじゃないの!」


「「…………」」

「え、何この沈黙」


 あれ、おかしい。この流れで疾から怒濤の反撃がないのはめちゃくちゃおかしい。普通ここからイイ笑顔でぶったたき潰しにかかるトコだ。……普通がおかしいのは疾だからです、今更です帰りたい。


 なのに何故に、無言で俺に視線を当て続けるわけ? え、しかも竜胆まで俺見てるし。


「……竜胆。普段の口癖を奪って悪いが……何で俺、こんな救いようのない阿呆と鬼狩りの仕事させられてんだ?」

「口癖になってる俺から言わせてもらうと、それ言うだけ虚しくなるぞ……」

「……その通りだな」

「急に何!?」


 何で当たり前のように唐突に俺のディスりが始まるかな帰りたい! あと何回でも言うけど、疾が鬼狩りやってるのは俺のせいじゃなくて冥官のせいじゃん!!


「貴方達の業績を見た上から、業務態度について疑問の声が上がっているのよ。だから今回、新人教育という形で貢献なさい、というわけ」


 俺らの……というか、疾の反論が止まったおかげで余裕を取り戻したらしいフレア様が、自信たっぷりにおっしゃる。


「へえ、そうか。なるほどな」

「は!?」


 と思いきや、まさかのまさかすぎる疾の相槌にぎょっとした。え、待って何、隕石でも降るの?


「なら話は早いな。業務態度に問題おおありのそこの馬鹿が、そっちのポンコツの面倒をみるっつーわけだ。アホはアホ同士、仲良くやればいいんじゃねーの。俺に関わらねえ範囲なら好きにしろよ」

「はい!?」


 訂正、疾はいつでも疾だった。流石の鬼畜ぶりです、帰りたい。


「待ってどうしてそうなる!?」

「どうしてと言える時点でもはやてめーが救いようのない馬鹿である事は証明されたわけだが。女狐の発言思い出してじっくり考えて見ろ、100%てめーの責任だろうが」

「そん……なこと……」


 サボり……はしてない、竜胆に無理矢理引き摺って仕事させられるから。

 未然防止率……良いよな、変態的情報収集力を持つ常葉(一般人)のおかげで。

 人鬼狩りで足……めっちゃ引っ張ったな! 怪我までさせたな、冥官が困ったかは知らないけど。


 …………うん。そんなことあるかもしれない。


「というわけで。ま、せいぜい無い知識でポンコツの指導でもしてみたらどうだ? なに、使えない鬼狩りがもう1人増えるだけだ。足を引っ張るばかりの役立たずを増やしたいという女狐の要望に全力で応えてやるといいさ」


 めちゃくちゃイイ笑顔で言い放った疾の素敵すぎる暴言に、場が思い切り冷え付いた。


 ……帰りたい。めっちゃくちゃ帰りたい。


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