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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第2章 学校に行ったって帰りたい
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試験があろうと寝たいんです

「あ、そうだ。おーい辻山、掲示板ってどこ?」

 昼食後の授業という眠すぎる代物を乗り越えた後の休み時間、竜胆が辻山に聞いた。辻山が身体をひねって振り返る。

「何の掲示板?」

「なんだっけ、定期試験の範囲? が出てるって奴」


 途端、辻山が俺を見た。さっと目を逸らす。


「……悪い竜胆、伊巻に任せた俺達が馬鹿だった。もっと早く教えてやれば良かったよ」

「うん、俺も昨日そんな話を聞いてちょっと血の気が引いたし、この馬鹿恨んだ」

「なあ竜胆、最近俺の扱い酷くね?」

「瑠依、自業自得って知ってるか?」

 軽くぺしっとされた額を押さえ、俺は胸を張った。

「試験範囲を知らなくても何とかなるもんだぞ、竜胆! 俺を見れば分かるだろう!」

「……赤点は追試と補講って聞いたぞ?」

「竜胆、そこのアホの言う事は信じるな」

「分かった」


 俺の有り難い教えを思い切りスルーして、竜胆は辻山に向き直った。


「前の黒板横の掲示板に全部書いてある。俺がメモったの見る?」

「お、助かる。ありがとな」

 ほっとしたように笑う気配がして、竜胆が辻山からメモを受けとる。ちょうどその時、遠くから竜胆に声がかかった。竜胆が応じ、手早くメモを写し終えるとそっちに向かう。


「……しっかし、良い奴だよなあ」

 竜胆の背中を眺めながら、感心するように辻山が言う。

「人間出来てるっつーの? 誰にでも感じ良いし、直ぐお礼言うし。編入生がひと月で馴染むのって、凄くね?」

「だよねー。知ってる瑠依、竜胆君のこと気になるって女子、結構いるんだよー?」

 当たり前のように会話に乱入してきた常葉の情報に、思わず振り返って胡乱な目をした俺、悪くない。

「常葉……その女子の人数や名前までは知らなくて良いからな?」

「ふふん。安心して瑠依、瑠依を好きって子は皆無だよ♪」

「誰がそんな事を言えと言った! ていうかマジかひでえ!?」

 ぎゃあと叫ぶも、声は抑えめ。いやだって、前にうるさくしすぎて後で痛い目遭ったし。


「……その点、正反対だよな」

 こそっと呟かれた言葉に、背筋が凍る。コイツ、怖いもの知らずか。


「え……と、辻山くーん……?」

「だってそうだろ? 顔はともかく、竜胆と比べると天と地というか、間反対というか。どんな根性してんだろって思うじゃんか。そろそろ派閥出来てそうだけど、その辺はどうなんだ、崎原」


 そおっと囁いて警告したのに、声は十分小さいだろと言わんばかりの無頓着さで辻山が言い募る。いや確かに俺ならぜってー聞こえないけど、それはとっても甘い……気付け!


「んーどうかなー? なーいしょ」

「ちえっ」

 にこにこと誤魔化した常葉を、俺は寧ろ勇者を見る目で眺めた。

「無謀者は最強……」

「あはっ♪ 何のことー瑠依?」

「……盾にしてでも生き延びてやる……」


 分かってて笑顔な常葉を恨めしげに見上げたその時、トン、と小さな音が聞こえて固まる。はは、やっぱり聞こえてらっしゃる……。

 靴を机にぶつける微かな音を、この騒々しい教室できっちり聞かせてくるとか何のスキルだ。ちょうど帰って来ていた竜胆が苦笑気味に俺を見てるから、こっちも聞き取ってたらしい。


「……辻山」

「何だ伊巻?」

「……後でちょっと、ジュースでも奢れ」

「はあっ?」

 何でそんな事って顔するけど、当たり前だ。俺はこの後、お前の分まで酷い目に遭うんだぞ。


「瑠依ー、今の瑠依には別に頼むべき事があると思うよ」

「へ?」

「竜胆君も一緒に、お・べ・ん・きょ・う♪」

「うげっ」


 思わず蛙の潰れたような声を上げる。やめてその単語嫌い。


「あ、それ助かる。どう勉強すれば良いのか分かんなかったから」

 しかも、ほっとしたように竜胆が応じやがった。

「そうか竜胆行くのか、じゃあ俺は帰るからお前らで」

「却下」

 3人分の声が見事に揃う。何という包囲網、やめろ俺は帰って寝るんだ。


「瑠依が一番勉強必要だよー? 竜胆君、編入試験受かるくらいには頭良いんだから」

 常葉が指を1本立てて言うと、辻山も真顔で頷く。

「確か伊巻、前回全教科赤点だったろ? 補講の時間割組むの、教師が困ってたって聞いたぞ? 大体みんな、1つか2つだしな」

 余計な情報をつるっと吐いた辻山を思わずきゅっとしかけた手を掴まれ、竜胆が溜息混じりに言う。

「瑠依……、菫さんに顔向けできるよう、せめて1つでも赤点回避する努力しようぜ」

 三方から言いたい放題の彼らに向き直った俺は、きっぱりと言った。


「断る! ノーと言える日本人な俺カッコイイ!」


「じゃあ、放課後私の家でどうー? リビング広いし、お母さん今日は外出してるから」

「おっけー。崎原いると俺も捗るわ」

「世話になるけど、よろしくな」


「人の話聞けよ!?」

 ガン無視で予定を決定しようとする3人に思わず喚くと、竜胆ががしっと頭を掴んだ。

「瑠依? その阿呆な発言がなくなるまで、きっちり勉強しろ?」

「そうだよー瑠依、私も菫さんに顔向けできないしー」

「いやだあああ!? 俺は家に帰って寝るんだ!?」

「テスト期間くらい勉強しろよ、伊巻」


 非道な連中に囲まれて、俺の放課後は奪われることとなった。


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