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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第10章 新人教育とか帰りたい
109/116

しかもチートな人外なんです

 結論から言うと。

 クラスメイトが、順調にドン引きしつつあった。

 誰にって? そんなん、1人しかいないだろ。


「つっ……次こそ、次こそ勝ってやるんだからぁ……!」

「す、菅野さん……元気出そ?」

「ほら、もうあんまり気にしない方が……」


 面倒見のいい女子生徒が、涙目の菅野さんをオロオロしながらも一生懸命なだめて、もとい慰めていた。


「……メンタルつえー」

「俺ならとっくに折れてるぞあれ……」

「頑張るなー……」

「……全力で、空回りしてるけどな」


 野郎組は、同情半分呆れ半分でそんな菅野さんを眺めている。もはや転入当時の「可愛い子が入ってきたぞ!」的盛り上がり感はゼロ、寧ろ残念な子を眺める眼差しだ。……ちやほやされたいって最初の目標どこ行ったんだろう?


「しっかし、思った以上に……こう、あれだな」


 そんなやりとりを横目に弁当を食う俺らのそばで、辻山がしみじみと言った。


「えげつないほど平常運転で叩き潰すのな、波瀬」

「さっすが波瀬君だよね♪」


 頭のネジが外れたような常葉の感想はともかく、辻山の言葉が的確にこの3日間を示していた。



 うん。なんとなく、果たし状の扱いで予測はついてたけども。まさかマジで、ガン無視続けたまま果たし合いで叩き潰しにかかるとは、疾の鬼畜度半端ない帰りたい。


 ──化学。

 互いに隣と交換し合っての自己採点という担任の配慮ゼロな指示の結果、疾と菅野さんで交換し合って採点。菅野さんの引きつった顔を見れば大体結果は読めた。


 疾、当たり前のように満点。

 菅野さん、容赦なくダメ出しのペケをつけ倒され、75点。


 てっきり採点にケチをつけるかと思われた菅野さんだったけど、普通に間違っていたらしく顔を真っ赤にして俯いていた。


 ──国語。

 これまたタイミングよく行われた古文単語テスト。


 疾、満点。

 菅野さん、50点。


 ……うん。まあ帰国子女にこれはきつい。どんまい。


 ──家庭科。

 何故か前日になって急に告知され、調理実習で作らされたオムライス。


 ……あれは悲劇だった。俺らは何も見ていない、うん。

 とりあえず、泣きながら黒焦げの物体Aを頬張っていた菅野さんは、間違いなく帰りたかったに違いない。


 ──そして、あれだけ自信満々に喧嘩をふっかけていた、体育は。


「……何で、運動で勝負しようと思ったの?」

「だって……っ、イケメンが実は運動できないってあるあるでしょ!!」

「菅野ちゃん自身がそうだからって、みんながそうとは限らないよ……?」


 男女混合のバスケの試合で意気揚々とボールめがけて突進し、そのまま勢い余って壁に衝突した菅野さんをちらとも見ずにスリーポイント決めた疾は、クラスメイトにドン引きの視線を浴びまくった。

 菅野さんはその後も懸命に果敢に突撃をしていたけど、フェイクもなしに避けられてはすっころび、ボールに飛びついてはひっくり返り、やっとパスをもらってシュートを決めようとすればゴール板にボールが跳ね返って顔面で受け止め……最後のある意味すごくね?


 そしてその間、疾は一度も菅野さんの顔を見ず、声をかけられても無反応のまま、すべての勝負に勝ち越しするというえげつなさ。ほんと、あいつのメンタルどーなってんだろ。



「でもよ、実際問題、波瀬にスペックで喧嘩売るって、相当無理ゲーじゃね?」


 少なくとも俺はヤダ、と辻山は弁当を頬張りながら言った。


「見た目はアレだし、全教科満点だし、スポーツも万能。対人関係は壊滅してるはずなのにモテまくりで、何、ちゃっかり料理まで出来るってか? 勝負しようって気も起きねえんだけど」

「……そだな」


 改めて羅列されると、そうだな。俺の中ではあくまで鬼畜で毒舌がえげつないおっかないやつとしか認識できなくなってるけどな。疾の中身を知ってるやつの同意求む。


 なお、疾が作ったオムライスは普通に店で売れそうな出来映えでした。……あいつが料理する様におっそろしく違和感があったけどな。なんかこう、ぞわっとした。


「私は久々に疾君がバリバリにバスケやってるところを見れて、楽しかったけどねー♪」

「……あっそ」

「崎原は平常運転で羨ましいよ……」


 俺らは世にも恐ろしいえげつない行為に食傷気味だっつーのにな。


「うーん……」

「どした? 竜胆」


 首を傾げて難しい顔をしている竜胆に声をかける。何、さしものおかんも帰りたくなった?


「いや……なんつーか。あれだけ無視し続けてるわけだけど、波瀬はどう思ってんのかなってよ」

「あー……」


 さすが、おかんはおかんだった。ここで疾を気にするとか普通思いつかん。


「どーなんだろ。あいつマジで、何考えてるかわっかんねーよな」

「無反応だもんねー」

「少なくとも楽しそうではないけどな」


 ……甘いぞ、辻山。俺は知ってる、あいつ敵を叩き潰すのを趣味とか言っちゃうくらいやばい奴だって。いつも通りの成績とはいえ、勝負自体はそこそこ意識してるぞあれ。

 何でそう思うのかって? 俺、見たもん。バスケの時、敢えて隙見せて突っ込ませて絶妙なタイミングで躱したの。あれ絶対菅野さんの運動音痴だけじゃないぞ、確実に転ばすような足運びしてた。何でわかるのかって? ……何度もすっ転ばされてるからだよ畜生。


「……」

「ん、何?」


 ふと気づくと、竜胆がもの言いたげな目で俺を見下ろしていた。唐揚げを口に放り込みながら聞く俺に、竜胆がはあっと溜息をつく。


「いや……瑠衣に期待するだけ無駄だよな」

「ふぁ!?」

「竜胆。身内に淡い期待をかけたくなる気持ちはわかるけどな、諦めろって。伊巻は伊巻だぞ、波瀬みたいには絶対なんねえって」

「そうだよー竜胆君。瑠衣はお馬鹿さんのへなちょこだよ?」

「何なんだよ!?」


 急に俺をディスり出す理由がわからない! そういういじめみたいな真似されると帰りたくなるだろ帰りたい!!


「はあ……本当に、何でこれが俺の親戚なんだろ……」

「理不尽!?」


 俺の魂の絶叫は、予鈴のチャイムにかき消された。


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