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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第10章 新人教育とか帰りたい
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どっちもメンタル強すぎます

 俺の予想は外れ、疾はちゃんと教室に戻ってきた。予鈴の後、ギリギリまで疾の机で粘っていた菅野さんが、クラスメイトに促されて渋々と着席した数秒後、本鈴滑り込みで、だ。

 菅野さんは当然疾にくってかかろうとしたものの、すぐに先生が教室に入ってきたもんだから、歯ぎしりしながら引き下がった。

 その様子から、やっぱ授業後からまたものすごい勢いで絡んでくるんだろうなーと思ったし、実際にその通りだったんだが。


「……あいつ、ほんとすげーな」

「一周回って感心する」

「あれはメンタル強ぇわ……」


 クラスの男子連中が顔を引きつらせて頷き合う。それを見た竜胆が、なんとも言えない顔をした。てか、俺もだけど。


 ……無視しきれなくなったら怒濤の毒舌で叩き潰しちゃうんだろーなーと合掌した俺だったけど、鬼畜にとっちゃそれもまだ生温かったようだ。


「あいつ……!」


 ふるふると震えている菅野さんは、すでに涙目だ。……うん、だよな。あれだけアグレッシブに突撃かまして全スルーされたら、そうなるよな。



 そう。疾は本日最後の授業が終わるまで、綺麗さっぱり菅野さんをシカトし倒しおったのである。



 くってかかるように話しかけられようが、移動教室で行く手を遮られようがお構いなし。視線すら合わせずに綺麗に躱して、空気扱いをし通した疾は、確かにある意味すごい。絶対に真似したくねえけど。

 菅野さんもなかなか頑張って、授業での先生の質問に答える回数だの、計算の速度だの、あれやこれやと勝負条件をひねり出そうとするんだけど、そもそも相手が聞かないフリでさっさといなくなっちまうもんだから勝負すら始まらないのだ。


「……てか、なんであそこまで頑なに喋らねんだろ」

「確かに。シャイだっつー噂もあるけどさ、可愛い子にあんだけ話しかけられて、無反応でいられるのがシャイじゃねーよな」

「だよなあ。俺ならキョドる」


 うんうんと頷き合うクラスメイトたちが羨ましい。そうだな、不思議だなーって思っていられるうちが花だぞ。


 ……よもやあれが「面倒くさいから」という愉快な理由だけで存在ごと平然とスルーできる人外レベルの鬼畜とは思うまい。ついでに、誰の名前と顔も一致させてないとはもっと思うまい。疾の心臓は絶対鋼鉄製だと思う。


「っ明日は! 無理くりにでも、勝負してやるんだから!!」


 慰めようとしている女子を振りほどくようにして叫ぶ菅野さんに、俺は心の内でこっそりと合掌した。


(……生きろ)


 どうあったって、めっちゃくちゃおっかない魔術師を玩具としか思ってないような鬼畜には勝てねーんだから、諦めて帰った方がいいぞ?




***




 翌日。

 菅野さんは俺らの思った以上に、メンタルが非常に頑丈だったらしい。


『果たし状!!』


 でかでかと黒板に書かれた丸っこい文字が、疾を指名して宣戦布告をかましていた。


「おぉう……」


 今日も今日とて竜胆に引きずられるようにして全力ダッシュ滑り込み登校した俺は、教室に入ったところで思わず声を漏らした。


「こりゃすげえな」


 竜胆もさすがに声を出さずにはいられなかったようで、俺の背中を押しながらもぼそっと呟いていた。


 席に着きつつ、ちらっと横を見る。てっきり今日はサボるかなーと思っていたのに既に登校していたお隣さんは、黒板にはちらとも目を向けずにいつものように読書をしていた。……ほんと図太いなこいつ。


「ん?」


 俺の机の上に、なんか見覚えのある文字の手紙が置いてあった。


『果たし状』

「……」


 顔を上げる。黒板にまるきり同じ文字が踊っているのを確認して、俺はひょいとその手紙を裏返した。

 うん。「波瀬へ」って書いてあるよな。菅野さんのだよな。

 ……何で俺のとこにぽい置きされてるのか、って、聞くだけ無駄だよな。


 ほんとこいつのメンタルおかしくね!? 何でここまで平然とガン無視できるかな!? そして俺を巻き込まないで帰りたい!!


「帰りたい……」

「瑠衣……あのなあ」


 あきれ声を出す竜胆を余所に、本日一限目担当の我らが担任が入室してきた。


「あー、全員いるな。んじゃ、授業を始め──」


 俺らをぐるりと見回して出席を確認した俺らの担任は、黒板に向き直ろうとして固まった。くるりと振り返り、菅野さんと疾を交互に見やる。


「ふんっ!」

「……」


 やる気に満ち満ちている菅野さんと、ものすごく平常運転でノートに何やら書き付けている疾を見た担任は、ふう、と溜息をついて口を開いた。


「あー、日直。黒板は授業始まる前にちゃんと消しとけっつっただろ。今日はもーいい。抜き打ちの小テストだ。全員教科書とノートしまえー」

「よしっ勝負よ波瀬!!」


 やる気に満ち満ちた菅野さんの声は、俺らの絶望の声に塗りつぶされた。


「うっそだろおい、俺ら巻き添え?!」

「えーやだ最近の範囲苦手なのに-!」


 悲鳴が飛び交い担任にものっそい苦情が飛び交う。俺? どーせ先生の言うことは絶対なのに文句言うなんて無駄なことはしないぞ? テスト終わっても帰れないけど。赤点とってお袋様にどやされるの目に見えてるけど。


「……はあ、帰りたい」

「今だけは同意」


 辻山と頷き合ったところで担任の一喝で文句は封じられ、唐突な抜き打ちテストが始まった。



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