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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第10章 新人教育とか帰りたい
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ナルシストは変態と同レベルなようです

「……やべーの来たな」


 辻山が真顔で言うのに、頷くクラスメイト達。そうだな、午後一番のあれは思わずにはいられん。


 菅野さんの叫びに、その場にいる誰もが耳を疑った後、普通にドン引きした。

 ……いや、確かにかわいい子だなって思ったけどさ。自分がこの世で一番美しいとか本気で信じちゃうってないだろ。そんなん厨二病でも追いつかねーし。


 しかし叫んだ本人は、本気も本気だったらしい。突きつけた指もそのままに、担任そっちのけで疾相手に謎理論を繰り広げ始めた。


 曰く。


 自分よりも注目を集める輩なんているわけがない。そんなものを認めるわけにはいかないから、正々堂々と勝負をしてどちらがより衆目を集めていいのか勝負をすべきだと。何を言っているのかさっぱりわからないのは俺だけじゃないだろう。


 具体的な勝負内容はこれからなどと言って、菅野さんはその場は一旦自分の席に腰を下ろした。……強引に、疾の隣を横取りして。俺の席を横取りしてくれればよかったのに。ぶっちゃけ怖すぎてやばい。



 考えてみてくれ、菅野さんが誰を敵に回したのかを。



 向かう敵はすべて玩具とのたまい、メンタルフルボッコ&プライド粉々コースを嬉々として楽しむ外道ド鬼畜の疾に、真正面から宣戦布告だぞ? 即座に逃げだそうとした俺悪くない。


 少なくとも、わくわくした顔をしてる常葉はほんと神経おかしいし、逃げだそうとした俺を後ろから小突いた竜胆は普通にひどいのは間違いないと思うんだ。


「あんなぶっとんだ転校生が来るとは……おい伊巻、どうなってんだよ」

「何で俺に訊くんだよおかしいだろ!?」


 悪と本気で聞き返した。今回はいくら何でも俺のせいにされる筋合いないだろ?


 しかし辻山はあくまで真顔のまま俺を見返した。


「伊巻。隣にいるやつに目を向けてみろ」

「……」

「よし、わかったみたいだな」


 なお、疾は教室にいない。今の俺のお隣さんは、いつものごとくお袋様の料理を狙う変態(常葉)だ。


「……いやいやいや、それだけで俺のせいになるのはおかしくね!?」

「ええ? そうかぁ?」

「確かに、瑠衣って面白い人ほいほいだよねー」

「あの子は……面白い……のか?」

「竜胆、基準を崎原に置けばそうなるってだけで、信じるんじゃないぞ」


 首を傾げる竜胆は辻山が常識へと引き戻した。うん、常葉を基準にするのはあらゆる意味でやめた方がいいよな。


 ……で。俺の周りが変人ばっかかって? いやそんなことは──


「……やばい。なんか否定しにくい」

「だろ」

「瑠衣の親戚さん、変な人ばっかりだもんねー」

「え、その言い方俺も……?」

「いや、竜胆は最後の良識枠だと思う。そのままでいてやってくれ……」

「身内の言われよう酷くね?」


 確かに、どこに行っても必ず帰ってくるだろうって謎の信頼感がある拓や彰みたいな例はあるし、竜胆がおかんなのはもはや揺るぎない事実だけども。それだけで伊巻全部が変人揃いみたいな扱いすることなくね?


「うちは全員が帰りたい病患者なごく普通の家だっての」

「それを普通と言うなよ伊巻」

「そうだよー」

「……ほんと、瑠衣たちって……」


 なん……だと?

 帰りたい病は現代日本人総人口が罹患する不治の病だってじいちゃん言ってたぞ! ほら、こんなやりとりしてたら帰りたくなってきたし。


「はあ……帰りたい」

「結局そこに行き着くんだねー」


 ごくごく当たり前の事を呆れ気味に常葉が口にしたとき、元々の話題の主であった菅野さんが飛び込んできた。


「ねえ! 波瀬はどこ!?」

「へ? いや、知らない」


 ごく普通に返した俺に、声なき賞賛が集まった。いや、ホント知らないし。


「あいつ……! 私が直々に会いに行くって言っているのに、まるっきり無視よ! 信じられない!」

「まあ……」

「波瀬だし……」


 頬を上気させてぷりぷりと怒る菅野さんに対し、俺と辻山は若干生温い気分で応じた。


「私を無視するなんてありえないわ!」

「はあ」

「だって、私って可愛いでしょ?」

「うわあ」


 一切の躊躇いなく放たれた台詞に、辻山がどん引きの声を漏らしたが、菅野はちらっとも気にせずに続ける。


「なのに波瀬ってば、この私が話しかけているのに、聞こえないみたいに無反応なのよ!? 失礼にも程があるわ!」

「あー……」


 どうやら疾はガン無視スルー作戦を決行中らしい。……いや、それはそれで大概だけどな。あいつの心臓って毛でも生えてるんだろうか。


「それとも何、耳が聞こえないとか?」

「いやー……聞こえてるはずだぞ?」


 なあ、とさっきからじりじり後ずさりして逃げようとしてる辻山に話を振ってやれば、頬をひくつかせながらも頷いた。誰が逃がすか、帰りたいのは俺の方だし。


「基本教師だろうが同級生だろうが声かけられてもガン無視だけど、無反応ってわけじゃねーよな。体育とかの反応の良さ見てると尚更」

「だよね! 波瀬君のあのスーパーな身のこなしは神だよね!!」

「えっ」


 途端に食い付いた常葉に、怒り心頭だったはずの菅野さんがちょっと面食らった。


「馬鹿野郎、寝た子を起こすな」

「何やったって起きるだろ崎原は」


 俺が脇腹を小突くも、辻山は潔く開き直りやがる。ちくせう、止めるの俺なんだぞ。


「あのきゅっと引き締まった外腹斜筋から腰方形筋の流れなんて本当に美しいというか! 無駄なく関節可動域をフルに使った駆動とか! もう! ほれぼれしちゃうよね!」

「……っ、冗談じゃないわ!!」


 菅野さんがばんっと机を叩いた。おお、すっげ。常葉のアレに押し流されずに切り返すとかふつー無理じゃね?



「私以外にほれぼれするなんて許せないって言っているのよ! 波瀬より私に見惚れなさい!」



 ……なるほど。同レベルの変な奴じゃねーと無理なんだな。俺一生無理なままで良いな。


「えー……確かに菅野さんも結構悪くないヒラメ筋してるけどー。私、筋肉は男性ホルモンの影響を存分に受けた男の子の筋肉が好みなんだよねー」

「訳分かんない事言ってないで! 波瀬の方が私よりも優れてるなんて認めないんだから!」

「えー。筋肉は波瀬君の勝ちだよう!」

「なんですって!?」


「……なあ。その勝ち負け、誰が喜ぶんだ?」

「変態だけ……」


 頭が痛い、帰りたい。何この電波な会話、俺もう帰って良い?


「っ、良いわ。まずは体育で白黒付けてやります! 次の体育はいつ!?」


 眉をきりっと吊り上げた菅野さんに訊かれて、律儀に時間割を確認した竜胆が答えた。


「えっと、明後日の5限だな」

「…………」


 まずはっていうには遠いな、うん。俺なら帰って忘れると思う。


「……っ、もうっ波瀬はいつ帰ってくるの!!」


 菅野さんの絶叫に重なるように、予鈴のチャイムが鳴り響いた。



 ……これ、あいつ、このままサボるパターンじゃね?




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