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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第10章 新人教育とか帰りたい
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まともな可愛い転入生……ではないようです

 そうこうしているうちに昼休みが終わり、教師が入ってきた。


「……ん?」


 思わず声が出た、いや俺だけじゃないけど。クラスがざわざわしてるのは割と良くあるけどな、授業始めだし。けど、今のこのざわめきはそれとは別だ。


 何で俺らの担任でもある化学のセンセ、セーラー服の女の子連れてきてんの?


「あー、静かに。見て大体分かると思うんだが、転入生を紹介する」

「は?」


 再び声が出た、いや以下略。そんな当たり前みたいに紹介されても、変じゃね?


「せんせー、なんで午後からなんですかー?」


 クラスのギャル女子代表みたいな奴が声を上げた。うむ、みんなの心の声の代弁ご苦労。ほんと、それな。普通転入生って、朝から来るもんじゃね? 何で昼?


「彼女は海外から来てな。今朝到着したばかりなんだよ」

「海外!」


 にわかに盛り上がる男子陣。帰国子女って響き良いよな。


 しかも、先生の後ろに付いてきた当の本人、かなり可愛い。小さな顔に目鼻口がちょこんって感じで置かれていて、ぱっちりした目がやけにでかく見える。ほんの少し茶味がかった髪の毛は、耳の下で纏めてセーラー服の襟にかけていた。愛らしさと明るさが同居した感じ、男子が盛り上がるだけはある。


 ちなみに女子はといえば、若干男子の反応に面白くなさそうにしているものの、興味の方が勝ったらしい。近くの奴とひそひそ囁きあっていた。


 え、俺? いや、俺はオフトゥンが恋人だし。ぶっちゃけ彼女とかあんま興味ありません。……負け惜しみじゃないぞ、断じて。


「あー、順番があべこべになったが。アメリカから来た転入生だ。名前は菅野すがの梨里花りりか。日本は5年ぶりだそうだ、みんな色々と面倒みてやってくれよ」


 俺達が盛り上がってるのにちょっと面倒臭そうな顔をして──教師としてその反応はどうなの?──、担任が転入生を紹介した。

 紹介された転入生は、にこっと可愛らしく笑って自己紹介する。


「菅野梨里花です! 日本は久々で、日本の学校も久々です。色々と分からない事あるけど、よろしくお願いします」


 綺麗な日本語で、明るくはきはきした口調での自己紹介。……うん、そうだな。普通自己紹介ってそーゆーもんだよな。

 しみじみとそう思う。いや、同じ帰国子女にして入学当初からコミュニケーション拒否を敢行した誰かさんを知ってるとさ? こういう真っ当な様子を見ると、ほっとするというか。ああ、少なくともこの子は普通なんだろーなーっていう安心感が半端無い。


 そんな事を思いながら、俺はぼけらっと我先に質問の手を上げるクラスメイトを眺めていた。お、辻山まで手を上げてる、みんな熱心だなー。


 ありふれた質問が飛び交うやりとりの中、ひょいと常葉が手を上げる。うわめずらし、あの変態が筋肉以外に興味示すとか今日雨降るんじゃね。


「菅野さんってー、好きな異性のタイプはー?」

「うーん、タイプかあ。しっかりしてるのにちょっと抜けてる感じかな!」


 それを聞いて俄然やる気を募らせた男子。対して常葉はつまらなさそう、いや今の質問で筋肉について語るのは変態おまえだけだから。


 とかなんとか、質問に答える様子を見てた俺は、ん? と首を傾げた。今まで笑顔で質問に答えていた菅野さんだけど、なんか、こう……段々と表情に落ち着きがなくなっていく。視線がうろうろしてるってゆーか、段々険しくなっていく。

 どうした、帰りたくなった? 質問攻めって滅茶苦茶面倒くさいもんな、その気持ちはよく分かる。


 なんて、うんうんと頷いていた俺は、菅野さんの視線がこっちを向きがちな気がしてきた。いや、俺本人じゃなく。こう、こっち方向に視線の配り方が偏ってるような──


(──って、そらそーか)


 ふとお隣さんを思いだした俺は、納得してうむと頷いた。本当に、こいつは黙っていれば見ずにはいられん美形なのだ。となれば高校生女子がうっかり見惚れたり、可哀想に一目惚れしたりしてもおかしくないとゆーもの。

 ……やめとけって後で常葉に言わせとこ。俺知ってるもん、ラブレターもらってもガン無視で帰るの。不用意に鬼畜に近付くべからず、酷い目に遭いまくってる俺としては全力で主張したい。


 なお、当の本人は転入生? 何それまずいだろ? とばかりに視線はいつの間にか取り出した本の上。そうだな、お前未だに俺と常葉と竜胆以外、名前と顔すら一致させる気ないもんな。転入生だろうと興味持つわけないよな。……マジで、常葉に言わせておこう。相手が可哀想すぎる。


 とか考えてる内に、菅野さんがすっかりと黙り込んだ。異変に気付いたクラスメイトが、ざわつき始める。


「……あー、菅野、どうした? 気分でも悪くなったか?」


 時差ボケもあるだろう、と珍しく気遣う担任。そっか、そういやこの子アメリカから来たばっかなんだよな。……あっちって今何時くらいなんだろ、日本より時間が早いんだっけ?


 うーん、とない記憶を漁ってた俺は、つかつかと歩き出した菅野さんにはてなと首を傾げる。え、マジで帰りたくなった感じ?

 てっきりそのまま教室後ろの扉から帰るのかと思いきや、菅野さんは俺の机に辿り着く一歩手前でぴたりと足を止めた。

 きっ! と音がしそうな勢いで、菅野さんが1点を睨み据える。その鬼気迫る様子に、クラスメイトが固唾を呑んだ。俺も密かに息を呑んだ。


 だってそうだろ? よりにもよって、敵には鬼悪魔よりおっかないド鬼畜外道男に隠しもせずに敵意ぶつけるとか、自滅趣味としかいいようがねえじゃん。


 ……止めねば。学校でまであの精神衛生上よろしくない笑顔は超見たくない。いや、鬼狩りでも見たくはねえけど、それに関しては半ば諦めてる。

 諦めてるから、頼むからそれを学校でまで見せないでくださいお願いします!?


「あの、ちょっ──」

「貴方! 名前は?」


 けど、菅野さんの方が早かった。良く通る高い声が、こともあろうに疾その人に声高に誰何する。……俺は知らん。


「……」


 本を読んでいた疾は、一瞬、ほんとに一瞬だけちらっと菅野さんを見たかと思うと、直ぐに視線を本の頁に落とした。……ほんとにイイ度胸だよな。

 かあっと顔を赤らめた菅野さんは、続いて俺の方に顔を向けた。


「ねえ! この人名前は!?」

「えー、あー……」


 学校だから多分大丈夫……大丈夫だと思いたいけど、俺は思い出せないフリして辻山を振り返った。名前勝手に言うなってボコボコにされた記憶がそうさせた、疾マジでおっかないもん。


「伊巻……隣の奴の名前まで忘れるなよ……波瀬だろ、波瀬」

「下の名前は?」

「あー……なんだっけ? そこまでは覚えてね」


 辻山が視線をクラスに向けるも、一斉に首を横に振る。……言われてみりゃ普段喋らない奴の下の名前って、案外覚えてないよな。うん、返答避けて良かったぽい。


「ふうん……まあいいわ」


 不満げに唇を尖らせながら、菅野さんは改めて疾に向き直った。そして、ぐいっと本を取り上げ……ようとして、それより早く疾が本を手元に引き寄せる。


 スカッ。


 音が聞こえそうな空振りをした菅野さんは、わなわなと震えた。お構いなしに本を読む疾、もうちょっと空気読もう? いや分かってて読まないの分かってるけどさ、地味にクラスメイトが疾の所行にどん引きしてるぞ?


「……っ、私を無視しようっていうのね。上等よ」


 菅野さんが低い声で呟くと、顔を上げて疾を睨み付ける。ビシイッ! と音がしそうな勢いで、疾の鼻先に指を突き付け。



「波瀬! 私より顔が良くて注目されるなんて許せない! 私と勝負なさい!」



 …………うん、なんて?



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