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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第10章 新人教育とか帰りたい
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誰も彼も優しくありません

「おーい、伊巻ー?」

「……」

「るーいー? 勉強するー?」

「……」


「……駄目だ、これ重症だ。伊巻が勉強って単語に反応しない」

「だねー。これどうしたの? 竜胆君」

「あー……なんつーか、まあ……燃え尽きた?」

「は!? 伊巻に燃え尽きるまで頑張る機能とか搭載されてたのか!?」

「瑠依ってばそんなにお母さんを本気で怒らせちゃったんだー?」

「はは……まあ……世の中広いっつうことで」


 竜胆の乾いた笑いを頭上に聞きつつ、俺は干からびた河童のように机にへばりついていた。



 結局、冥官に24時間ノンストップでボコされた後、竜胆が参加して更に地獄と化した。何あれ、何で訓練で殺されかけなきゃならねーの? 俺なんかした?

 俺はただただ帰りたいだけだとゆーのに、あのほけほけと笑う鬼冥官、マジで人鬼よりおっかない。ほんと意味分かんない、あの人実は俺のこと嫌いだろ。



「へー、それで瑠依ってばこんなに干からびてるんだー。自業自得だねー」

「それに関して俺は一切の弁護の言葉を持たない」

「うわ、言い切られてやんの……。何、伊巻、ついに勉強どころか学校すらサボろうとしたとか?」

「そりゃ毎日だ」

「……。なあ竜胆。そろそろ、マジで見捨てていんじゃね?」

「私もそう思うー」

「あー、まあ」


「竜胆の裏切りは絶対に忘れんっ!」


 がばりと跳ね起きて喚いた俺に、3人分の視線が突き刺さった。


「お、起きた」

「ほんと、元気つーか……」

「やっぱスタミナだけはあるよねー瑠依って」

「だけとか言うな常葉! 俺の命がある事をもっと喜べ!?」


 途中でへたばって倒れようものなら確実に致命傷もらってそのままあの世逝きだったぞあの訓練! しかも結局俺が呪術使う余裕とか無かったせいで何の訓練にもならなかったし! 何の意味があったのあの地獄!


「伊巻、大袈裟すぎ。勉強如きで人が死ぬかよ」

「だよねー。瑠依の勉強体力がなさ過ぎるのが悪いんだから、瑠依の自業自得だよう。ねー竜胆君?」

「あー勉強については俺に言えた事じゃねえけど……まあ、自業自得だよな」


 何とも言えない顔で頷いた竜胆を見て、辻山が頬杖を付いて口を開いた。


「つーか、こんだけ面倒みてくれてる竜胆が裏切ったって……順当に見捨てられただけじゃね?」

「なあ辻山はなんでさっきからそんなに冷たいんだよ!?」


 そこまで口悪くなかったじゃん、辻山はどっちかというと俺側の人間だろ?

 俺の反論に対して、辻山は生意気にもはあと溜息をつきおった。


「いやあ……なんつーかさ。そろそろ受験の話とか出て来て、じわじわと母親に圧力掛けられつつある俺としては、伊巻の脳天気がちょっとムカつく」

「あー分かるー」

「理不尽!!」


 学校まで俺の敵とか、もうマジで俺、オフトゥンとイチャイチャするしかなくね?


「くそう、帰りたい……」

「瑠依ってば、まだ朝だよー」

「朝昼晩常に帰りたい」

「……末期だな」

「はあ……ホント、何でこんなのが俺の親戚なんだろ」


 3人共に溜息をつかれたけど、俺間違ってない。帰りたい欲求は24時間営業、そんなの基本だろ?


「ほら瑠依、へばってないで、宿題はー? 数学の課題くらい毎日やってようって言ったでしょー?」

「え、何それしらない」


 本気で返すと、なんか物凄い目を辻山に向けられた。何だよ、俺ホントに覚えないよ?


「……嘘だろ。つい金曜に言われた事もー忘れてんの」

「辻山、今日は月曜だぞ? 覚えてるわけ無いじゃん、何言ってんの」


 あの地獄のような週末を越えて、そんな平和かつどうでも良いことこの上ない情報を覚えていられるわけねーじゃん? 今現在、生きてるという事実とお布団は至高という事実しか、俺にとって抱えておくべき大事なものは無いよ?


「…………瑠依ー…………そろそろ、人間に戻ろう?」

「俺は今人間じゃなかったの!?」

 人外は冥官とか相棒とか、その辺で十二分に間に合ってるから! 俺まで人間やめた気はないから!


「崎原……伊巻はもう駄目だ。コレはもう、来年俺らと机を並べることはねーよ……」

「どういう事!?」

 そりゃあ俺だってあんな訓練が続いたら生きていける気は無いけども! 何も知らない辻山に死亡宣告くらうってどういうこと帰りたい! 死相でも出てるの!?


「……瑠依。まじで。いい加減に。しろよ」

「イタイ痛いいたい竜胆さん痛いやめて!? 何で俺何も間違ったこと言ってないだろ!?」

 そして何で全部知ってるはずの竜胆さんが俺の頭をわし掴んでギリギリ締めてくるかな!? 俺がここまで追い詰められたの、割と竜胆も一役買ってるからな!?


「いったい! 痛い! ああもうやだ帰りたい! オフトゥン!」



 朝っぱらから碌な目にあってないとか、帰りたい!



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