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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第9章 そして帰りたい日々が始まった
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そして帰りたい日々が続くんです

 幸い波瀬の怪我は、医務室で治せる範囲だったらしい。医務室の外で待ってた俺達に、ローラさんが出て来て治療が終わったと言ったのは、割と直ぐだった。


「まあ、冥官様もそれを計算の上だったのでしょうが……、こんな無茶、これで最後にさせてくださいな」

「そうしたいのはやまやまだけど、どうかな」


 そんな訳わかんねー会話を交わして、冥官は帰っていった。


「瑠依、事情説明をお願いね」

「えええええ」


 俺はマジで、いつ帰れるんだろう。フレア様の命令に思い切り抗議したけど、笑顔で却下された。なんでみんなして俺に押しつけるか。下っ端に残業させる企業は大体みんな辞めていくって親父殿がいってたぞ。



 肩を落として医務室に入ると、予想外にも波瀬は既に目が覚めてた。マジか、いつ起きるのか心配してたのに。


「えーと……大丈夫か?」

「……治療出来る範囲の傷は全部消えた」


 微妙な言い方に首を傾げると、波瀬は眉を寄せて俺を見上げた。


「お前、術者なんだろう。治癒魔術の限界も知らねえのか?」

「えーと、ごめん。俺ついさっき研修を終えた(多分)ばかりの、ぴっかぴかの新米だし」

「はあ?」


 呆れた声で言い返されて、俺は胸を張った。


「でも波瀬よりは先輩だな!」

「……で、治癒魔術の限界は?」

「うっ」


 言葉に詰まった俺に、波瀬が溜息をつく。呆れた様子の波瀬に、そもそも気になってたことを聞いた。


「ていうかさ、なんで波瀬がそんなん詳しいの?」

「……疾」

「へ」

「名前で呼べ」

「……何故に」


 ごめん引いて。でもいきなり名前呼びを要求されるとか、ちょっと意味ワカンネ。名前で呼んでね! って仲良しイベントは女子だけに発生するもんだぞ。


 そんな思いが顔に出たのか、俺を見る波瀬が心底呆れた顔をした。


「勉強不足」

「はい?」

「術者の世界では、名前または名字のどちらかだけを名乗るのが基本なんだよ。名を隠そうにもこの情報社会、限界がある。偽名や仮名は直ぐにばれるからな。どちらかだけを名乗る、というルールに従うことで、共通意識がフルネーム、そしてそれに通ずる個人情報の流出を防げるっつう仕組みだ」

「ごめん、さっぱり分からん」


 途中から宇宙語聞いてるような気分。無理だろ、今の理解しろとか。


「…………お前のような術者がいるとか、鬼狩り大丈夫か」

 波瀬がうんざりした顔で呟いた。なんだよ、説明が難しすぎるのが悪いんだし。


「お前は確か、ここじゃ瑠依と呼ばれていただろ」

「え、うん」

「それと同じ。鬼狩りとして接する限りは疾と呼べ。……つうか、一応確認しとくけど、同学だよな」

「はあっ!?」


 なんか今更びっくりすぎる事聞かれて、俺は仰天した。


「今そこ!? 俺クラスメイトですけど!?」

「……あー」


 俺の顔をまじまじと見上げると、波瀬は簡潔に宣う。


「悪い。必要の無い情報に関しちゃ覚える気が無いんでな」

「クラスメイトの顔と名前だぞ!?」


 何このコミュニケーション拒絶! いや知ってたけど! こんなに波瀬が喋ってるの初めてだけど!


「つーわけで、学内では波瀬、鬼狩りの仕事中は疾、と使い分けろ。こっちもそうする。話するかは別としてだが」

「えー……てか、何で学校じゃ無口なんだよ」

「面倒だから」

「そんな理由!?」

「お前いちいちうるせえな」


 さらっとひでえこと言って、波瀬改め疾はゆっくりと上体を起こした。俺にすっと真剣な目を向ける。


「で。このタイミングでお前がここにいるっつうことは、大体の事情説明の為だろ」

「……なんか釈然としないぃ」


 唇を尖らせながらも、鬼狩りとは何ぞやから人手不足で俺のようなのまで駆り出されちゃう切ない現実、疾がどうやら生まれつき神力を持ってるらしいっぽいってのを、ざっくり説明した。


「……でな? えっと、その、これ見えるか?」

 あと、すっげー気が引けたけど、左手の甲を見せる。疾は頷いた。

「あの男が俺にかけたのと同じ術だろ。術者は別みてえだが」

「え、そこまでわかんの」

「目も悪いのか」

「言われ方!」


 どうでもいいけどこいつ口悪すぎませんかね!? 俺ら今日が会話する初日だってのにさっきからざくざく突き刺してくるんですけど!?


「で、それが何だ」

「えーっと、これな? 鬼狩りの証明書兼、サボり防止らしいんだよ。帰りたいのに俺が帰れない元凶です」


 疾がおもいっっっきり顔を顰めた。うん。ですよね。


「つまり、これがある限りは鬼狩りを辞められないと」

「そう。帰りたいよな」

「それ口癖か?」

「え、人類の三大欲求だぞ、口から出るの当たり前じゃね」

「…………馬鹿がいる」

「なんで!?」


 何でそんなどん引きした目で見てくるんだよ!? 俺全く変な事言ってないだろ!


「で? 他に何かあるのか」

「えー……っと、本来の研修が2ヶ月掛けて神力の扱い修行するのとお勉強とをするんだぞとか、言わない方が良かったですねごめんなさい」


 途端目が据わった疾に謝り倒す。うん、あの扱い受けたのは疾だけですごめんなさい。


「……はあ。まあいいか」

「え、マジで」


 そんなさらっと引き下がれるのがすげえ。俺なら1ヶ月オフトゥンコース確実だぞ。


「で? なんで瑠依があの場にいた? ……つうか鬼狩りなのに逃げてなかったか」

「うっ」


 やばい、まずい。これはちょっと大分言いたくなかった。


 目を激しく泳がせる俺を見て、疾がすうと目を細める。そのままふっと笑った顔に、束の間見惚れた。ホント綺麗な顔だよな、こいつ。


「なあ、瑠依。まさかと思うが、冥官と鬼狩りの仕事中に逃げ出して、結果的にその尻ぬぐいをした俺が冥官に見つかったとか、んな事言わねえよな?」

「え、その通りだけど…………はっ!?」


 しまった、ぼーっと見惚れてたらつるっと!?


「そーかそーか」

 にっこりと笑って、疾は宣った。



「つまりこの状況、てめえのせいって事だな。責任取れよ」



「待ってそこまで来るとちょっと理不尽じゃね!? 俺ボコせないよ疾の事!?」

「知るか、元凶」

「理不尽!!」



 ……こうして、俺は疾に事ある毎に、「誰のせいで鬼狩りになったと思ってやがる」と蹴倒される羽目になった。



「さて、休憩も十分取ったし再開しようか……おや?」

「すみません冥官、俺も手伝って良いですか」

「竜胆!? 何で!?」

「うん、いいよ」

「待って死ぬ! 2人がかりとか絶対いくつ命があっても足りないからってぎゃぁあああああ!」

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