序章
新月。
月を欠く夜っていうのは、とかく暗い。眩しくも何ともない月の光がないだけでこんなに違うのかって驚いたことは、誰もが1度はあるだろ。
そんな新月の夜は朔の日とか言われて、むかーしむかしから恐れられてきた。鬼に食べられるから決して外に出てはいけないよ、なんて子どもに言い聞かせていた昔のじいちゃんばあちゃん、偉大だと思う。
え? 何で偉大かって?
そりゃあそうだろ、お陰で被害は最小限に抑えられていたんだから。夜の住人を刺激しないよう大人しく家で眠っていた先人達は、非常に賢く昼と夜とを分け合っていた訳だ。
ん? なんだよ。お前はさっきから何言ってんだって?
いや、まんまだけど。現代社会って良くないよな、明かりがあったって夜は夜、人間の過ごせる時間じゃない。夜はぐっすり眠って、日が昇ってから働くのが1番。夜は夜の住人に譲るのが礼儀だろ、邪魔したらそりゃあ怒るよな。
何だよ、今度は笑い出したりして。
は? 夜の住人って中二か? 鬼とか丸々信じるな?
……ああ、ごめんごめん。そりゃそうか。
視えないものを信じろなんて、無理だよなあ。
さて、じゃあ始めようか。いや何、別に信じてくれなくても構わないよ。ちょっとばかり愉快な想像力を持った痛いやつの、作り話だとでも思ってくれ。
ごくごく普通の高校生が、夜な夜な鬼と戦ってる——そんな与太話を始めよう。