表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔術学園世界記童話

アグウェインの盟約

作者: RYUITI

 燃え盛る炎と、輝かしくも禍々しい魔法に包まれている中で、

【この世界で一番の強者】と対峙していたオレは、

気が付くと自らの血で染まった大地に伏せていた。



感覚が薄い。

聴力も低下している――


【鈍い】とは違う自らが感じるその違和感の中にあるにも関わらず、

眩しすぎる程の光が苛つかせる程に俺の意識を放さない。


それにも増して力が入らないというのに、

何かが俺の耳へと小さく届く。

なんの音、だ――?

動かない身体に反して、

疑問は大きく膨らんでいっている事を認識してから、


雑にしか聴こえなかった音が段々と大きくなっていく。



あれは――声だ。


これは――――声だ。



「グロリオッ!死ぬなああああああ!! 」




オレの、名前を呼んでいる。

そう認識した俺の身体が何としてでも声のする方を向こうとした。


じわりと感じる痛みを受け止めながら向いてみれば。



アイツに――――。

俺を最初に救った奴に良く似ている男が、

泣きそうな顔をして叫んでいるのが、

ぼやけた視界の中に見えた。


オレは知っている。


ボロボロになった大地の中心で、

あの男は必死に人を救っていた。


自らの身体が飛来してきた物体に貫かれて尚、

苦しそうに声を漏らしていてもなお、


自らはそれに気付いてないかのような素振りで、

無残な瓦礫や倒壊した建物から人間を救い出しているあの男の事をオレは知っている。


幾度に渡り救われた命と心。


ポルトリアス――。

確かにお前はアイツに似ているようだ。




――――始まりはオレがまだ普通のカラスだったころ。

閉鎖的な、名も無き村で、

溜まった鬱憤を解消する道具として、

心無い人間共に傷を負わされたオレは、


翼を広げて飛ぶ事も出来ない程、

酷く衰弱しているその状態で黒い檻の中に閉じ込められていた所を、

ある貴族でもなんでもないただの一人の青年に救われた。


あの時オレは、

オレを救ったその人間の名は何百年経とうが忘れないだろうなと思った。




大陸中央部で災厄に遭遇したあの男は、

自らも災厄の中に居ると言うのに、

様々な場所に走り、多くの人間を救って回っていた。


その最中、

硬い鉱石で造られた檻の中で、

ぐったりとしていたオレの事を見つけたアイツは、

肌を血だらけにしながらオレを檻の外へと救いだしてくれた。


オレを助けたかと思うとアイツは自分の服を破ってオレの手当てをし始め、

それが終わるとアイツは直ぐにオレを抱えて安全な場所を探しに行こうと、

俺の身体に響かないように注意しながら小走りで動き始めた。



その直後、


アイツは、後に言われる【魔天の雨】に身体を貫かれた。

重く小さな息がアイツの口から漏れ、

苦しそうな声を上げながらも、

アイツはオレの離そうとはしなかった。

アイツが必死に俺を抱いているのもつかの間に、

急に身体が地に叩きつけられるような音と感覚がした。


けれど、


地に叩きつけられていたのはアイツの身体だった。、

その結果オレの身体に来る痛みも、

アイツの身体が緩和していたお陰で強く衝撃を受ける事も無かったみたいだ。


だが、あの時オレは死を覚悟した。


未だに降り注いでいるだろうこの濃く複雑な何かは、

次々にこの青年の身体を何度と無く突き破り、

やがてはオレも貫かれてしまうと思ったからだ。



救ってくれた見ず知らずの青年もオレが殺してしまったようなもんだと、

あのまま檻の中に居ればよかったと少しだけ後悔した。


ただ、せめて、この青年の顔だけは覚えて息絶えよう。

そんなことを思って、もぞもぞと身体を動かしていると、

俺の身体に青年の赤い血がべっとりと付いてしまった。

元々綺麗好きなオレだが、

この際汚れたところでどうにでもなれと、

そう思ってまたもぞもぞと動いていると。


濃く複雑な何かに貫かれた青年の身体と、

青年の血が付いたオレの身体が淡い青色の光に染まった。


唐突に視界に入るその光の眩しさに、

ああついにオレも逝くのかと思って、


オレは動くのを、もがくのをやめた。


……。

…………。



「――う。

――おはよう。」



聞き覚えのある声と共に、

ゆさゆさと心地の良い振動が伝わってくる。


「あん……?」


異図せずして出た自分の声は、

予想を越えて寝ぼけた感じだった。


色々な事が頭に過ぎる。



ハッとして眼を開けると、


視界に映ったそこは真っ白な天国でも、

真っ黒な地獄でも無惨な瓦礫の下でもない小さな小屋の中だった。


アレ?オレ死んでない?


「オレ、あれ……なんで?

っというか言葉が喋れてる?! 」

そう言うオレにびっくりもせず、

アイツは俺に果物を刻んだ皿を近づけて、

自分は硬そうなパンをかじっていた。

「何故、お前がその貧相なモノをかじってオレに果物を食べやすいように切って渡すんだ。」

そう問うオレにアイツはきょとんとした顔で、

「だっていかにカラスって言っても君はまだ起きたばっかりなんだから食べやすい物を食べなきゃキツイでしょ?」と言った。


呆れて何も言わなかったが、

あの時食べた果物の味は涙が出る程美味しかったのを覚えている。



そんなアイツが誰から言われるまでもなく大陸や街の復興に尽力するようになるのに時間はかからなかった


それから月日は流れ、

段々と復興の兆しが見えてきたある日、

アイツは旧貴族に雇われた暗殺者に暗殺されそうになった。

なんの力も持たないただの青少年が支持されるのが気に入らないのが理由だったらしい。


暗殺されそうになった日、オレは死んだ。

そして何をするでもなく生き返った後、

オレはアイツと契約、いや盟約を結んだ。


オレが死んだ理由、

アイツが立て直した街のパン屋に夕食後の甘味を買いに行った帰りに、

三人の暗殺者に取り囲まれたアイツを助けようとして口ばしで噛み付いた時に魔法をくらい絶命した。


当時は何も解らずに驚いて居ただけだったが、

その後に自然と息を吹き返したオレをアイツは使い魔にすると言い出した。


息を吹き返した事で自らによくわからない気持ち悪さを持ったオレは、

当然その使い魔の話を断り続けた。


結局のところアイツの勢いに飲まれ、

しぶしぶ承諾したのだが。


実際のところアイツがオレと交わした契約、執り行った儀式は、

本来の使い魔の契約を、無理やりにねじ曲げて改編し、

友との盟約として成立させてしまった。


本来なら元々の使い魔の儀式ですら難しいし、

例も無い儀式は成功するはずも無いんだが、

何故だかあっさりと成功してしまった。


アイツは、こんな境遇の中に居なくともきっと魔法の才能はあったんだろうな。



こうして、盟約によって使い魔では無く相棒になったオレは、

魔法を使えるようになった。

儀式が終わってオレが最初にやった事は、

儀式が終わった後、服に滲むほどの汗を出しながら、ニッと笑うアイツを叱る事だった。


何度もアイツを叱った。


「使い魔にするべき対象を自らと同等、同格として、

その上で相棒として契約するなんてバカげたことをするな!

オレがもしお前を殺すような生き物だったなら自殺行為だったんだぞ!」なんて。


何度も何度も何度も。


だが、アイツはその度に少しだけ苦い顔を浮かべてごめんねというばかりだったので、

呆れたオレはそれ以降、盟約について愚痴や叱りを言う事は無くなった。


そうしてある時、アイツはオレに、

「ねえグロリオ、一つだけ相棒として聞いて欲しい事があるんだ。


この先僕に何かあってもずっと守って居て欲しい。

僕が死んでも奥さんを、その子どもを、その子どもの子ども、

僕の家族をとにかく安心できるまで守って欲しい。」なんて言うから、

どうしたんだと聞いたら、


「多分この先、いや今の時点で。

僕たちは大きなモノに飲み込まれようとしてる気がするんだ」

思わず「おう!」なんて言ったけど、

アイツの眼は確かに本気だった。


だからオレはあの約束を守り続けている。


あの約束が無ければ、

今の家族は無かったんだろうな。




そういえば後々、

アイツが復興作業のために行った別の村で、

食べた果物や野菜を気に入って、

その村の娘と夫婦になった時は一番驚いたね。




だけど今思うと。

盟約なんて結ばなければ、

アイツに助けてもらわなければ、

アイツが魔天の雨に貫かれなければ。


アイツにも普通の生き方があったんだろうなと考える。


けど、もう今更だ。




オレは何度か、本気で後悔した事があった。


一回目はアイツが死ぬと決めた時、




二回目はノワールが死んだ時、




アイツが死ぬと決めた時、オレは何も言わなかった。


お互い普通じゃない生き方をしてるのをもう解っていたし、

コレからの世界に必要なモノを充分すぎるほど残して逝ったアイツの顔はとても穏やかだったから。





ノワールが死んだ時、

オレは自分自身で火の中に飛び込む以上に後悔した。


アイツとの約束を守れなかったからというのもあるけれど。


ノワールの最後の顔を、


最後の言葉を、

聴く事のないままに別れを迎えたからだ。


ノワールが救ったモノは今考えると大きかった。


ノワールが救ったモノはこの大陸全ての明日に繋がるといってもいいモノだった。


でもオレは納得が行かなかった。


ノワール自身が救われなかったからだ。

生まれる前から知ってる家族の最後を見れないなんて、

悔やむしかねえだろう?


だからオレはアイツの魂を取り戻して転生させたんだ。


廻る間際の言葉嬉しかったぜ

「いつか、また一緒に楽しく組もうね!」って言ってくれたんだからな。



そうこうしてるウチに今になった。


三回目――後悔している事が有るとすれば、


アイツに似た【男】とアイツに似た【女】の最後を、

見られない事なんだろうな。




なあ、アグウェイン。


オレも、もうすぐそっちに行くからさ。







――――――大丈夫だよグロリオ。私が来たからにはもう安心ッ!



アグウェインの盟約を読んで頂きましてありがとうございます。

今回もあとがきを書いていますので宜しければお付き合いください。



今回、一年越しになりましたこの【盟約】

中々構成は思い描いていたのですが、

実際に書き出すと中々筆が、と言いますか、

指が進まない事が多くありました。

短編と言いましても、実はシリーズの一つだったりします。

一つの物語のシリーズを作り上げるというのは本当に難しい物ですが、

頭の中から消えない限りは、

どれだけ時間がかかっても、

スピードが遅くても書き上げて行きたいと思っています。


ちなみにシリーズの名前は【魔術学園世界記童話】といいます。

宜しかったら覚えてみてください。


最近思った事なんですが、

頭の中に作品の映像があると、

意外と端折ったりしちゃうんだなという事に気付きました。

コレはいかんですね!

色々な事を覚えているカラスのグロリオみたいに、

色々な事を事細かにかけるようにして行きたいRYUITIでした。


あとがきを読んで頂きましてありがとうございました。


RYUITI。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ