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異世界に来たばかりのお話

 人類は今、窮地に立たされていた。

 人よりも優れた生物達が、数ばかり多い人類に襲いかかってきたのだ。

 人類は戦ったが戦力差は圧倒的で、じわりじわりとその人数が減ってきていた。

 現在人類に残されたのは、大陸一つのみ。



 これが新聞のようなもので見たり道端で話しているのを聞いた結果を纏めたものだ。

「……切り替えよう、そうしよう。じゃないとそこらのモブと同じ結末が待っている」

 よくある小説や漫画だと、誠は異世界から来た勇者とかになるのだろうが、そんなことはもちろんなかった。

 誠がいるのは小さな村だった。村の名前は『チアフル』らしい。

「『cheerful』、陽気だったっけ?」

 実際に村人は見知らぬ他人である誠にかなり明るく挨拶をしてくれている。格好を見られた時に変な目をされたが。

 それどころか乾パンや水などの食料まで無償で渡してくれた。

 一応それとなく村人に色々情報を聞いておくと、街道を進めば王都に着くし、魔物にも襲われることはまったくないらしい。

 さらりと魔物という単語が出て来て頭を抱えたくなったが堪え、誠はお礼を言って去る。

 太陽はまだ空から大地を照らしていた。この世界に来る前は夜のはずだったのに。

「さーて、とりあえず王都に行ってみて――その先はその後考えよう」

 かなり行き当たりばったりの旅だが、誠は無理矢理元気を出して歩いた。

 そして誠は気づかなかった。

 魔物が出ないとは言ったが、山賊に襲われないとは限らない、と。



 結果から言えば、山賊には襲われなかった。

 ただ山賊にやられたと思われる残骸があったが。

 元は荷台であったであろう残骸に近づいて、思わず鼻を抑えた。

「気持ち悪い匂いが……」

 それはいわゆる死臭という奴だったのだが誠は気づかない。

 代わりに気づいたのは荷台の残骸に埋もれた箱。

 鼻を抑えながら箱を引っ張り出して開けてみる。中身は剣が一本と黒いスーツが一着。

 ただし剣の鍔と刀身の間に大きな赤い宝石があった。

「変な剣だな。耐久性は大丈夫かね?」

 剣を持ち上げて見てみるが、専門家でもないのでわからない。

 スーツの方は妙な手触りがするのは分かるのだが、何が違うのかも分からなかった。

 誠はスーツを手に取り今着ている服と変え、剣を手に取る。

「これであんまり変な目で見られないかな……」

 鏡がないので自分がどう見えるのかはわからないが、これで少しはマシだろう。

 誠はそのまま立ち去ろうとして、ふと思い出したかのように戻ってきた。

 手を合わせて呟く。

「持ち主の人すいません。貰って行きます」

 誠はしばらくそうした後、街道を歩いて行った。



「……づ、づいだ〜」

 次の日の朝、誠は城門の前まで来ていた。ここまで不眠不休で歩いていた。

 歩き続けた理由は至極単純で、夜の道が怖かったからだ。

 おかけで身体は重いがそれよりも早く休みたいという気持ちでいっぱいだった。

 少しフラフラとしながら歩くと、突然槍を持った衛兵らしき人に止められた。

「通行証を見せろ」

「…………」

「早く通行証を見せろ」

 通行証、そんなものを持っているわけがない。

 事情を説明するべきか、それとも言いくるめるかどうするか。

 誠が本気でそんなことを考えていると怪しんだ衛兵が槍を向けてくる。

「なんだ、貴様通行証も持たずに来たというのか? ……まさかウェアウルフか!?」

「え、えーと……」

 なんだかまずい方向に話が進んでいる気がした。衛兵が更に槍を近づけてくる。

「貴様を拘束させてもらう。おとなしくしてろよ?」

「は? え? いや、ちょっ……」

 ジリジリと後ずさる誠を衛兵はジリジリと近づいてくる。


「何をしてるのよジョン」


「ジョン?」

 突然後ろから声がして振り返ると、目の前に白馬がいた。素人目でも立派な馬だと思った。

 その白馬が引っ張る馬車から顔を出している水色の髪をした少女が続ける。

「まったく、勝手に走って行っちゃって……そんなに楽しみだったのかしら?」

「……えーと、ジョンっていうのはこちらの衛兵さんですか?」

「寝ぼけてるの? 貴方しかいないでしょう」

「……そうか、俺はジョンだったのか……」

 何やら奇妙な方向で納得した誠を見て少女は頷く。

「そうよ、ジョン。とりあえずそこの門を開けさせてちょうだい」

「だ、そうです衛兵さん。……衛兵さん?」

 衛兵は何やらうろたえて、突然敬礼をして大きな声を出す。

「し、失礼いたしました! すぐに門をお開けいたします!!」

「ジョン、貴方も馬車の中に戻りなさいな」

「わかりました」

 そっかー、俺はジョンだったのかー。と呟くながら誠は馬車に乗り込む。

 やがて動き出した馬車の窓から見たのは、綺麗な敬礼をした衛兵だった。

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