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そして今日も、紙オムツを買いに行く

作者: 筧 耕一
掲載日:2013/10/07

短編小説には登場人物に名前をつけない。 という信念をつらぬいております。 理由としては短編だと人の名前は覚える前に終わってしまうからです。

 この小説で少しでも笑ってもらえたり、涙してもらったらありがたいです。(笑いすぎての涙でも結構です。まぁそれは有り得ませんが・・・)

 キューピットを僕の独断と偏見で書いてますので、フィクションとしてお楽しみください。

 突然ですが皆さん、キューピットというのをご存知でしょうか? あの 恋のキューピット と呼ばれる赤ちゃんの姿をした可愛らしい天使のことです。

 しかし、実態は皆さんが思っているほど可愛い天使ちゃんではありません。騙されないで下さい。

 さて、今僕は何故そのような事を考えているか分かるでしょうか?


 実は……

「おら! テメェ、俺が好きな色は赤だって言ってんだろ? この腹巻きは何色なんだ?」


 そう、今の僕はそのキューピットと呼ばれているパンツ一丁の子供天使に叱責を受けている最中であったのです。

 「おい!! 聞いてんのか?」

 僕が聞いていないと思ったのか、さらに大声でわめきたてるキューピット。

 勿論このキューピットの話などは耳から垂れ流し状態の僕です。


 このキューピットの可愛いらしい外見とは裏腹に怒りの表情を浮かべ、更にはドスの聞いた低音ボイスで怒りをぶつけてくる姿。

 それは皆さんが想像する可愛いらしい天使とはほど遠いでしょう。

 ギャップ萌えとは、このことを言うのでしょうか? もしかしたらこのギャップによってキューピットに更に人気が出てくるのかもしれません。



 そもそも、何故このような事態になったかというと……キューピットというと、あの裸の子供が弓を持ってるってイメージがありますよね?


 まぁ実際に裸だと子供とはいえ色々と問題があるので、パンツを履いて人間界で活動しているという訳です。

 昔は裸でも良かった時代があるそうですが……。

 キューピットが仕事を終えて天界に帰ると、奴等はなんと腹巻きを着るのです。


 別に天界が寒いというわけではないのですが、さすがに毎日毎日パンツ一丁だと、子供は風の子元気な子と言っても、さすがに風邪ひいてしまいますからね。

 今の時代のキューピットに腹巻きは必需品なんです。

 普通に服を着るとただの子供に見えてしまうので、キューピット達のプライドが許さないのでしょう。

 腹巻きとパンツだけの奇妙なスタイルに、天界に来た当初は驚きましたが、今はもう慣れてしまいました。


 ちなみに僕は人間から天使になった人なのです。

 普通は天使は産まれてからずっと天使らしいのですが、たまーに人間界からも募集しているらしいです。

 僕は丁度その募集期間中に、運良く人間界で亡くなってしまったので、人間から天使へ生まれ変わり天界に召喚されました。

 しかし、その例外に近い天使の僕ですが、普通なら人間から天使に産まれ変わった男として、なにか特殊な力を持っている。といったことがあるはずと思いますが、全くそんな事はありません。


 その証拠に、今の僕の天界での仕事と言えば、このキューピット達の雑用係みたいな事をやらされているのです。


 「おい! 聞いてんのか!」

 さて、耳元で小虫が騒いでいるのは無視してください。 正直、妄想が長かったのでこのキューピットの事を忘れていました。

 皆さんもそうでしょう? 別に責めてませんよ? 安心してください私も忘れてました。



 え? 可愛いキューピットがここまで醜い顔で怒ってるのだから相当悪いことしたんじゃないかって?


 脱線しましたが、そもそもなんで、このキューピットが怒ってるのかと言うと、今日僕は人間界に降り立ち、キューピット達の為に新しい腹巻きを買ってきたのです。


 キューピット達は毎日腹巻きを着ては洗濯、着ては洗濯しているので、あっという間にボロボロになるのです。

 だから、たまに腹巻きを補充しないといけないのですが、このキューピット共は好みの色が細かい奴がいるのです。


 朱色じゃないと着ない! とか、青は嫌いとか!


 今、怒っている天使は青色が嫌いらしく、自分は赤じゃないと着ない! なんで青を買ってきたんだ! と叫んでいるのです。


 だったら、自分で買ってこいやー!!

 と叫びたいのですが、キューピット達というか天使達は、ほとんど人間界に足を踏み入れないために、お金の使い方すら知らないのです。


 もし、そんな彼らが人間界に降りてしまったらと考えてみて欲しい。

 キューピットは外見からしてまずアウト~!

 そく警察に保護されるでしょう。更にあの生意気小僧達は恐らくナマ言って警察を困らせる事になるでしょう。

 かといって大人の天使は、信号無視とか常識はずれな事をしそうですし。 


 まぁだからこそ、たまに人間界から天使に召喚されるんですけどね。人間界をよく知っている天使として主に日用品の買い出しとかに。

 ちなみにですが、キューピットの履いているパンツなんですが、あれって人間界の紙おむつなんです。


 僕の仕事は主にキューピット達の雑用であり、腹巻きや、紙おむつを時たま人間界に買い出しに行っているのです。


 キューピット達もプライドが邪魔するのか、人間界に仕事に行くときは腹巻きをとって仕事に行くもんだから、人間界にいる途中にお腹壊して、紙おむつにモリモリ~ってするもので、紙おむつも頻繁に消費しているのです。


 紙おむつメーカーの売り上げに毎年貢献しているのは天界くらいなものだと思うんですよ。


 「おい! これ以上反応無いなら、鼻の中に水突っ込むぞ!」

 怒りのキューピットがいよいよ暴力に訴えようとしていた。またもやすっかり彼の存在を忘れていました。


 さすがに鼻に水は阻止するために、そろそろキューピットの相手をしてあげなければなりません。

 ちなみにこのキューピットは、いつもわがままばかり言うやつでした。


 どうせ、今もお腹壊してモリモリしているくせに。 と思いながらも受け答えする僕。


 「どうも、スミマセン。赤色は売り切れていたんですよ。今回はこれで我慢してください」

 僕がペコペコしながらそこまで言うとキューピットは、仕方なく納得したようで、しぶしぶと青色の腹巻きを着た。

 「ちっ しかたねぇなぁ。これで我慢してやるよ。 べ、別に勘違いすんなよ? お前の為じゃないからな? 売り切れてたんだから仕方なくだかんな」



 え? 

 そこでまさかの ツンデレを入れてきた? おいおいどんなキューピットだよ。

 危ない所でした。下手したら思いっきり「ツンデレか!」 って言う所でしたよ。


 実際に売り切れてるような事はなかったが、わざわざそれを正直に言ってやる必要は無い。 彼らの文句をイチイチ気にしていたら、ストレスが溜まってしまいますからね。

 第一、売り切れていたって言うだけで諦めるんだから、そんなに青が嫌って訳ではないのです。



 キューピットを追い払った後、これから僕も仕事に行かなくてはならないのです。

 キューピット達とは違って一回の仕事で何ヵ月も天界から離れるということは無く、たった数時間の仕事ですがまぁ楽で良いです。



 そう、僕のこれからの仕事は、人間界に降り紙おむつを買うことにある!!



 もう人間界は夕方に近いので、僕は慌てて人間界に出張の手続きをすませ人間界に向かった。


 数ヵ月ぶりの人間界だったが、街の風景はほとんど変わってはいなかった。

 たまに天界から、人間界を見ていて世の中の動きを知っているとはいえ、実際に歩いてみると故郷に帰ってきたって感じがする。


 やはり目的のブツ(紙オムツ)を買うには日本でなおかつ自分が住み慣れた街で買うのが一番だ。しかも天使達には何故か日本製の目的のブツ(紙オムツ)が好評だったみたいです。


 まぁ、故郷に来る理由は他にも理由があるのだがそれはそのうちお教えしましょう。


 僕が死んでからもう3年近くたっているが、街は小さな所が少しずつ変わっているだけだった。

 しばらく河川敷をブラブラと歩いていると、一組の親子連れが歩いてきた。


 やはり来ましたか。


 予感はしていた。 僕が買い出しに行く時に高確率で出会う女性でした。今日は子供を連れているようだった。


「久しぶりね。アナタ」

 女性は僕の前で立ち止まると、そう言って僕を引き止めた。

「久しぶり。一年ぶりくらいかな?」

 そう、僕がこの街に来るもう1つの理由は、この女性に会うためです。

「元気だった? まぁ天使?……なんだから風邪ひいたりしないとは思うけどね。それにしても、もう3年近く経つのに全然変わらないわね」

 彼女は風で髪をなびかせ僕の身体を見まわしながら言ってくる。

 「前に言ったと思うけど、天使は寿命が無いんだよ。だから僕の成長は3年前で止まっているんだ」


 僕がそこまで言うと彼女は、成長しないなんて良いわね~。最近皺が殖えたり、ウエストが成長して困ってるのよ。などと溜め息まじりで言っていた。

 その間、抱っこされていた子供は無垢な目で僕をじっと見ていた。


 僕は子供に近寄って手をとった。

 「やぁ、しばらく見ないうちに大きくなったね」

 僕が男の子を抱き上げると初めは僕をじっと見ていたが、急に警戒を解いたのか笑顔で僕のされるがままになっていた。


 「さて、僕はそろそろ行かないと」

 2、3分談笑しただけだったが、あまり多く時間をとってはいけなかった。

 彼女は寂しそうな表情を浮かべていたが、僕はそれに気づかないふりをして親子と別れた。



 僕は彼女と別れて目的のスーパーに向かった。

 今日は運が良いことに、紙おむつの特売日だったらしく、いつもより200円ほど安くなっていた。

 僕は4つほど買ってスーパーを出た。

 スーパーを出たあとに、人目が付かない場所に行き、天界にテレポートした。


 天界に着くと、とりあえず紙おむつ置き場に行き、今日の分を補充してからいつもの仕事場に戻った。


 やはり、今日も会いましたか。

 あの女性は僕が人間だったときの知り合いであり、というか、僕の妻だ。

 いや、もう 元 が付くだろう。

 つまりあの男の子は僕の息子というわけだ。

 僕は幼い子供と妻を残したまま突然の病で他界してしまった。


 だが僕には彼女に言っていない秘密がある。

 それとは人間であった僕と今の僕では全くの別人といってもいいのです。


 まず、人間であった時の記憶は一切無い!

 記憶は無くても、人間だったときの僕の知識は残っていた。エピソード記憶を全て、意味記憶に変換させられた。


 簡単に言うと、人間だったときの僕の人生が書かれた本を読んだ。みたいなことと思ってもらいたい。

 僕の人生がどういう道かは知っているが、第三者の視点的な感じである。ただ実感のない知識として記憶している。という感じだ。

 その為か、彼女に関する罪悪感などはほとんど無くなってしまっていた。 彼女を不幸にしてしまったという自覚はあるのだが。


 おそらくこれから色々な人に奉仕しなければならないので、神が余計な感情を持たないように必要最低限の感情しか持たせなかったのでしょう。

 感情が無い事、寿命が無いというのは、こうなった僕にとっては不幸なのか幸運なのかは分からない。



 そんなこんなの毎日を僕は過ごしていった・・・


 ある日僕が人間界に行くといつもの川原で例の女性に会った。僕はよく人間界に行くが、決まった日付では無いので毎回毎回女性に会うわけではなかった。


 数年ぶりに会う彼女は、もうベテランの母親の顔をしていた。

「久しぶりね。ここ5、6年会えなくてちょっと寂しかったわよ」

「すまないね。決まった日にはこっちに来れないから、君が時間を合わせてくれないと会えないからね」


 一応時間がとれる時はここに来ているんだけどなぁ。 と彼女は照れたように言った。

「あのね? 一つ報告しなければならない事があるの」

 真剣な目で僕を見つめてくる。

「あの……私……再婚したの!……2年前に」

「そっか……オメデト」

「うん。いろいろあってね。息子も気に入ってくれた優しい人だったの」

 彼女はそこまで言うと、穏やかな表情をしていた。 よっぽど良い人とめぐり合ったんだな。

「幸せそうでよかったよ。僕じゃ……幸せにできなかったからね」

「そんなことない!!! 私はあのときも充分幸せだったよ! そんな悲しい事言わないで!」

 彼女はそう叫んだ。彼女の目には涙が浮かんでいた。


「ごめん。無神経だった。君がそう言ってくれるなら良かった。僕の心残りだったからね。大丈夫、君なら幸せになれるよ」


 その後、成長した子供の写真を見せてもらった。 小学校の入学式の写真などだ。

 入学式の写真には親子3人で写真に写っていた。

 写真に写っている、この優しそうな男の人が夫なのだろう。 やはりいい人そうだ。


 そうして、僕らは別れた。



 僕が死んでからすぐの時は一ヶ月に一回くらい会っていたが、最近向こうも色々と忙しいのか数年に一度しか会えないようだった。

 たまにしか会えないというのは感情の無い僕でも寂しい半面、僕の事を忘れて新しい人生を歩んでくれていると考えると嬉しい半面である。


 またある時人間界で彼女に会うと、おばさんの顔になっていた。

 

 彼女はあれから更に子供を生んだらしく、幸せな家庭を築いていた。

 たまに会う時があり、その度に息子の小学校卒業の写真、中学校卒業の写真などを見せてくれた。


 会うなり彼女は笑いながら僕の全く老けない身体を見ていた。 僕と同い年の彼女がいつの間にか40代の女性になっていた。

 なにも知らない人が見たら、20代の僕と40代の彼女の二人、見ようによっては親子に見えるのかもしれない。

 「息子がね、こないだ成人したの。これが成人式の写真」

 そうやってケータイに入っている写真を僕に見せてきた。 写真の息子は真面目に育って優しそうな青年になっていた。

 どことなく、若いころの僕に似ている顔な気がする。そう言うと彼女は、今も若いままじゃない。と笑っていた。


 天界では永遠に続く毎日変わらない生活の為に、時間の流れがゆっくりに感じるが、人間界ではすぐに色々変わってしまう。

 いや、すぐに変わってしまうと思う時点で僕もすでに天界の時間の流れに慣れてしまったのかもしれない。


「でも、東京オリンピックが無事にすんでよかったわね」

「あぁ、あの時は天界でも色々フォローしなければならなかったから大変だったよ。なるべく弱い地震にしたんだけど、時期が上手くいかなくて開催1年前に起こしてしまったけどね。 まぁ日本人の技術ならすぐに直せると思ったけどね」


 やはり恒例の雑談をしたあとに彼女と別れた。

 そして恒例の目的のブツ(紙オムツ&腹巻)を買ってから天界に帰った。



 それから何年も何年もたつ。

 死んでからなにひとつ変わらない僕に対して彼女のほうはどんどん変わっていった。

 ある時は定年を迎えた彼女や同じく定年を迎えた夫に会って挨拶したり、ある時は彼女と一緒にいて、すっかりお父さんになっていた息子にあったり、ある時はもう介護が必要不可欠になってしまうくらいの年齢になり杖をついている彼女だったりした。


 そこまで歳を重ねた彼女だったが、僕にとってはいつまでも出会った頃の10代の姿に見えないこともない。


 ある時、僕が人間界に降りた時に河川敷に60代近くになっていた息子に会った。

 20代の姿の僕と60代の息子、少し違和感があるかもしれない。

「母さんが去年亡くなったんだ。 母さんからの遺言で、「私はすごく幸せだった。亡くなってしまった大切な人に会えるのだから。もしかしたらあなたは孤独になり、これから不幸になるかも知れない。その時に傍にいれなくてごめんね」だってさ、母さんはあなたの事を最期まで心配していたよ」

 息子はそう言って彼女の事を思い出したのか目に涙を浮かべていた。

 いくら、自分の記憶が意味記憶しかない僕でも彼女を失った悲しみがあった。

「今度、娘を連れてあなたに……父さんに会いにくるよ」

「あぁ、楽しみにしているよ。いつの間にか孫までいるんだなぁ」

「もうすぐ、ひ孫まで出来るよ」

「あぁ、月日が経つのは早いな」

 そうして息子と別れた。

 



 それから、400年もたった。

 もう僕の子孫はかなりの数になっていた。今の世界には誰も知る人がいない。

 知る人がいないと人間界に関心が薄くなってしまった。

 昔の彼女の遺言の言うとおりに孤独な日々に耐えなければならない時がある。

 知り合いと会えるという事はどれだけ幸せだったのかを失ってから実感した。



 天界でボーっとしていると、いつも生意気なあのキューピットが寄ってきた。

「もう、お前が来てから400年近くたっているけど、大丈夫か? 人間から天使になったやつらは、これくらいになると孤独で潰れちまうんだよ。俺達は寿命が無いが、別に死ぬことは出来ない事じゃないからみんな潰れて死んじまうんだよ。だから……よく人間を募集しているんだよ」


 そっか。なるほどな。どおりで人間から天使に変わった人が少ないわけだ。 僕達は使い捨てのような存在なのかもしれない。

 いや、死ねることは神としての、最期の贈り物 なのかもしれない。


「俺の知っている天使ももう数え切れないくらい死んじまった。 俺ももう何十万年もキューピットやってるからな。それでも別れはいくら経験しても悲しくて慣れないんだよな。 出来ればで良い……出来ればで良いから死なないでくれ! 俺をこれ以上孤独にさせないでくれ」

 キューピットの目には涙が浮かんでいた。


 僕は死ぬか、生きるか迷いながらも……




 そして今日も、紙オムツを買いに行く。











FIN

今回のテーマは、キューピットの下着って紙オムツみたいだなぁ。と 永遠の命の辛さ、タイトルのギャップを目指してみました。

 コメディー的なタイトルで実は後半はシリアスをぶち込む、しかし最終的にこの小説のタイトルはそれしか無い! と思わせられたら良かったです。


 東京オリンピックをネタに取り入れたのは、僕ら被災地の「まずこっちからだろ! こっちは放射能あるんだよ!」という嫌味を込めたものです。

 知っていますか? 福島では今でもニュースの天気予報の後に、放射能の濃度が表示されるのを。



 それはさておき感想や評価を気軽にお待ちしております。

 この作品が気に入ってくれたなら、ほかの作品を読んでもらえたら嬉しいです。 などと宣伝してみました。



以上です。

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