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――――……?―――――
体中が痛い。なんだ?
俺なにしてたんだっけ。修吾がとばしたボール拾いに行ってそんで……
「!!!!!!」
浩介は飛び起きた。というのも何をしていたか思い出したからではなく、頭部に鋭い痛みを体が思い出したからだ。
「……ぃてー………」
「やっと起きたか」
「はっ?」
気づけば俺はベッドに寝かされていた。ここどこ…?保健室?…周りを見渡すと、ベッドが2つのシンプルな部屋に雑多に救急道具やらが置いてある。保健室らしい。その保健室らしさに違和感を覚えるのは壁にもたれている長髪すぎる長身すぎる男1人。
「あれ、さっきの不審者…」
「殺されたいか」
「ひっ」
こええ、思いっきりこええ。なんで不審者保健室入れるの?俺いまからどうなんの?殺されんの?それともなんかの人質?学校ジャックされてんの?
「まー落ち着きなって白さん」
ふいに幼い声が聞こえた。なんだ、まだ人いたのか。保健室でサボりか?んじゃ先輩か?
「だいじょーぶかーい?」
ぴょこんとドアから顔を出したのはどう考えても10歳いってるかいってないかくらいの男の子。
「ちょっと頭強くぶつけちゃったからね、バカに一歩近づけちゃってごめんね」
「大丈夫ですゲンブドノ。もとからバカですから」
「うるっせえよ!!いちいちむかつく!」
つかなんでこの短時間でバカ設定されてんの!?なにこのスカした男は!
「白さんはじゃあ戻ってていいよ、僕が話とくよ」
「そうですか、では」
カツカツと音をたてて男は保健室から出て行った。あーよかった、俺アイツ嫌いだ。
「さてさてはじめまして!僕はゲンブっていいますよろしく」
にこにこしながら男の子は自己紹介を始めた。いや頼んでねーよ。助かるけど。俺は聞き慣れないような名前に頭をかしげた。
「あぁそう。日本人ぽいけどハーフなの?」
「はーふ…いえ混血ではないですね」
…?なんだこの語彙力。いいのか悪いのか判断つかない。
「さきほどは白さんが失礼を重ねたみたいですね。すみません」
「だれ?シロサンって」
「あなたをしっかり罵ってたイケメンさんです」
アイツか…てかイケメンと認めたくない。心がぶっさいくだ。さらに言うならぶっっさいくだ。それにしても罵るってよく知ってるな小学生なのに。年俺より結構下だろ。俺ゆとり教育だったのかな。などとぼんやり考えていた。
ちょっと待て、なんで俺より年下の子が中学の保健室にいるんだ、コイツ絶対小学生だろ。
「白さんはめったにあそこまで人をバカにすることはないんですけどね、珍しいですねえ。」
「いやまてまてまて、君小学生だよね?なんで中学入れてんの?」
瞬時、ゲンブがきょとんとした。その後、ほわっとした笑顔を浮かべた。
「あの…ここどこがやっぱりわかりませんか?」
その笑顔は侮蔑するでもなく、ただ温かかったが、違和感を覚えた。
ゲンブは腕を組んでうーんと唸ったあと、ぽんと手を打った
「金田浩介さん、正直にお話ししますが、ちょっと細工はしてありますがここは保健室ではありませんし、中学校でもありません。あ、ついでに病院でもありません。もうぶっちゃけますが日本じゃありません」
* * *
「はあ?」
俺はたぶん当然の反応をしたはずだ。とりあえずいきなり色んなことを否定されて、思考が一気に止まった。
「えーと、きちんと話すので安心してくださいね」
完全に諭すような言い方だった。ほんとにコイツ小学生か?というほどの落ち着きぶりだ。
「というか、白さん何にも言ってなかったんですね」
困ったようにそのゲンブは頭をかいた。その名前を聞くとすでに怒りのボルテージが上がるようになってしまっていることに対して俺はひそかに頭を抱えた。
「ここは日本からとおーくに離れた大きな島なんです。白さんがあなたをここに連れてきました。」
「そういえば『探していた』って言ってたなアイツ」
「ええ、まあそうなのでしょうね。」
んー、とゲンブは首をかしげた。大きな黒い瞳はこちらをじいっと見ている。
「場所を変えましょうか、百聞は一見に如かず、ですから。頭の具合はもう大丈夫ですか?」
ゲンブは窓際の方に歩いていき、窓を開けた。
「ごめーん。僕ら移動するからねー」
外に向かって叫んでいる。もしやコイツも頭おかしいタイプ?俺ほんとに大丈夫か?
「外でよっか」
ゲンブは振り返って俺を促す。いまはコイツの言うこと聞いてた方がいいのだろうか。
俺はベッドから出ると、下に置いてある、さきほどまで履いてたはずのスニーカーを履く。走り寄ってくるゲンブを見ると、やはりゲンブは俺よりかなり小さかった。
ゲンブが引き戸を開ける。後ろからその光景を見ていた俺はその場に固まる。
「なにこれ」
くるりとゲンブが俺の方を見て、にっこり笑う。
そこにあるのは、本やゲームで見るようなファンタジーのような光景だった。あらゆる四足動物が闊歩しているのまではまだ現実味があるが、空に龍のような生き物が飛んでいる。人もちらほら歩いているが、中国人のような恰好、ゲームの中の登場人物が着ていそうな恰好だ。
「ね、日本じゃないでしょう?」
* * *
俺は呆然としたままゲンブに連れられるまま歩いた。ゲンブはどうやらかなり偉い人らしい。会う人会う人にお辞儀をされてた。
「この辺で君の相棒と待ち合わせしてるんだけど、ちゃんとくるかなあ?」
「相棒?」
「そう、これから君のことを助けてくれるステキな相棒」
「てか、やっぱり説明してくんない?ほんと意味わかんないんだけど、ここはゲームの世界みたいなもんなの?」
ゲンブは口を半開きにしてぽかんとした顔でこちらを見た。そしてすぐににっこり笑う。
「大丈夫、もうすぐ説明係がくるからね」
何分たったかわからないが、すごい勢いで風が吹き始めた。
「なっ!?なんだ!?」
「きますよー」
風はすぐにやみ、やんだかと思えば俺らの目の前に大きな獣が立っていた。
「遅れてごめんねー」
獣…よく見れば竜にも似ている。柔らかい口調でゲンブに話しかけた。思いっきり獣の見た目なのにコイツも喋れるらしい。
「遅れすぎですよー待ちくたびれました。」
ゲンブも当たり前のように会話してる。ほんとにファンタジーなんだなと思ってしまう。
「だって急すぎるよー…で、この子がそれ?」
獣は俺の方に向き直る。
「そうですよー早く連れていってあげてください。僕も帰らないといけないので」
「ほいほーい、ありがとねー」
妙に違和感ない会話を終わらせるとゲンブは俺に向き直ってお辞儀をした。
「じゃあ僕は自分のクニに帰りますので、この竜をあてにして頑張ってください。ホームシックになったらいつでも言ってね」
「ホームシックならすでになってるんだけど」
その言葉に竜もゲンブも吹き出した。
「だーいじょぶ、すぐ慣れるよ」
竜が初めてかけてきた言葉は温かく、とても初対面であるとは思えないような感覚だった。
* * *
「それでは僕たちもクニに帰ろうね」