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「浩介、サッカーしよう」

 五厘に頭を剃ったアホ面が話しかけてくる。真っ黒な肌、そして無駄に白い歯。まさに野球部。いや歯は関係ないか。

「あーおっけ。」

 俺はいつものように気だるく返事をした。立ち上がり、教室を出る。昼休みの恒例行事。男子ってやつは動かなくていいときも動きまくるのだ。動いてはいけないときも動きまくるのだ。五厘頭と一緒に教室から出た。


 俺は金田浩介。画数の少なさには結構自信があるが、ありきたりな名前で結構人から覚えられない。平々凡々の中学生だ。

「今日あんま人数集まってないから4対4でやることになったぜ」

「へえ珍しいな、クラスの半分以上の男子はいっつも来るのに」


 この坊主の名前は谷宮修吾。名前にこんなに口がついてるせいか、よく喋る。コイツのかーちゃんはもっと喋る。たまに会うとそれはもうすごい。

 修吾とは一番の友達でコイツのおかげで中学生活の滑り出しは上々だった。顔の広い修吾経由で友達はむちゃくちゃできたし、部活ないときはよくコイツとかと遊んでる。

 俺はサッカー部、修吾は野球部。お互い笑えるくらいド下手。しかし修吾は野球だけが下手でサッカーとかバスケは上手い。なんで野球部入ってるんだコイツ。


「んーやっぱあれビビってんのかな」

「あれってなんだよ」

「あれ、浩介知らないの?おっくれてるぅー」

 うざい。かなりうざい。

顔にイライラが出てたのか、修吾はあわてて話し始めた

「今日の3時間目隣のクラス体育だったじゃん?なんかそんときあれ、アイツ…ノブがすんげ変なヤツが運動場にいたって言って大騒ぎになったんだよ」

「変なヤツ?」

 そう!と言って目をキラリを輝かせる修吾。よくぞ訊いてくれましたの顔。うぜえ。

 ノブっていうのは隣のクラスのお調子者。修吾と同じ小学校だったらしく、俺も最近仲良くなった。ノブと同類でアホの子だ。

「すんげ髪の長い男なんだって。しかも何もしないでじーっとどっかを見てたんだとよ。不審者だ!って話になってる」

 そう言って廊下の窓から運動場を見下ろす。

 俺もつられて見てみると、いつになくまばらな運動場。だがそんな男はどこにもいなかった。

「運動場にいたって…どのへんにいたって言うんだよ」

「ノブが見つけるくらいだぜ?ど真ん中にいたらしい。しかもノブってウソつかないヤツなんだよ、てかウソうけないヤツなんだよ。アホだから」

 お前が言うな、ノブがかわいそうだ。

 ひそかにノブを憐れみながら続きを聞くことにした。

「しかも突然出てきてど真ん中にいたから気づいたのがノブだけじゃなくて何人かいたらしい。最初に騒ぎ出したのがノブなんだ。ほかの見つけたヤツはビビりすぎて固まってた…って。」

「へえ」

 たしかにいきなり出てこられたんじゃびっくりして何もしゃべれなくなるかもしれない。あれか、痴漢の原理か。

「そいつ捕まってねえの?」

「それがよくわかんなくてさ、騒いでたらすんごい強い風が吹いてきて砂がぶわってなってさらにパニックになってたときに消えちまったらしい。やばくね?俺はそいつが不審者じゃなくて何かすっげえトコからの使者だって思うんだけど!かっこよくね!?」

「あーお前はバカの国からの使者だな。お前もかっこいいわ」

「うるせえ!むっつりすけべ!」

いやいやつながってないぞその言葉。

「じゃあまたそいつが出てくるかもしんねってことでビビってるわけか」

「そーゆことだぜ浩介。俺会ったらサインもらいにいくわ」

「やっぱお前大バカの国からの使者だったんだな」


 *  *  *


「すくねーなー。まあいっか、はっじめーるぞー!」

 草野球ならぬ草サッカーもどきが運動場では繰り広げられてる。

 サッカー部の俺はやたらマークされるけど、大丈夫だお前ら、俺は下手だ。テキトーなときでも男子は無駄に燃え上がる。今日は人が少ないせいで広々と使える。汗だくになるが気にしない、それが男子だ。

 

 修吾の蹴ったボールが遠く飛んだ。拾おうとした俺を越えて、サッカーゴールを越えて、草むらへ吸い込まれていった。

「あちゃー、とんだなー」


いやだからなんで野球部なんだよお前。

「取ってくるわー」

一番近かった俺が必然的に取りにいく係になった。背中にすまーんとかあざーすとかの気の抜けた声がかかる。

 暑い夏の日、草むらも元気に成長しまくっていた。まあよくボール拾いはするから慣れてるんだけど。


 ふと、ものすごい視線を感じた。と同時にすんごい悪寒が走った。本能で「ヤバい」ということが理解できた。


 視線を感じる方へゆっくり自分の視線を動かした。

「――――あ…」

 ばっちり目があった。てかガン見されてる。

「・・・・・・・・・」

 その相手は真っ黒な長い長い髪のデカい男。デカいといったら勘違いするかもしれないけど、ゴツいんじゃなくてすらーっとしてる。背が高いおかげで男だってわかるけど、背が俺くらいだったら確実に女で通る顔をしてる。

「おい、クソガキ」

「あ?」

 いきなりクソガキはさすがに俺でもキレる。相手が不審者疑惑でもキレる。

「あじゃねーよ。てめどんだけ探してやったと思ってんだよ」

「いや意味わかんないっすけど。誰っすかあんた。不審者っすか。ちょっと今から警察呼ぶからそこ動かないでくだ」

「うるせーな誰が不審者だちびクソガキ」

 周りの風が強くなる。

「うおっなんだ台風でも来たのか?」

「………つれてく」

さらに風が強くなって俺は目を瞑った。






「こーすけーどんだけボール探してんだよーインディジョーンズごっこしてんなら俺もまぜろー」

「いやお前なにその思考。浩介いないとコイツのボケの処理できねえよ」

「篤志いい仕事してるな」

「ヒロも探せよ浩介とボール。」

修吾たちが浩介の帰還の遅さに耐えきれず、サッカーをしていた少年たちは草むらに集まり浩介とボールを探し出した。



「あ、普通にあったぜボール」

修吾がボールをあっさり見つけた。

「でも浩介いないな。どこいったんだろ」

「もうすぐ昼休み終わっちまうけど?」

「んー浩介がサボるとか考えられんしなー、」

「先生言っとこ言っとこ」

間抜けな会話の終焉は予鈴だった。


「やっべ、遅れんじゃん!」

「浩介は後で来るだろ!急げ!」


運動場からは小さな群れが慌ただしく消えていった。




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