アイを知った天使
これは二時間で書き上げた駄作です(汗)文はぐしゃぐしゃだし読みづらいかも知れません(^^;)以上を踏まえた上で、閲覧⇒よかったら指摘お願いしますm(__)m
天使、って言っても、ボクには羽根がない。
天使、だからって、白いローブを着てる訳じゃあない。
人間はソウゾウで、何でも決めちゃうからネ。
ボクにしてみればいい迷惑………。
だだっ広い部屋に一つだけ置かれた、小さな椅子の浅く腰掛け、机に突っ伏してボーッとしていると。
ガラガラ、と音がして人が近づく気配がした。
「キョウ………」
足音はしないけど、声で誰かという事はわかる。それから、何が言いたいかって事も。
「ユウも、ボクの事聞いたんだネ」
ボクは顔を伏せたまま、立ち上がった。
きっと、泣き腫れた凄い顔してるから。
「禁断を犯したから、羽根をとられたって事は。それ以上は知らないよ」
ユウは優しい声で答えた。でも、顔は見えないからわからない。
「ボク……」
「聞かせてくれない?」
声の"笑顔"。ボクは、顔を見られなかった。それから、椅子にもたれる様にして座った。
「あの日、ボクはたまたま下に降りて、散歩してたんだ」
声が少し震えてる気がする。
「通りかかった公園から、悲鳴が聞こえた。助けて、助けてって。ボクは、そこまで飛んでった。人間界は昼だったんだけど」
ボクの知識だと、"下"の昼はとても騒がしいはずだった。
いや、公園だって、例に逸れてはなかった。
ユウは、何も言わず隣に座った。羽根が体に触れて、少しくすぐったい。
「公園には、砂場にうずくまる女の人がいた。近くには、髪を振り乱して怖い顔してる男の人もいた。
公園の外には、おばさん達もいた。男の人は、女の人の人を、みんながいる前で殴ってたんだヨ……」
話す度に鮮明に思い出す。ボクにとっては、初めて見る、人間の汚い部分だった。
気がつくと、ユウはボクの手を強く握ってくれていた。「……辛いか?無理して聞きたい訳じゃないから、やめてもいいよ」
ボクが震えてる事に、気付いたのだろうか。
顔をあげると、ユウは眉間に皺をよせ、とても辛そうな顔をしていた。
ボクだって、こんな話聞かせたくない。
「でも、一人で背負うの、苦しいんだ」
ボクは、ゆっくりと首を振ってみせた。
「………その日はすぐに帰ってきた。でも、気になって何度か見に入ったんだヨ。見る度に、痣や傷が増えてった。彼女は、いつも泣いてた」
膝を抱える様に座り直すと、ボクは足の間に顔を埋めた。
「今でも、彼女の泣き声が聞こえてくるみたいだヨ」
ボクの啜り泣く声が、部屋に響く。
顔は見えないけど、ユウも泣いてるんだろうか。
彼女の事を、想像してるのだろうか?
―彼女は、とても綺麗だった。
いつも泣いてたし、顔も腫らして傷だらけだったけど。
色の白くて漆黒の長い髪を持った―ボクが言うのも変だけど―本当の、天使みたいに。
少しの沈黙の後、空気に耐えかねたのか、ユウは部屋を出ていった。
けれど、すぐに戻ってきて、
「ほら」
温かいミルクの入った、カップをボクに差し出した。
カップを伝わる熱は、ボクをホンの少し、慰めてくれるみたいに感じた。
「……ボクは天使なのに、人を幸せにしたり、恋を叶えたり出来ない」
人間が考える天使とは違う。ボクら天使の出来る事は、人間のソウゾウする、死に神と同じなのに。
ボクはそれを学校で習ったのに。
「ボクは、二ヶ月も男の暴力を見てたんだ。何にも出来なかったんだヨ」
「キョウのせいじゃない」
ふいに、とても低い声で、ユウが呟く。
「…キョウじゃなく、俺だったとしても、何も出来ないだろ。キョウのせいじゃないじゃないか」
声が震えてる。ボクは、ユウに辛い思いをさせてるんだろうか…?でも……
「ボクだってわかってる。現にボクには何もできなかった。でも、彼女の笑顔が見たかったんだよネ」
人間の思う、天使になりたかったんだよ。
でも……
「でもある日ね、ボクは初めて彼女の笑顔を見たんだ」
…けどそれは望んだ結果じゃなくて。
「……」
「とても幸せそうだった。ボクは、あの男と"別れ"られたんだと思った。でも、違った」
「キョウ……」
彼女を笑顔にしたのは、散々彼女を痛めつけたアイツだった。たった一枚のハンカチ。男が照れくさそうに渡して、彼女を抱きしめてた。
窓の外で、ボクが見たのは、そんな幸せそうな彼女の顔だった。
ボクはすっかり冷めたミルクを、少しだけ口にし、床に置いた。
「男に乱暴されても、誰も助けてくれなくても逃げなかったのは、怖かったからじゃなかった」
顔をあげると、いつの間にか立ち上がっていたユウの姿が目に入った。ぼろぼろと涙を流し、でも拭う事をしないから、床に小さな跡が幾つも出来ている。
ボクは不思議と。
穏やかな気持ちになれていた。
「ユウ、ボクは間違った事をしたね」
もう、ボクの犯した事がわかったんだろう。
ぎゅっと口を紡ぎ、目を堅く閉じて言葉を待ってる様に。
悔しかったんだ、凄く、笑顔が痛かった。
彼女が耐えたのは、男をアイシテたからだって、気付いたから。だからボクは、とっさに彼女の心臓を止めた。
ボクら天使には、そういう"無に還す"力があるから。
騙されてる彼女が可哀想で仕方なかった。
男は、自分の腕の中で崩れゆく彼女に、驚いた様だった。
それから、泣きながら何処かへ電話をしてるのが見えた。
―――
「ボク、間違ってたネ」
ボクの涙はとまっていた。
ユウは涙目になりながらも、それでもボクを真っ直ぐに見つめていた。
「ボクは彼女をアイシテたんだネ。それから、あの男も」
「……"アイ"の事は、俺にはわからない。けど、キョウのした事もわかる気がするよ」
無理矢理に微笑むと、ユウは、
「顔洗ってくる」
と、部屋を飛び出した。
「ボクは、彼女の時を止めてしまった」
独り言は、広い部屋によく響く。
アイの代償に、ボクは羽根を無くした天使になった。