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PERFECT WORLD  作者: ヤトミ
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第九話 【眠りに堕ちて】


再び鼓膜に声が振動する。夢か現実かの判断は出来ないが、この声に聞き覚えがあった。鼓膜に響く声の主はアリス。そして自身とアリスが今向き合っているのは食堂。先程見た悪夢の様な光景と瓜二つで。

またあの支離滅裂で怪奇な文章を口から紡ぐのではないか。もしや自分は未だあの光景から覚めてなどいないのではないか。そんな恐怖が彼に襲いかかる。


アリス「だ、大丈夫?シルフ。表情凄いけど。」

シルフ「えっ、あっ、はい。アリスさんは支離滅裂な事言いませんよね...?」

アリス「例えば?」

シルフ「モグラのさくらんぼタワー...とか。」

アリス「モ、モグラの...何?」


その返答にシルフは心から安堵を覚えた。先程言った事を知らない事から、あの地獄はどうやら現実では無い事は確実らしい。しかし、現実では起こり得ない事が知らぬ間に起こっていた事を彼女の口から告げられる。


アリス「まぁそれは良いとして...私達、寝てたらしいわ。私も含めて食堂にいた全員が。」

シルフ「えっ!?ぜ、全員が...?」

アリス「ええ。」


そう告げるアリスだが、2人が眠った事も食堂が無音な事も理解出来ない。生徒が密集出来る広々とした空間にいた全員が同時に眠る事など有り得るのだろうか。しかしアリスが嘘をつくとも思えず、シルフは素直に彼女を受け入れる。

この状況を理解しようと必死に脳を働かせる中、2人の脳にはある人物が思い浮かんだ。


アリス「あの貴方に水を掛けた人。絶対彼女の仕業よね。」

シルフ「だ、だとしても何の目的が...」

アリス「分からない。だからこそ彼女を追いましょ。」

シルフ「は、はい!」


あの薄紫髪の彼女の仕業と分かった時、2人は同時に立ち上がる。口には残りのサンドウィッチを全て放り込んで。今は少しでも情報が欲しい。その一心で食堂を飛び出した2人だが、食堂の外には先程の薄紫髪の女性の姿は何処にも見当たらない。

周囲を見渡しても彼女の姿は見渡す限りのこの階層には存在していない事が分かる。


アリス「ふぉふぉふぃほひふぁいふぁふぇ...」

シルフ「え?」

アリス「んっ、ぷはぁっ。何処にもいないわねって。サンドウィッチまだ食べてたのよ。」

シルフ「理解です。でも...見つかります...?別の場所に探しに行ったとして、すれ違う可能性だって。」


彼の言う事が理解出来ない程アリスは馬鹿では無い。しかし、何もせず行動を起こさなければ何も進展しないだろう。それを彼女は分かっている。だからこそ結論は1つ。


アリス「見つかるまで探すのよ。すれ違ってもいつかは会える。」


その答えにシルフは納得し小さく頷く。そして2人は再び足を動かし始めるが、やはりこの魔法学校の広さ故にそう簡単には見つからないだろう。彼女達が次に足を踏み入れたのは書斎。

巨大な本棚が幾つもの列を為して並び、身を隠すには好都合な場所。2人は駆け足で書斎を回り、本棚一つ一つの周辺を隈無く捜索する。しかし、何処にもあの薄紫髪の女子生徒の影は無い。

シルフは二階まで続く階段の手すりに手を添えて深く息を吐く。するとカツカツと音を立てて階段を駆け上がる音が鼓膜に響いた。


アリス「どう?」

シルフ「全く...」

アリス「まぁそうよね。」


そう返しながら彼女は再び階段を降りる。足取りが速いのは次の場所に目星でも付けているのだろうか。その彼女の後ろ姿を追う様にして階段を降りるシルフ。そして書斎を抜ける2人は魔法学校の敷地内を陽が落ちるまで駆け巡る。

校舎、各教科担当教室、屋上、校庭。魔法学校敷地内全てを捜索した。しかし何処にも彼女は見つからない。運命の悪戯と呼ぶべきか、試練と呼ぶべきか。再び魔法学校内へと足を戻した際には、既に2人の体力は限界近かった。


アリス「はぁ...結局見つからなかったわね。」

シルフ「入れ違いになったんでしょうか。」

アリス「かもね。なら明日もう一度探すわよ?」

シルフ「あ、はい!」

アリス「お疲れ様。ありがとうね。」


労いの言葉を掛けて彼の肩を軽く叩くアリス。その行動に一瞬動揺するシルフだが、彼女の微笑みについ頬が綻びては笑みが零れた。2人して廊下を同じ歩幅で歩く中で、ふとアリスは足を止める。

彼女の行動に反応してシルフも足を止めるが彼女が歩みを止めた理由は不明。しかし、その理由は突如として火蓋を落とす様に告げられた。


アリス「シルフ。」

シルフ「はい?」


彼が応答の返事を返した時。二人は同じ影を視界に捉えた。廊下にの先に、いる。誰かが。その影は見覚えのある肩までの薄紫色の髪で身長はアリスよりも少し高い。

間違い無い。カフェテリアで皆が強制的に昏睡させられ、シルフに水を掛けたあの薄紫髪の少女だった。


アリス「ねぇ!!」


彼女は声を荒げて薄紫髪の女性に向かって駆ける。一人では危ないと危惧したシルフも彼女を追う様にして走り出した。そしてアリスの声に彼女はゆっくりと顔を此方に向ける。だがその目は虚ろで、何か幻覚にでも掛けられているかの様な姿。


?「...何?私これから寝るんだけど。」

アリス「ちょっと話がしたいの!」

?「無理。これ以上来るなら黙ってもらう。」


ゆったりとした口調で言う彼女には、別に逃げる素振りも無い。抵抗する素振りも無い。まるで2人が自身より格下だと見下す様にアリス達の方を見ていた。そして向き合う様に身体を向けた彼女が片手を翳す。

それに呼応する様に廊下の空間に歪みが生じ、その空間がガラスの様に割れた瞬間。


?「...純夢。」


揺れる空間と共に突如として猛烈な睡魔に襲われる二人。足元は覚束ない。脳は働かない。呼吸も上手く出来ない。形容し難い睡魔に襲われ、為す術も無く身体を地面に打ち付ける様に倒れる二人。その彼を上から見下ろした薄紫髪の少女は小さく言葉を落とす。


?「へぇ。」

シルフ「ぐっ...ぅ...」

?「アンタ達、私の事追ってきたの?じゃあ、貧弱そうなこの金髪女から黙らせる。」


薄紫髪の女性はアリスの髪を掴んで強引に上体を起こさせる。その際に苦痛の声が彼女から漏れたが、抵抗を見せる事は出来ない。その声が鼓膜に響くシルフ。感情では薄紫髪の彼女をすぐにでも殴り飛ばしたい。

しかし、身体は言う事を聞かない。意識も飛びかけているシルフの視界に映るアリスは首元を掴まれて意識を手放そうとしていた。

彼女を救う為に何も出来ない自分と薄れる意識に抵抗する様に強く下唇を噛む。血の味が微かに口に広がった時、彼の中に眠る力が呼び覚まされる感覚に陥る。彼女を守らなければと言う意思が脳内を侵食し、限界に近い身体に力が入ったその瞬間だった。


シルフ「アリスさん!!」

?「何?」


その瞬間、擦れる金切り音と共に何処からともなく現れた巨大な鎖が薄紫髪の女性の元へと直撃する。その突然の衝撃に彼女は掴んでいたアリスの髪から手を離し、踏ん張りを効かずに後方へと吹き飛ばされた。

グラグラと足を震わせながらも地に足を着けたシルフ。荒い呼吸と心臓の鼓動音が耳を支配し、全身の力が抜けては倒れそうになるが膝に手を当ててどうにか転倒を阻止する。そしてグラグラと揺れる視界の中に薄紫髪の女性を見た。


?「アンタ...まさか...」

シルフ「アリスさんに危害は加えさせない!」


その言葉を皮切りに再び巨大な鎖を出現させては薄紫髪の女性に向けて放つ。一方彼女も負けじと能力を繰り出すが、物理的に干渉するシルフの魔法と意識的に干渉する彼女の魔法では、どうやら能力相性の差がある様で彼女の表情に余裕が無くなる。


?「相性がっ...!!」


そう言葉を漏らす薄紫髪の女性だが、攻撃の手は緩めない。迫り来る鎖を視界に捉えた時には既に四肢を拘束され、自由の効かぬ体に糸で身体を引かれる様にして縛られた。鎖で縛られた事により、シルフの魔力で彼女の魔力は完全に無効化される。そして。


アリス「ごめんなさい。ちょっと痛いかもね。」


鎖で縛られた彼女の背後に佇んでいたアリス。彼女はフッと口角を上げると、縛られた彼女の首の後ろを手刀で叩いた。彼女の手刀は彼女の意識を刈り取るには十分過ぎる一撃だった様で、鎖が解かれると共に廊下の紅いカーペットに伏しては意識を失った。

そしてシルフも限界を迎え、糸がプツンと切れた様にして倒れ込む。


?「ア、アンタら何なの...いきなり現れて喧嘩吹っ掛けて来るとか野蛮すぎるんですけど...」

アリス「喧嘩吹っ掛けて来たのはそっちよ。色々話聞きたいから、ちょっと部屋まで来て貰える?」


彼女は薄紫髪の女性に微笑んで問い掛けるが、微笑んでいるのは口だけで瞳は一切笑っていない。有無を言わせぬその圧に薄紫髪の彼女は小さく舌打ちをして、彼女達には敵わないと悟ったのか両手を上げて降参のポーズを取った。


?「はいはい...どうぞ好きにしてくださーい。」

アリス「えぇ。そうさせて貰うわ。」


彼女は薄紫髪の女性の言葉にそう返すと、シルフを肩に抱えては廊下を歩き出す。その後ろ姿に薄紫髪の女性は深い溜息を吐き2人の後を追った。逃げる隙なら十分のはずなのに、逃げない。

いや、正確には逃げる事が出来ないのだ。それはアリスが彼女の首元に手刀を食らわせたからでは無い。


アリス「...逃げないのね。」

?「...逃げないってか、諦めてるだけ。逃げても鎖で縛られたら魔法使えないしお手上げだから。」


2人の会話は暫く続く。アリスの部屋に着くまで。

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