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PERFECT WORLD  作者: ヤトミ
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第八話 【支離滅裂】


そう遠く無い距離を歩き切った2人は既に部屋に着いていた。道中でシルフは自室へ着替えを取りに。そして今現在はアリスの部屋に設備されている浴室を借りて身体に付いた汗を拭き取っては寝衣に着替えていた。

一方でアリスは彼が脱衣所から出て来るのを待っていた。自身が持つ古代魔法や、この先古代魔法の使い手を探す時に使うであろう知識をノートに書き記しては手に付いたペンの汚れをタオルで拭き取りながら。


シルフ「ありはとうございました...お風呂まで貸してくれて。」

アリス「良いのよ、それよりほら。ちょっと話があるの。古代魔法について。」


彼を手招きしては部屋の中央に置かれた机に向き合う様にして座り込む2人。そして先に話を切り出したのはアリスの方だった。


アリス「ねぇ、シルフ。貴方...古代魔法の8つの種類について知識はある?」

シルフ「あぁ、いや...全然知らないです。」

アリス「そう。じゃあ教えるわね。古代魔法の種類は、危険度が低い順番で言うと、『蝕罪』、『望海』、『純夢』、『豊穣』、『螺旋』、『幻像』、『鎖縛』、『燼』。この8種類。」


彼女は先程記したノートを広げて説明を始める。そして『鎖縛』と書かれた箇所に『シルフが使えるのはこれ!』と矢印と共に書き加えて。文字通り鎖で縛る。

見た目としてはそれだけなのだが、鎖で縛った相手を拘束している間、対象は完全に動きを封じられて能力を無効化させると言う非常に強力な物。更に一定時間以上拘束すると、対象は完全に消失する。その事をシルフは知らなかった様で。


シルフ「ぼ、僕の魔法そんな強力なんですか!?」

アリス「え、知らなかったの?」

シルフ「あの僕の本まだ解読途中なんで...」

アリス「良かった...暇潰しに解読しといて。」


どうやら予め彼女がシルフの所有していた例の本を解読していたらしい。確かに例の本を彼女の部屋に置きっぱなしにしていた。しかし、その本を解読していたとはシルフも驚きだっただろう。

シルフの使う古代魔法は8つの中の一つ。つまり残り7つを探せば良いだけであり、それは彼女が既に調べている事でもある為、2人の行動範囲は広がる事になる。そして探し方は主にアリスの直感を頼るとの事。シルフは心躍っていた。

己の魔法がこの学校を救うかもしれないと言う事実に。


アリス「まぁ、取りあえず明日から探しましょ。授業の単位の事はゼイが何とかしてくれるでしょ。」

シルフ「ですね...ちょっと緊張しますけど。」

アリス「大丈夫よ、私と貴方なんだから。」


さも当然の様に口にするアリスの言葉に少し照れ臭く思うシルフ。しかしそれ以上に2人が共に古代魔法の使い手を探すと言う状況に彼は内心とても嬉しかった。1人で探す事も考えたが、彼女と共に探せるのならそれに越した事は無いと心から思える。

何せ、この魔法学校随一の頭脳を持つ彼女と共に探せるのだ。心強い事この上ないだろう。

古代魔法についての話を終えた2人はその後、特に何の変化も無く一日を終える。時折アリスに好意をからかわれるシルフだったが、それでも心地良かった。まだまだ謎も多い魔法学校の生活だが、その一日は非常に充実していたと自負出来る程に。

_____翌日、2人は早朝に目を覚ました。日の出る手前の午前3:00。未だ生徒や教師は寝静まっている時刻である。幸い以前の様にアリスの寝返りで腹部に打撃を食らう事が無く。

2人は朝食を摂り、朝の支度を済ませ、別々の場所で魔法学校の制服へ着替え、魔法学校を散策する。しかし今現在の散策は古代魔法の使い手の捜索では無い。また別の人間を探しているのだ。


アリス「んー、てか起きてるのかしらね。ゼイ。」

シルフ「教師の方ですし...流石に起きらっしゃるんじゃ無いですか?」


足並み揃えて歩く廊下には人影一つ無い。そもそも生徒の殆どが寝ている時間なのだから当然と言えば当然だろう。勿論まだ眠らない生徒も少なからずいる為、寮だからと言って夜更かしした生徒は朝に弱いと言うのがこの魔法学校の伝統でもある。


アリス「あ、居たわよ。」

シルフ「えっ?」


少し先を歩いていたアリスは何かを発見した様で足を止めると同時に指を差す。彼女の指差した先には1人の男の姿があり、彼は廊下に設置された黒革のソファに腰掛けながら脚を組んで本を読んでいた。

少し離れた距離でも分かる整った顔付きは男でも見惚れてしまう程で、横顔までもが彼を美形だと訴えかけている。アリスはその彼に近寄る様にして歩みを進めては声を掛けた。


アリス「おはよう、ゼイ。」

ゼイ「...あぁ、君か。おはよう。早起きだね。」

シルフ「お、おはようございます!」

ゼイ「おやおやシルフ君、流石の早起きだねぇ。こんな早起きの生徒は今まで見た事が無いよ。」


先程早起きの生徒と会話をした事を記憶の彼方へと消したかの様な対応の違いに、アリスは「は?」とでも言いたげな表情を浮かべるが堪えて喉の奥に言葉を流し込んだ。そして改めて視線を交わす3人。ゼイは彼等が今から言う事の想定が出来ている様で。


アリス「その、古代魔法の使い手を探す事についてだけど...私も協力させて欲しい。」

ゼイ「はっ、君の言う事は分かっていたよ。ただ感謝は述べよう。きっと願い事を聞き入れる、と言う条件に引かれたんだろう?」

アリス「違うわよ。私はただシルフの力になりたいだけ。」


彼女の返答は条件を飲む、と言う事以外が想定外だった様で一瞬瞳を丸くするゼイ。シルフの力になりたいと純な想いで条件を飲むアリスに彼の表情は柔らかくなり、鼻で笑うかの様に言葉を紡いだ。

彼は読書を一度止めては、アリスと向き合うと足を組みながら視線を2人に向ける。


ゼイ「ならば私からも手助けをしよう。授業の単位の事は任せたまえ。授業担当の教師に私が色々とまぁ上手い事言っておくさ。」

シルフ「えっ!?あ、ありがとうございます!」

アリス「ありがとう。助かるわ。」


ゼイは右手親指と中指をアリスへと向ける様にして差し、手首をクイッとさせると小気味の良い音が2人の耳に響いた。音と同時に彼は指を離すと再び読書に戻ってしまったが、それもまた彼なりの好意なのだろう。

シルフは一礼すると彼の元から去り、アリスと共に適当に校舎を散策する。古代魔法の使い手を探すと言っても何の特徴も見分ける方法も知らされておらず、唯一の方法はアリスの直感を頼る事のみ。

運に賭けるしか無いのかもしれないが、それでも彼女には不思議と信頼出来る何かがあった。


アリス「さて...探すと言っても他の生徒達は寝てるからね...どうしましょうか。このまま散策する?」

シルフ「そ、そうですね...今辺り見渡しても生徒一人いませんし...」

アリス「ふふっ、何だかデートみたいね。」

シルフ「デッ、デート...」

アリス「今更反応してるの?結構2人でいるのに...ふふっ、可愛い。」

シルフ「な、何かアリスさんになら少しずつ慣れて来ました。」


心に余裕が出来て来たのか、2人はまた1つ少し踏み込んだ会話をする。互いの顔を見合わせては微笑み合い校舎内を適当に散策しながら会話を続ける2人。

他の生徒や教師達も殆どが寝静まっている為か廊下はとても静かで、歩いている足音でさえ廊下中に木霊している様にさえ感じられる。そんな静まり返った魔法学校の校舎を歩いているとアリスの直感に何かが引っかかったのか彼女の足はピタリと止まる。

シルフも急に止まった彼女に気が付き足を止めては同じ方向を見つめる彼女へ首を傾げる。何故突然動きを止めたのか。何かあったのだろうかと視線を同じ場所へ向けるが特に何も無い様で首を傾げたまま動かない。

それは一つのドアの前。


アリス「...此処の部屋。何か変。」

シルフ「そ、そうですか...?ただの部屋に見えますけど。」

アリス「何か感じるの。本来ならノックして所在を確認したいけど...この時間に起こすのは失礼よね。」


その言葉と同時にアリスは携帯している小さなメモをポケットから取り出してはペンで何かを書く。内容は部屋の位置と近くにある目立つ物。部屋の手前に何故か置かれている観葉植物、隣に置かれた鉢に咲き誇る1輪の花。

この部屋の主は植物が好きなのだろうか。


アリス「...よし、じゃあこのままゆっくり過ごしましょ?一旦お昼まで。」

シルフ「は、はい!」


再び廊下を歩き始める2人。正直今の2人には古代魔法の使い手を探す事は頭に無い。と言うよりかは2人揃ってこの校舎で過ごすのを楽しんでいる様にさえ見えるだろう。強いて言うなら先ほどのアリスが違和感を感じた部屋。

それ以外は何の変哲も無い魔法学校。ただ刻々と過ぎる時間を過ごすだけ。しかし、2人の平穏な時間は数時間後に突如として終わりを告げる。

それは生徒達が昼食を摂り始める、正午の出来事だった。

_____食堂にて、昨日と同様にサンドウィッチを頬張る2人。どうやら正午に至る今の今まで違和感を感じる事が無かったらしく、アリスは本当に古代魔法の使い手がこの魔法学校に潜んでいるのか、ゼイを疑い始める始末。

しかしゼイの言う事だ、と無理矢理自身を納得させては再びサンドウィッチを口に運ぶ。


アリス「美味しい?」

シルフ「今日も美味しいです...本当に。」

アリス「良かった。」


微笑みを向けるアリスにシルフも笑みを返す。その笑顔に見惚れそうになる彼だが、その恋愛感情を吹き飛ばす様にアリスの表情に異変が起きた。突如として瞳を小さくし、サンドウィッチを運ぶ手を止める。

アリスの異変にいち早く気付くシルフ。何が起きたのかは定かではないが、何かに反応したのは確かだ。


アリス「...来た。」

シルフ「か、感じました?」

アリス「此処にいる。絶対。」


瞳を小さくしたまま事を告げるアリス。彼女の言葉の抑揚からして本当に感じたのだろう。

アリスの言葉に反応してシルフは食堂を見渡すが、この魔法学校が大規模な為に食堂だけでも生徒が密集している事もあり、この中から古代魔法の使い手を探し当てるなど不可能に近いだろう。


アリス「何処、何処にいるのよ...!」


視線を左右に動かし、自身の周囲だけでも確実な情報を得ようとする。しかし確認出来る生徒の中、彼女の求める存在は何処にも見当たらない。脳では確実に感じ取っている。確実に今この食堂の何処かに、古代魔法の使い手が居ると言う事を。

それはシルフも同じ。光の差さない暗闇を模索する様に思考を巡らせる。

その瞬間だった。


シルフ「冷たっ!?」


彼の身体に水が掛かった。それもかなり大量に。幸い着ている衣服が黒色のローブである為、多少の汚れは気にならないが。身体に冷え冷えとした感覚を味わいながら彼はアリスの方へ向けた。

彼女は水を掛けられた自分に一切反応する事無く、斜め右上を見ていた。その視線の先に佇む人物を瞳で捉えて。


?「あー、ごめーん。」


彼女の視線の先。その先には見た事が無い女子生徒がシルフを見下げている様に思えたが、言葉に反して謝罪の意は込められていない様で視線は全く彼を見ていない。鮮やかな紅色の瞳に薄紫の髪を掻きながら。


?「ちょっと水魔法の練習しててさー、手が滑っちゃったー」

シルフ「あっ、はい。全然大丈夫ですので...。」


そう彼が言った時、薄紫髪の女性は初めてシルフの目を見た。すると何か思い当たる節が有ったのか、向こうから彼に声を掛けた。怠けに怠けた気怠げな声色で。


?「あれ、」

シルフ「はい...?」

?「君、ボコボコにやられてた人じゃん。」


彼女はその一言だけを言って食堂の奥の方へと姿を消す。その約一分間の出来事にしては濃すぎる内容に彼の脳内には謎が残るが、取り敢えず身体に水が掛かってしまった事は理解出来る。

しかし自身の事よりもシルフは視界の隅で微動だにしなかったアリスの様子が気になっていた。


アリス「____」

シルフ「...アリスさん?」


声を掛けて呼び掛けるも、彼女は下を向いたまま固まっている。垂れる金髪に隠された顔は彼の位置からでは見えない。一体何が起こって彼女は何故動かなくなってしまったのか。状況を理解出来ない為に、再び彼女に呼びかけようとした時。


シルフ「あれ...?」


突如として脳が働かなくなる。考える事が出来ない。頭が重い。瞼が重い。視界が揺らぐ。そして彼は_____


____「起きてる?」


女性の声だ。耳によく残った。視界に映るのは声から想像した通り、アリス。そして自身が彼女と居る場所は食堂。彼女と向き合いサンドウィッチを頬張る状況に頬が緩んでしまう。彼女との至福の空間、憧れた青春の一ページ。

その空間に花を咲かせる様にアリスが口を開く。


アリス「ねぇシルフ。貴方、モグラのさくらんぼタワーって知ってる?」

シルフ「え、えっ...?」

アリス「まーた知らないのね。そんなんだから麦茶の死刑執行人が焼畑農業を始めるのよ。デッドゾーンの看板娘も扇子で魚達と一緒に舞い始めるわ。」


突如として意味の分からない言葉を並べるアリス。会話に花が咲くと思っていた事が間違いだった様に、支離滅裂な文章を口から放つアリスに彼は困惑を覚えた。一体彼女は何を伝えたいのか。

まるで理解出来ない状況に混乱している最中に、更に場を混乱させるが如く人影がシルフの背後から現れる。夢の中にいる様な感覚を味わいながら。


ゼイ「これはこれはシルフ君にアリス。一体何を話しているんだい?まさか虫歯治療がロンリネスな事を話しているんでは無いだろうね。」

アリス「そのまさかよ。土管の中から厚生年金が顔を出して道端のプラネタリウムを爆破させるわ。」

ゼイ「はっはぁっ!それは間違いだねアリス。君が話しているのはファッション泥水の事だ。鉄格子の隙間から歴代運動会の開催数を数えたからと言って猿人達が素数でかくれんぼを始める事はない。」

アリス「そう...あなたこそがお代官様なのね。」


アリスとゼイの2人。彼等はシルフを挟む様にして立ち、まるで彼を間に挟みながら会話しているかの様に思えたが、その考えは間違いでは無かった。何故なら彼は挟まれる様に立ってなどいない。

彼の身体は地面から生えてきた木に飲み込まれる形で上半身だけが地表に出ていたからだ。現実じゃ有り得ない状況、まさに夢の世界。夢、夢、夢。


____「起きてる?」

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