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PERFECT WORLD  作者: ヤトミ
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第五話 【夜の帳】


背後から聞こえる彼女の声。背中合わせでベッドに横たわる彼に聞こえた。


シルフ「..はい。」

アリス「ちょっと話さない?眠気が来ないみたい。」

シルフ「ぼ、僕で良ければ。」


互いに顔を見合わせずに言葉を交わす2人。2人はどうも顔を見合わせて会話する勇気が出ないのか、一切体勢を変える素振りは見せない。何も話さず、何も呼び掛けずに無情な静寂の時を過ごす。

部屋の灯りが消えた今、頼れるのは窓から差し込む月明かりだけ。夜空に揺蕩う朧月の明かりがシルフを照らし、アリスには影を落としている。


シルフ「あ、あのアリスさん。」

アリス「ん?」

シルフ「気になった事...聞いても良いですか?」

アリス「どうぞ、変な事以外なら答えれるから。」


彼女に対して気になる事。試しに言ってみた物の、例を挙げればキリが無い。幾つも浮かぶ疑問の中から一つを選んで聞くなんて取捨選択が難し過ぎる。しかし彼は自分が何を聞きたいのか内心理解は出来ていた。

身体の奥で止まない振動。それを、答えを聞かずして消す事が出来る言葉。


シルフ「アリスさん...す、好きな人とか...」

アリス「あら、そう言う事聞いちゃうの?」

シルフ「あ!ご、ごめんなさい!」

アリス「ふふっ、何でそんな謝るのよ。」


背中合わせでも分かる笑みを含んだ声。反射的に謝ってしまう自分が情けなくて、彼は更に萎縮してしまう。しかし彼女の返答を待ち侘びてしまう自分が同時にいた。

背中の向こうで金髪の彼女は一体どんな表情をして、どんな気持ちでいるのか。憶測の果てに彼女の口から紡ぎ出される言葉に耳を傾ける。


アリス「まぁ...好きな人はいないけど、仲良くなりたい人は居るわ。」

シルフ「な、仲良くなりたい人...」

アリス「貴方よ、シルフ。」

シルフ「えっ!?」

アリス「さっきもチラッと言ったじゃない。貴方と一緒に居たいから一緒に居るの。」


彼女は面と向かって言える言葉を、背中越しとは言えども言い放ってくる。それは彼に対する想いを強く滲ませ、期待を煽る様だった。だからシルフは聞きたい。どうしても彼女のその想いを確証したいと心奥で騒めき立つ。彼は唾を呑み込んで言葉を続けた。


シルフ「な、何でですか...?アリスさんみたく成績優秀でも無いし、大して顔も良く無いし、クラスでも皆と混ざれない様な人間ですし...」

アリス「んー、シルフ。貴方ちょっと勘違いしてる。」

シルフ「か、勘違い...?」

アリス「えぇ。私が見てるのはそこじゃない。」


彼の不安を断つ様に言葉を放つアリス。そして彼女は一拍置いて、彼が聞き逃さない様にゆっくりと言い聞かせる。彼のしている勘違いを根本から払拭する様に。


アリス「貴方、自分の事を卑下して話す時あるけど...私はそこを見てないの。」

シルフ「...えっ?」


彼の口から思わず間の抜けた声が漏れる。しかし彼女はそれに構わず続けた。


アリス「私が見てるのはね、貴方が人一倍努力してる所とか、誰に何を言われてもめげずに努力し続ける所。それでいて周りからどんなに酷い事言われても、自分の信念を曲げない強情な所。」

シルフ「アリスさん...」

アリス「私ね、クラスの人間苦手なの。私と話す時は明るくて優しそうに見えるけど、ふと蓋を開けてみれば努力する人間を影で馬鹿にしてるし、周囲に影響されて人の事見下す様な人間に成り下がってる人がほとんど。

会話してても愛想笑いがほとんどだし。努力する人を嗤う人とは仲良くしようとは思えない。だからそんな人間達と中を深めるなら、貴方と仲良くなる方がよっぽど有意義。」

シルフ「...」


彼の心は何も言えなかった。今この場では安易に言葉を紡げない気がしたからだ。素直に『嬉しい』と口にする事は彼の性格上難しいだろう。しかし胸の中を渦巻く熱い感情は抑え切る事が出来ない。

喉元まで込み上げるこの気持ちは何か、それを説明するには今の彼は未熟過ぎる様に感じたのだった。


シルフ「あ、ありがとう...ございます...。」

アリス「お礼言われる程の事じゃないわ。逆に今言った事の大半が私の勝手な持論でしかないんだし、私間違ってるところもあるだろうから。」

シルフ「そっ、そんな!アリスさんの言う通りです!ずっとそう思ってたので...」


彼の言葉に小さく微笑むと、彼女は一度からかってみようとシルフの耳元に、ふっと短く息を吹掛ける。突如訪れた感覚に素っ頓狂な声を出すシルフ。その反応に再びクスっと漏れ出る笑みを堪えると彼女は言った。


アリス「ね、こっち向いて?」

シルフ「...な、何でですか...?」

アリス「良いから...ほら早く。」


彼は言われるがままに彼女の方へゆっくりと寝返りを打ち顔を向けた。暗がりに慣れた目で彼女を視界に捉えると、その距離僅か数センチとかなり近い距離に彼女の顔がある。

長い睫毛に囲まれた深い青空の様な瞳を細めて微笑む彼女は、月明かりに照らされて彼の瞳には美しく映る。月明かりに照らされる金の長髪、白い肌に映える桜色の頬。ぷっくりと瑞々しい唇は、その色が映える様に艶めいている。


シルフ「あ、アリスさん...カチューシャとリボン取ったら印象変わりますね...」


頬を紅潮させて言うシルフ。きっと見詰め合った際の緊張で言葉が浮かばなかったのだろう。脊髄で会話とまでは行かないが、ひとまず会話を成立させられる状態は保てていた。


アリス「そう?そんな事言われた事無いけど...」

シルフ「か、可愛いです....凄く。」

アリス「ふふっ、ありがと。」


彼は思った事を口にするのが苦手である。しかしそれは『言えない』のではなく『言う勇気が無い』のだ。だからこうして口が滑ってしまう時間帯は『言える』。

静寂に2人、それもこんな至近距離で言われれば彼女だって驚くだろう。彼は目を泳がせながらも彼女と視線を外さない様にする。心臓が高鳴り、頬が紅潮していく。鼓動が彼女に聞こえているのではないかと思える程に強く鳴っていた。

一方でアリス自身は脳内で古代魔法の事について考えていた。シルフの事は当然見ているのだが、頭では古代魔法についてを必死に考えている。しかし、その意識は時間帯に向けられた様で。


アリス「もう遅いし...寝ましょうか。明日もある事だし。」


シルフの緊張を他所に、アリスはそのままゆっくりと瞼を閉じたのだった。先に瞳を閉じたアリスを前に、彼はただ放心した様に仰向けのまま硬直するばかり。

アリスが寝始めた事に安堵と驚きが入り交じっては胸の中で感情が渦巻く。しかし、アリスが寝るならと彼もまた瞳を閉じては眠りに入る為に思考を切り替えた。徐々に解れた緊張は睡魔を誘い、ベッドに横たわった状態でもそれは抗えない。

目蓋が閉じ切るその刹那、彼はアリスに視線を向けたのだった。薄れ行く視界の中で。


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