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PERFECT WORLD  作者: ヤトミ
3/17

第三話 【古代魔法】


時刻はあれから一時間程経った18:00。今夜。学園のマドンナ、アリスとお泊りをする事になったシルフ。彼は彼女の部屋に行こうと考えている時刻の19:00まで暇を潰す事にした。

と言っても特にする事がある訳では無い。唯一考えているとするならば、折角部屋に泊めて貰うのだからお礼をと思い、ゼイとアリス二人の口から出た『古代魔法』に関する資料を持っていこうと考えている事くらい。

自分が普段持っている分厚い本がまさか古代魔法に関する重要な代物だとは知らなかった。きっとこれを持っていけば、少なからずアリスが興味を示してくれるのでは無いだろうか。

正直な所、この本に一番食い付きそうなのはβグループの神話学の教師、ゼイの方なのだが。


シルフ「あったあった...」


彼は一旦自身のクラスに入り、自分の机の横に掛けてあるバッグから例の古代魔法の本を持ち出す。相変わらずの重厚感と重量だが、この重さは慣れてしまった。

用も済んだ為、シルフはクラスから出ようと足を扉へと進める。残りは自室でアリスの部屋へ向かう時間を待つのみと考えていた。

しかし、その必要は無くなる。扉から人影が見えた。まだ比較的明るい校舎の中で見えるその影は、シルフの心を躍らせる。


アリス「あれ、シルフ。」

シルフ「アリスさん!?何でここに...?」

アリス「忘れ物。ペンを忘れちゃったの。それで取りに来た。貴方は?」

シルフ「似た様な感じなんですけど...これ、」


彼は扉の方に近付き、アリスに手に持った例の本を見せる。


アリス「あぁ、これ。古代魔法の。」

シルフ「はい、折角泊めてもらうんだから何か持って行かなきゃなって...」

アリス「ふふっ、そこまで気を遣う必要は無いわよ。でも嬉しい、ありがとね。」


そう言って微笑みを見せるアリスの表情に、シルフは完全に撃ち抜かれた。可愛い、その一言しか出ない。一方で当の本人は何も意識していない様な涼しい顔。

胸が焦がれるシルフと対照的に、アリスは「ちょっと待ってて」と言って自身の机の方へ向かってはペンケースを取り出し、再びシルフの方へと帰って来た。そして彼女はシルフに唐突な問い掛けをする。


アリス「どうする?ばったり会っちゃったし、今から私の部屋来る?」

シルフ「い、良いんですか?」

アリス「ええ。別に。」


急遽今からアリスの部屋へ向かう事になってしまった。再び先程の保健室と動揺に平静を装うも、やはり心臓は早くなる一方。同じペースで廊下を歩き、階段を降る。

その間も鼓動は早くなるばかり。女子の部屋に入る、それもあのアリスの部屋だ。緊張しない方が稀だろう。


アリス「そんなに緊張しなくて良いわよ。別に変な物は無いから。」

シルフ「い、いえ!緊張なんて!」

アリス「してるじゃない。」


そんな他愛無い話をしている内に部屋の前に着いた。アリスが先にドアを開けて入り、それに続く様にシルフも入る。

彼女の部屋に足を踏み入れた時、ふわっと良い香りが脳を巡った。彼女から漂う花の様な癒される柔らかい香りが部屋にも漂っている。そんなアリスの部屋は広かった。

と言っても、その半分以上が人間よりも背の高い本棚で埋まっているからのかもしれない。だが、彼が驚いたのは本の量だけでは無かった。


シルフ「か、可愛い...」


綺麗に整えられたベッドの上には、可愛らしくデフォルメされた生物のぬいぐるみが沢山置かれている。もう少しシックでアンティークな部屋を想像していたシルフは、繰り出されたギャップに再び胸を撃ち抜かれる。


アリス「可愛いでしょ?私、こういうの好きなのよ。」


そう話す彼女は満面の笑みで、この状況を心底楽しんでいる様だ。そして彼女はその綺麗に整えられたぬいぐるみ達が置かれたベッドに腰掛け、置かれたぬいぐるみの中の一つを手に取り膝の上においては抱き締めた。

更にその抱き締めたぬいぐるみに顎を乗せたので、もうどちらがぬいぐるみか見当が付かない。少なくとも、シルフにはそう見えている。


アリス「隣来る?その方が話しやすいでしょ。」

シルフ「良いんですか?」

アリス「悪い訳ないじゃない。それに、貴方が手に持ってるその本。私も気になるし。」

シルフ「分かりました」


彼は少し躊躇いながらもアリスの隣に座る。すると彼女は「ん。」と言って、彼の膝の上に別のぬいぐるみを置いた。そのぬいぐるみは、先程彼女が抱き締めていた物と別の物で鮫の様な生物。

しかし、そのぬいぐるみは彼女よりも更にデフォルメが効いていて可愛いらしい。シルフは膝の上に置かれたそれを優しく撫でる。


アリス「肘置きにでもして。」

シルフ「肘置きって...」

アリス「良いから。」


彼女はそう言って会話をやや強引に終わらせる。シルフからしても、自分から話題を振る事は少々苦手な為に彼女の行動はありがたい事この上無い。

そしてシルフはアリスの指示通りに肘置きとしてぬいぐるみを膝に乗せる。後に彼は手に持った本を2人の隙間を埋める様にしてベッド上に置く。アリスはそんなシルフの一連の動作を見届けた後に、の置かれた本を手に取った。


アリス「この本、読んでも良い?」


シルフにそう尋ねる彼女の顔は、優しく綻んでいる。大人びた彼女が見せる子供っぽい表情。それはこの空間に漂う柔らかい空気感との相乗効果によって更に強調され、彼の心臓を更に高鳴らせる。

しかし彼女の問い掛けに対する答えは決まっている。それに彼女自身もきっと答えが分かっている筈だろう。


シルフ「あ、全然大丈夫です。むしろ読んで欲しいと言うか...」

アリス「ありがと。今日の朝、チラッと読んで終わったから名残惜しかったのよね。」


そう言って彼女は本を読み始めた。恐らく彼女の事だ、もう既に古代魔法と言う存在がある事は知っていながらも興味を示さなかったのだろう。だからこうやって読み進めている事が彼女にとってとても貴重な体験になってたら良いな、と少しでも思うシルフ。


アリス「ふーん...古代文字で書かれてるのね。何でこの古代文字を解読出来たの?」

シルフ「勘...?何となく頭に入って来る様な気がして。少ししか解読出来てないんですけど...」

アリス「なるほどね...。まぁ私読めるから別に良いんだけど。」

シルフ「読めるんですか!?」

アリス「ええ。一応この魔法学校に入る時に個人的に勉強してたのよ。ほら、私って魔法使えないじゃない?その分学力でどうにかしようって思って勉強したんだけど役立って無かった。でもまさか今役立つなんて。」


そう言って彼女は笑うが、シルフにとっては驚きだった。アリスは魔法を使えないと言うのに古代文字を読める。更には魔法学校でトップの成績を収め、才色兼備で本当に完璧と言う言葉が似合う女性。

一体どの分野までカバーしているのか、その膨大な知識量に感服せざるを得ない。しかし同時に羨ましさを抱いてしまう。自分には無い物を全て持ち合わせている様な気がして。そんな中、アリスは古代魔法について記された本を読みながらシルフに話しかける。


アリス「ねぇシルフ。あのゼイって教師、いたじゃない?」

シルフ「あっ、はい。あのカッコいい人。」

アリス「私、あの人嫌い。」


唐突に吐かれた愚痴。シルフは驚き、思わず彼女の方を見た。互いに今日が初めましての様子だったのに、まさか嫌いと言う言葉が飛び出すとは。

あのクールで紳士的に見える性格と容姿が作り出す彼の圧倒的な魅力に心を奪われた人物の一人の彼だったが故に、アリスの言葉に心の中で疑問を持つ。


アリス「何か...別に嫌な人じゃ無いのは分かるのよ?でもね、雰囲気が気持ち悪いの。」

シルフ「独特、って事ですか?」

アリス「そうだけど、そうじゃないの。んー...不気味?何か本能的に怖いみたいな。」

シルフ「本能的...めちゃめちゃ嫌いですね。」

アリス「別に彼自体は嫌いじゃ無いのよ?雰囲気が嫌いなだけで。その雰囲気がダメなの。何か蛇みたいな雰囲気で。」


シルフに取ってはそう感じた事は無かったが、アリス曰く彼の蛇の様な雰囲気が嫌いだと言う。確かに容姿や性格とは相反して、彼女の言う通りオーラ的な雰囲気は確かに独特だった気がする。


アリス「悪口を言うつもりは無いんだけど、何か狡猾そうで、でも底知れない感じの雰囲気があるって言うか、何か隠してる気がするのよね。すーごい重大な事を。」

シルフ「何となく分かる様な分からない様な...」


彼女の口から紡がれ続けるゼイに対する愚痴。そんな彼女の雑談と共に彼女はシルフが解読したページの所まで読破した様で、シルフが貼った付箋のページで一度区切りを付けた。


アリス「一通り読んだけど、内容は古代魔法について, 貴方が使える古代魔法について。この二つしか分からなかった。貴方よく読んだわね。私もう字が小さくて頭痛い。」


彼女が顔を両手で抑えている姿を見た彼は、少しばかりの邪念を抱くので、別の方向に視線を向ける事とした。

部屋全体は白とパステルカラーで纏まった色で構成されていて可愛らしい印象を受けるのだが、それ故に目に入って来る彼女のギャップが異常である。


シルフ「お疲れ様です...」

アリス「ありがと。取り敢えず、もう少し古代魔法について勉強する事にするわ。はぁ...誰か古代魔法について知識のある人いないかしら。」


その時、


ゼイ「いるさ、ここにね。」

アリス:シルフ「ぎゃあぁああぁっ!!!」


二人揃っての大声。アリスに関しては絶叫と言っても良い程の甲高い声と声量。シルフはそこまで大きな声こそ出さなかったものの、急に現れたゼイに対して驚きを隠せない様子である。

しかし冷静に考えてみればこの部屋にはアリスとシルフ以外の誰もいない事は明白であるし、そもそも彼がドア付近まで入って来た事にも気付かないなんてあり得ない事だと気付く筈だが、何故気付けなかったのだろうか。

そんな疑問がアリスの脳内を駆け巡る。そして彼女はある結論に辿り着く。その結論を代弁する様にゼイは言った。


ゼイ「やれやれ、寮の部屋の扉は閉めた方が良い。私が入って来たのが分からなかったんじゃないかな?」

アリス「だ、だからと言って生徒の話を盗み聞きなんて...」

ゼイ「しかし、お陰で良い情報を知れたよ。君達が古代魔法について知ろうとしている事をね。」


2人は少々困惑した。何故それが『良い情報』と捉えられたのか、何故彼がここに居るのか。その疑問に彼は何一つ答える事は無かったが、その代わりに机に置かれた本に目を付けた様だった。


ゼイ「そうそう、その本さ。流石シルフ君。アリスとのお泊りにまで本を持ち込むとは、勉強熱心だねぇ。偉い偉い、凄く偉い。」

アリス「呼び捨て?」

ゼイ「ふむ、人への愚痴を言ったのだから仕打ちは当然の報いだ。それとも何か?私に罰して欲しいのかな?」


ギクッ、と身体を反応させるアリス。そんな彼女をゼイはククッと笑いながら見詰める。不穏な空気の中、シルフは必死になってこの空気感に耐えていた。しかしその空気を鎮める様にゼイが一言。


ゼイ「まぁ、正直愚痴とは捉えてないよ。名前を呼び捨てにするのも、両方とも君付けでは区別が付かないからねぇ。」

アリス「何よもう...。まぁ、愚痴を言った事は謝るわ。ごめんなさい。」

ゼイ「はっはぁっ!素直に謝れるのは良い事だ、まぁ人間生きていれば愚痴も溜まる。仕方ないね。」


そう言ってゼイはアリスとシルフに近付く。2人に近付く彼の瞳だが、揺ぎ無く確実に瞳の中にある物を射抜いていた。それはシルフの持っている例の本。

思い返せば、彼は保健室にてシルフと相対した際に古代魔法について対して興味を示していた。しかし本の事はシルフの他にアリスにしか話していない。


ゼイ「さて、シルフ君。一つお願いがあるんだ。」

シルフ「な、何ですか?」


彼の返事に対してゼイは本を指差す。


ゼイ「指差しは好きじゃ無いんだけどねぇ。せざるを得ない。その本...古代魔法について記された本では無いかな?」

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