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PERFECT WORLD  作者: ヤトミ
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第十五話 【根付いた過去に】


廊下に響く靴の音。それはアリスの物。彼女は息を荒らげながら廊下を駆け抜けていた。息を切らしながら走るアリスの額には汗が滲んでおり、余程急いでいる事が分かるだろう。

響くその足音はやがて彼女の部屋の前で止まる。足音が止まると同時に彼女は勢い良くドアを開く。そのドアの開き方は、中にいる物に勢い余ってドアが跳ね返るすら有り得る勢いで。


アリス「シルフ!!」

シルフ「ぎゃあぁああぁあっ!!は、はいっ!!」


突然鼓膜に届いた音に思わず変な悲鳴を上げるシルフ。その反応を見ては自分がどれだけ彼を待たせていたのかを察した。すると途端に彼の顔を見ると胸が罪悪感で一杯になり、急いで彼の前へと歩み寄る。


アリス 「シルフ...ごめんなさい、本当に。私ったら自分勝手よね、貴方を部屋で待たせて私は他の人と話してたなんて。」

シルフ「い、いや...大丈夫ですよアリスさん。そんなに気にしないで下さい...僕もゼイ先生に古代魔法の事聞きに行ったりしましたし。」

アリス「そ、そう...?貴方って本当に優しいのね...ごめんなさい。」


必死にする彼女を見て少々たじろぐシルフだが、再び彼がアリスを宥めようと考えた時。彼の身体は突然生暖かい感触に包まれ、背中には細くしなやかな腕の感触。そして彼女の声が耳の側で囁いた。


アリス「んっ...ちょっとだけこうさせて?」

シルフ「えっ...!!」


脳の処理が追い付かないシルフと相反する様に、アリスの身体は体温が上昇しじんわりと汗をかいていた。突然の彼女の行動に戸惑いを隠せない彼だが、数瞬後にはその状況をやっと飲み込みその現状を理解する。

いくら常日頃から2人でいる事が多いとは言え、異性との関わり一つ無いシルフはアリスのその行為に動揺せざるを得ない。そして彼は停止寸前の思考を落ち着かせる様に、そして自身とアリスに言い聞かせる様に言葉を放った。


シルフ「とっ、とと取り敢えずお互いの情報交換しませんかっ!!このままじゃ本当に死んじゃうのでっ!!」

アリス「あっ、そ、そうね。ごめんなさい私ったら本当に...」


照れ隠しで顔を俯かせるアリス。後に2人はベッドで向き合う様に座り、情報交換を始めた。先に口を開いたのはシルフの方で、彼が話した内容は主に二つ。

一つ目は自身がゼイに対してダーリムの事を話した事。ダーリムは古代魔法を扱う人物で、彼女の扱う古代魔法は【純夢】である事。

そして二つ目はゼイから聞いた、古代魔法は3種類に分類される事。『物理的古代魔法』、『意識的古代魔法』、『空間的古代魔法』。この3つに分類する事が可能で、それぞれの相性に優劣が存在する事の二つ。

彼の後に口を開いたのアリス。彼女が話した内容も二つだった。一つ目は、自分はウィズンに教えてもらった『ラム』と言う教師と関わりを持った事。彼女は戦闘科の担当教師で、学校内でも酒を飲む少々破天荒な性格。

残りの二つ目は魔法植物学の教師であるウィズンが古代魔法を扱えると言う事である。


アリス「本人から聞いた訳じゃないけど、私とシルフだけになった時に意味深な事言ってたから本当だと思う。」

シルフ「ですよね...ウィズン先生、何で古代魔法を扱える事を隠してるんでしょう。古代魔法を扱える人間は皆隠すんですかね...」

アリス「...確かにね。貴方もダーリムもウィズン先生も古代魔法を扱える事を大っぴらにしない。まぁダーリムは自分から出して来たけど。」


2人に浮かぶ新たな疑問。何故古代魔法を扱える人間は隠すのか、そもそも隠して何か意味があるのか。そして彼は何かに気が付いた様に顔を上げる。


シルフ「まぁ...自然に分かりますかね。多分。」

アリス「そうね...ふふっ、何かシルフ頼もしくない?」

シルフ「えっ、」

アリス「何か...急にオドオドしなくなってるし、言葉もスラスラ出てる。前のシルフも好きだけど、今のシルフも好きよ。」


脳に流れて来る多くの情報量。確かに自分は急にアリスに対して言葉がスラスラ出る様になり、言われてみれば心臓の鼓動もそれ程速くは無かった。先程までは。アリスが口から放った「頼もしい」「好き」と言う言葉が頭の中で反響する。

そんな言葉は彼にとって刺激が強すぎる言葉だったからか、頭がパンク寸前になってた様で。


アリス「ちょ、ちょっと大丈夫?生きてる?」

シルフ「えっ、あっ、はい!!大丈夫です生きてます...。」

アリス「そう、なら良かった。さて...これからどうする?一応私は前に大講義堂でシルフが見た黒髪の人と白髪の人を追う事を目標にしてるんだけど。」

シルフ「それ...良いですね。」


彼はアリスが言った、黒髪の人と白髪の人を思い出す。確かに彼女達の雰囲気は異様だった。それに加えて明らかな敵意。只者では無い事は確かだろう。


アリス「じゃ、私達の一旦の目標はそうしましょうか。黒髪の人と白髪の人を探し出す。これに決まりね。」

シルフ「ですね、今日は...」

アリス「取り敢えずウィズン先生の所行きましょ。夜だし...一旦植物園行ってみましょうか。もしかしたらウィズン先生がまだいるかもしれないし。」

シルフ「そうですね、じゃあ行きましょうか。」


2人は立ち上がり、部屋を後にする。先に扉を開けて待つシルフの行動に少し驚きながらも、彼の優しさに笑みを浮かべアリスは彼の隣に並ぶ。そして2人は横に並びながら植物園へと歩みを進めるのであった。

廊下の窓から見える濃紺の夜空は星々が瞬き、月も穏やかに光を放っている。2人は廊下を歩きながらも窓越しの夜空につい見惚れてしまう。


アリス「ねぇシルフ。月が綺麗ね。」

シルフ「そうですね...凄く綺麗です。」

アリス「ふふっ、ばーか。」

シルフ「えっ!?」

アリス「何でもない。」


月が綺麗。それは揺ぎ無い事実だった。

____やがて植物園に辿り着いた2人。そこは鍵が掛けられておらず、案の定中には人影があった。後ろ髪を二つの三つ編みに結んだ髪に花を愛でる姿。それは紛れも無く魔法植物学の担当教師だろう。

2人はそのまま儚げな影へと近付き、その背中に言葉を掛ける。


シルフ「あの...ウィズン先生。」


呼び掛けられた影の右肩が僅かに反応し、彼はその声の主に身体を向ける。向けられた顔の表情は何処か寂しげな微笑みで、深い悲しみに囚われた様な微笑みだった。声の主は2人の姿を視認すると、普段通りの柔らかな声で言葉を紡いだ。


ウィズン「あら2人共、どうしたの?こんな夜に人が来るなんて珍しいわね。」

アリス「ちょっと聞きたい事と言うか、確認したい事が。」

ウィズン「ふふっ、何となく想像は付いてたわ。それに...誰が何をしたのかも何となく分かってる。ね、アリスちゃん。戦闘科の先生から聞いたんでしょ?」


やはり付き合いが長かったからか、それともアリスに彼女を紹介する時点で何が起こるか察していたのか。ウィズンは全てを初めから知っていた様な口調でアリスに疑問を投げ掛ける。

疑問を投げ掛けられた彼女は打っ舜複雑な顔を浮かべながらも一言で「はい」とだけ答えた。その受け答えで改めて実感したのか、ウィズンは短く息を漏らして笑う仕草を見せる。


ウィズン「やっぱり。そうね...その人の言う通り。私は古代魔法を扱える。あの時に見せたのも、シルフ君が古代魔法を扱える事が分かってたからよ。」

シルフ「そうだったんですね...でも何で分かったんですか...?」

ウィズン「あっ、そうね。それについても話しておかないと...」


2人が再び抱く疑問。ウィズン本人もそれは分かっているのか、少し申し訳無さそうな顔で後ろ髪を掻く。そしてそのまま説明を始めた。


ウィズン「そのね、実はゼイ先生から情報の根回しを受けてたの。シルフ君とアリスちゃんが古代魔法の使い手を探してる事と、シルフ君が古代魔法を扱える事を。古代魔法を扱える私だから、もし2人が何か困ってたら助けてあげてって。

だから2人には見せたの。同じ古代魔法を扱える者同士だし、それを彼を支えるアリスちゃんになら見せても良いかなって。」

シルフ「そうだったんですね...」


告げられた真実に衝撃を受けるアリスとシルフ。まさかゼイがここまで手を回している事は正直予想が付かなかったのだろう。その事を一通り説明が終わったウィズンだが、彼女の口を開いたまま。他に何か告げる事があるのだろうか。

推測する2人に対してウィズンは優しく言葉を掛ける。言い聞かせる様に、それでいて言葉の内に秘める想いを感じさせる様に。


ウィズン「それでね、私...シルフ君に言いたい事があるの。同じ古代魔法を扱える者同士だから言えるんだけどね、シルフ君。君が扱う古代魔法は本当に危険だから扱い方に本当に注意して欲しい。古代魔法は全部命を簡単に奪う事が出来る魔法。

その中でも【鎖縛】と【豊穣】は容易く命を奪える。だからその魔法を扱う時は本当に気を付けて。」


予想を大きく超えた彼女の忠告に2人は息を飲む。そして彼女の言う事は全て事実だと感じたのだろう。何故なら彼女は古代魔法を扱える者であり、その危険性を1番知っている人物とでも言う様に。


アリス「何で...それが分かるんですか?」

ウィズン「...私が一度、命を奪ってしまったから。」

シルフ「えっ...」


胸に刺さる事実の数々。ウィズンは2人の反応に少し悲しげな表情を見せながら、ゆっくりと一度閉じた口を再び開いては自身の過去を語り始めた。決して繰り返さない様に戒めも込めた様な口調で。


ウィズン「教師になる前の話。当時の私には...その、彼氏がいたの。それで私と彼は街の中でも珍しく強力な魔法を持つ2人だった。でもある日、家に魔法を悪用する人間が押し寄せて来て私と彼を連れ去ろうとした。

私は古代魔法で何とかなったんだけど、肝心な彼は魔法の悪用を図る人間に連れ去られそうになった。その時だった。私は感情に任せて古代魔法を扱ってしまったのは。

その結果は悲惨。魔法を悪用しようと考えた人間を殺してしまい、挙句の果てには彼等の傍にいた愛する人まで一緒に殺してしまった。」


彼女の過去に言葉を失う2人。ウィズンの重々しい過去は、同じく古代魔法を扱えるシルフの胸に深く突き刺さる。自身の扱う魔法は強力。それは分かっていた。しかしそれが容易く命を奪ってしまう事までは想像が付かなかったから。

以前アリスに【鎖縛】について教えてもらった時は能力の一環としての事実だった為に、深く考える暇も無く時間が過ぎてしまう。そしてシルフは考えた。もし仮にこの先、アリスが危機的状況に陥ったら。

きっと自分も同じ様に感情に任せて古代魔法を放ってしまうかもしれない。そしたらどうなるか。きっとウィズンの過去の様に命を奪ってしまうだろう。アリスも含めて。


ウィズン「だからね、シルフ君に言いたいの。感情に任せて古代魔法を扱わないで。あと...アリスちゃんから離れないで。」

シルフ「ア、アリスさんと...ですか...?」

ウィズン「ええ。ゼイ先生から聞いたの。アリスちゃんは冷静でその場の状況を即座に判断出来る。だから直感が冴えてるんだろう、って。冷静なアリスちゃんが傍にいれば、シルフ君の判断も間違わない様に出来るでしょ?だから...お願い。

君達には不幸になって欲しくないの。押し付ける様で悪いけど、私からのお願い。本当に気を付けて。」


彼女の切実な願い。それはシルフとアリスに降り掛かるであろう災難を危惧しての物。2人はそれを重々承知していた。だからこそその願いに対して強く頷く。自身が古代魔法を扱える者としての自覚と、それを支える人間の覚悟を表す様にして。


アリス「安心して下さい...ウィズン先生。私、彼から離れる気はありませんから。何があっても。」

シルフ「僕も...アリスさんからは離れたくないですから。」


互いの発言に顔を見合わせる2人。どこか頬が紅潮した様な表情は、果たして周囲の気温が暑いからなのだろうか。それでも互いに離れたく無いと言う想いは確かな物で。


ウィズン「...ふふっ、君達なら大丈夫そうね。」


見守る様な目で笑うウィズンの視界には、2人の仲睦まじい姿が映っていた。そして彼女は思う。どうかこの幸せを壊さない様にと。


ウィズン「さて、ごめんなさいね。こんなに暗い話しちゃって。」


彼女は2人に軽く謝罪をする。だが、その当人は微笑みながらこう返した。


シルフ:アリス「いえいえ、全然大丈夫です。」


2人の優しさに微笑む彼女。そしてそのまま彼女は2人を部屋に返す様に廊下まで見送ろうと2人の横を歩き始めた。シルフとアリスを見守る彼女の瞳は優しさに満ちた物で、先程の話の中に感じた切実さは消え去っている。

きっと2人なら大丈夫。その実感が彼女の心を少しだけ軽くしたのだろう。やがて2人の姿が廊下へ歩み始めた時。ウィズンは別れの挨拶を告げて彼等を見送る。月明かりに照らされた2人の背中は何処か頼もしく、それでいて幸せに満ちている。

小さくなって行く2人の姿をウィズンはその暖かさを帯びる緑の瞳で見届けて。


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