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PERFECT WORLD  作者: ヤトミ
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第十四話 【過去に呑まれ】


時刻は少し陽の落ちた夕方。西の空から少し月が見え始める時刻。満身創痍の身体で校舎内へと戻るアリス。しかし流石教師と言うべきだろうか、ラムは彼女をおんぶの形で校舎まで運びそのままラムの自室へと運ぶ。本人曰くそこで色々話そうとの事。


アリス「あの...おんぶ恥ずかしいです。」

ラム「んー?途中で怪我して担架で運ばれる方が嫌じゃない?」

アリス「そう言う問題じゃ無くて...」


酒香る教師の首元に腕を回し、抱き着く形で顔を赤く染めるアリス。恥ずべき光景ではないが、やはり気恥ずかしさが勝るのか彼女に表情を悟られまいとそっぽを向く様に話していた。

そんな彼女を見てはクスクスと笑みを溢すラム。そしてそのまま彼女の部屋に着くと、一度地に下ろす。幸いな事に敷かれた真紅のカーペットのお陰で衝撃は吸収され、辛うじて楽である。

教師の自室に生徒が入る事は良いのだろうかと考える有津の事は露知らず、当のラムは自室の扉を開けようとドアノブに手を掛けていた。


アリス「あの...良いんです?生徒が入っちゃって。」

ラム「あぁー、まぁ大丈夫っしょ!私の部屋なんてそんな重要な物無いし。先生のプライベート知れるなんてラッキー!くらいに思っときなよ。」


笑いながら軽々しく言う彼女の態度に、本当に教師で大丈夫かと毎度思わされるが、核心を突く発言や校庭での事を思い出す限り、やはり教師としての実力は頭一つ抜けているだろう。

アリスはそんなラムの自室に少し興味が湧いたのか、ドアノブを捻る彼女の背を見ては一礼をして中へと入った。


アリス「え、綺麗。」


意思に反して漏れ出る言葉。彼女の自室は一言で言うなら『お洒落』。部屋自体は木造の家具や小物類で纏められたお洒落な作りとなっており、天井には暖かみのあるオレンジ色の明かりが付いたシャンデリアが部屋に彩りを加えている。

また、外の景色が見える大きな窓も備え付けられており、夜空に輝く星々が美しく感じられる。


ラム「何か恥ずかしいね。私部屋に人呼んだ事無いからさー、自分でも驚いた。」

アリス「お酒は...部屋には無いんですか?」

ラム「あるよ。そこの棚全部酒瓶。」


指差す方向に視線を向けるアリス。その方向には棚に敷き詰められた数多くの酒瓶が視界に映り、その中には彼女の言った様にウイスキーやラム酒、ブランデー等様々な種類の酒類が陳列されていた。

その量だけで幾らお金がかかっているのか想像もつかない程に。魔法学校の教師はそんなに稼げる職業なのだろうか。


ラム「まぁまぁ、そこのベッドに座ってよ。そこで色々話そ。」

アリス「あれ、判断トレーニング...」

ラム「あぁ、あれ建前。本心はアリスちゃんに色々話したくて。」


その言葉に思わず唖然とするアリス。自分と話したい。まさかそんな理由で判断トレーニングを口実にしたとは思いもよらなかったからだ。しかし彼女は直ぐに我に帰りベッドへと腰を落とす。

柔らかな感触に包み込まれる感覚が心地良く、彼女は思わずベッドのシーツに重みを委ねてしまう。一方でラムは少し離れた所でグラス片手にワインをグラスへ注ぎ込むと、そのままワインを口に運んだ。


ラム「あぁー生き返る。シラフじゃ話すの恥ずかしいからもう少し飲ませて?」

アリス「は、恥ずかしい?」

ラム「恥ずかしぃじゃーん。女の子にこんな話するのー。」


ケラケラと笑い、再びワインを口に含む彼女を見てアリスは疑問を抱く。一体どんな話をするのだろうかと。ワインを飲み終えたグラスを置いてはアリスの方へと向かい、やがて隣に腰を下ろすラム。

果実の様な甘酸っぱい香りが彼女の髪から漂い、仄かに香るベリーが頬を撫でる様に刺激した。


ラム「さてと、じゃあ何から話そっかな...何か気になる事ある?」

アリス「気になる事...」


その問いに思考を巡らせるアリス。記憶を辿って可能な限りラムに問いたい事を考えてみる。何故普段から酒を飲むのか、何故そんなに常時ハイテンションなのか。

ふざけた問いしか浮かばない自分に腹が立つと同時に逆に彼女への浮かぶ問いが果たしてこれで良いのかと自問する。そんな最中、彼女の脳裏に芽生える様にして一つの問いが浮かび上がった。


アリス (そう言えば...ラム先生の存在ってウィズン先生から初めて聞いたわよね...)


記憶に浮かぶ魔法植物学の教師であるウィズン。あの時、ウィズンはラムを『友人』と言っていた。更には『一般魔法で古代魔法と対等に戦える』と言う重要にも程がある情報も入手している事を思い出した。

普段の適当で常時ふざけた態度とは打って変わって、ウィズンの発言から推測するに計り知れない実力を持っているのだろう。そうとなれば質問を投げ掛けるしか無い。


アリス「あの、ラム先生。」

ラム「ん、なになに。気になる事見つけちゃった?」

アリス「ウィズン先生とはどう言う関係なんですか?」

ラム「えっ。」


何気なく投げ掛けた質問。軽々しい質問のはずだが、ラムの反応は予想を大きく外れていた。動揺した様に瞳孔を小さくした後に薄ら笑いを浮かべて頬を指先で掻く。そして少し間を置いては口を開いた。

その声色は少しだけ、ほんの少しだけ低く感じたのをアリスは覚えている。


ラム「この質問が来るとはなぁ~...」


アリスが投げ掛けた問いに彼女は心の内を隠さない。フッと短く切った息を吐いてはグラスを手に取って口にワインを運ぶ。喉を鳴らして飲み干すと、ラムは少し考える様に腕を組んでは天井を見つめて言葉を選ぶ様にして言った。

長い睫毛の隙間から覗く瞳が少し悲哀に満ちた気がして。


アリス「あ、あの話しちゃダメなら全然大丈夫で___」

ラム「いや、話すよ。ただの私の恥ずかしい過去だからさ。」


言葉を遮って彼女は言う。その目は依然として何処か悲哀に満ちており、でも強く自身の過去を語り始めるラムを見てはアリスも真剣に聞く事にした。紅い水面揺れるグラスを片手に持ちながら語る彼女の話を。


ラム「私とウィズンは同期なの。この魔法学校に就職して丁度6年目。長いよね。同期だからそりゃ仲良かったよ。すぐに打ち解けて授業の緊張とか生徒達の印象とか話して笑い合ったりして、時には授業覗きに行くくらい。

それくらい仲が良いもんだから、お互いの事深く理解しようと思って。3年前くらいかな。私とウィズンで一緒に晩酌したの。その時酔ってた勢いで、お互いの使える魔法について話したの。

私は炎魔法の派生技と、もう一つ私が生まれながらに宿していた独自の魔法について話したの。それは手から高濃度のアルコールを生み出す魔法。その魔法を聞いた瞬間にウィズンが笑っちゃってね。私も笑っちゃった。」


口から紡がれる言葉とラムの表情。そして声色。それはまるで自身の過去を嘲笑う様に、それでいて涙を堪える様に。アリスはただ黙ってその話を聞いていた。


ラム「その後にウィズンの話になった。ウィズンの扱える魔法。アリスちゃんとシルフ君...だっけ?2人は知ってると思うから言っちゃうけど、ウィズンは古代魔法を扱える。古代魔法【豊穣】。私よりもずっと強力で凄い魔法。そんで色々話してね。あの頃は楽しかった。でもね、ある日を境に私とウィズンは距離を置いた。理由はウィズンがチヤホヤされ始めてね。本当にしょうもない自分勝手な理由なんだけどさ、私...悔しかったんだと思う。生徒の間で次第にどうやらウィズンが凄い魔法を扱える事がバレ始めて。そして私と比較され始めた。戦闘科担当教師の私よりウィズンの方が強くて優しいし、ラムの授業はつまらないってね。だから妬んだ。嫉妬して酒に溺れた。酔ってる間はウィズンの事を忘れられて皆からの評価も何も気にしないで済んだから。ウィズンは何も悪くない。彼女は私をきっと良い人だと思ってる。違う、そんなんじゃ無い。私はウィズンよりつまらなくて、弱くて、自堕落で、優しくなくて、最低で。自分勝手に人を嫌って自分から壁を作ったのに、まだ孤独が嫌いで、一緒にいたくて、傍にいて欲しくて。そう思えば思う程苦しくなって...数年後にはこの有様だよ。」


泣きそうな顔をして笑いながらラムはアリスの頭を撫でる。少し紅潮した頬は酒に酔ったからだろうか。それとも、内から溢れる感情のせいだろうか。誰も知る事の無い、天真爛漫な彼女の隠された過去。

笑顔の裏に隠された物が、こんなにも重い枷だとはアリスは知らなかった。彼女をふざけた人、としか思わなかった自分の未熟さを思い知って。

そして同時に、その枷を外そうともせずに酒に溺れる彼女を見ては、アリスは心の奥が締め付けられる様な思いを感じた。


ラム「あぁ~あ...10歳下の子に愚痴るなんて私も落ちたなぁ...。しかも酒飲んだ勢いで泣きそうになってるし。ごめんね?こんなどうしようも無い大人でさ。」

アリス「な、何言ってるんですか...ラム先生がどうしようも無い大人な訳ないじゃ無いですか!だって先生はこんなにも生徒想いで、強くて...それに...」


ラムの言葉を否定しようと咄嗟の行動に必死に言葉を探すアリス。しかしそこまで言って言葉は出てこず、もどかしさに思わず下唇を噛んでしまう。そんな時、不意に自分の頭に生温い感覚が襲った。細くしなやかな、ラムの手。

突然彼女の頭を優しく撫でるラム。撫で慣れてないのか何処か辿々しくもあるが、それはとても暖かくて優しかった。


ラム「良いの良いの。何も気遣わないで。ほら、言ったでしょ?私に気遣ったら負けだって。」

アリス「...本当にラム先生は生徒想いですよね。今日何度も思いましたよ。関わりの無い私に対してここまで指導してくれて、本当に優しいと思います。愚痴吐くのだって仕方ないと思いますし。嫌な事溜め込んでたらいずれ自分が壊れちゃいますから...」


頭を撫でられながら小さな声でそう呟くアリス。その声はあまりにも小さい為か、彼女の頭を撫でる手に振動として伝わってくるのが面白くて堪らなかった。しかしそんな小さな声量でも、この静かな部屋では十分すぎる程で。


ラム「へへっ...ありがとうね。」


隣に座る彼女にだけ聞こえる様に小さく笑ってお礼を言うラム。そして彼女は撫でる手を止めと今度はアリスが口を開き始めた。その声色に少しの悩みを含んで。


アリス「その...ラム先生。私も少し考えてる事があって...」

ラム「んー?聞いてもらったからには何でも聞くよ。」

アリス「私、徐々にクラスでの居場所が無くなってる様な気がして。その...シルフも関係してるんですけど。」


内に隠した物を打ち明ける様に、視線をラムから外しては言葉を選びながら話し始めるアリス。その悩みを彼女はただ黙って聞いていた。


アリス「私、シルフと関わる様になってから周りから避けられてる気がして。気がする、って言うか確実に。今までは皆が私に話しかけてくれた。でも彼と関わる様になった今は徐々に徐々に人が減ってて。最終的にはシルフだけになっちゃって。

でも嫌じゃ無いんです。私はシルフをっ...だ、大事に思ってますし、彼と仲良くいられるならそれで良いみたいな所もあって...」


言葉に詰まりつつも本心をラムに吐露するアリス。自分なりに伝えたい事、思う事は沢山あるのだろう。そんな彼女の言葉を一言一句聞き逃さない様に頷きながら聞く彼女の表情は至って真剣であった。同情する様に肩に手を当てて、優しく撫でながら。


アリス「やっぱ...寂しいんですよね。」

ラム「そっかぁ...じゃあ私なりの意見を話すけど良い?」

アリス「は、はい。」

ラム「分かった。アリスちゃんもシルフ君も悪い所は一つも無いって前提で話すね。あのね、アリスちゃん。関わる人が変わると自然に周囲の人も変わって行く。他のクラスメイトと関わる様になれば、その周りのクラスメイトと関わる様になるでしょ?それと一緒。シルフ君と関わる様になれば、シルフ君の周囲の人、これからシルフ君と出会う人達と関わる様になる。それは決して悪い事じゃないの。」

アリス「良い...事ですか?」


ラムの少し難しく感じる話を必死に理解しようと、噛み砕きながら脳に浮かぶ言葉を選ぶアリス。そんな彼女を安心させるかの様に優しく微笑んでは頭を撫でる。

その仕草をされても彼女の話から耳を背ける事は出来ない為、何とか意識を彼女へと向ける。その反応を見ては、ラムも再び口を開いた。


ラム「うん。良い事だと思うよ?関わる人がその分見える世界も変わる。それに言ってたよね、アリスちゃん。シルフ君と仲良ければそれで良いって。それは前まで関わってた人が自分とは合わないって事にも繋がるんじゃないかな。

だから心を許せるシルフ君って存在が出来たのは、アリスちゃんにとっては良い事だと思うよ。それにね、人と人との関わりって1回や2回で決まる物じゃないと思うの。そこから変化する事だってよくある事。良くも悪くもね。

あはっ、私達似た物同士だね。周りの人を気にして、自分を省みちゃう。辛いよね。」

アリス「はい...辛いですね。本当に。」

ラム「私達さ、もう友達なろうよ。教師と生徒だけど同じ人間でしょ?友人関係に上下も何も無い。似た物同士、何かあったら気軽に相談してさ。部屋で愚痴りあおうよ。ほら、私もアリスちゃんもお互いの本音聞けてスッキリしたでしょ?」


その言葉に確かにと頷くアリス。親身に自分の話を聞いてくれ、さらには心を軽くしてくれた彼女の言葉は何処か重みがあって。教師と生徒の関係でありながらも確かな友情を生んでいるのが今ならよく分かる気がする。

胸の中で何かが浄化される感覚が訪れては安心感を抱いたのだろう。彼女は安堵の笑みを浮かべていた。そして静かに席を立つと、その右手を差し出す。


ラム「さ、もう夜だよ。そろそろ部屋戻る?」

アリス「あっ!私シルフ待たせてる!!すみません、今日は色々とありがとうございました!」

ラム「どう致しましてー。あぁそうだシルフ君にもよろしく言っといてねー。」

アリス「はい!それじゃあまた!!」


その言葉と同時に駆け出したアリス。急いで階段を駆け下りては廊下に出ると直線の長い道が続く。本来なら廊下は走りたく無いが、今は仕方が無い。彼を数時間も待たせているのだから。校庭でのランニングを活かす様にその長い廊下を駆けだす。


アリス (私の馬鹿ぁっ!何でシルフが待ってる事忘れてるのよっ...!!可哀想じゃない部屋で一人暇させるなんて...!!自分勝手な事ばっか考えてっ...!!)


頬を掠める夜風と少し冷たい空気が肌に伝わる。だが、彼女の感情はそんな事は関係無いと言う様に体温が上昇していた。友人の事を構ってあげられなかった自分の情けなさを呪う様に、自身の失態を嘆きながら彼女は部屋まで急ぐのであった。


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