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第99話: ストームライダー、新たな嵐の旅へ

ヴェールウッドの村は、朝陽に照らされて穏やかに輝いていた。木々の間を抜ける風が草を揺らし、遠くで鳥のさえずりが響く。タクミはストームライダーのコックピット脇で、装備ラックに収まった3メートルの雷神の槍を眺めていた。ゼノスを貫いたあの巨槍を手に持つことはできなくても、その重厚な存在感が次の戦いを予感させる。昨日、エリナや仲間たちと交わした「これからどうする?」の言葉が頭を駆け巡り、貴族の残党、新たな脅威、大陸の未来――ゼノスを倒しただけじゃ終わらないと、タクミは腹の底で確信していた。


「タクミ、整備完了だ。雷神の槍のエネルギー安定度92%、機体推力1万4000ニュートン、反応速度0.03秒。ゼノス戦後の応力データ見るか?」

ガイストの声がコックピットから響き、タクミは苦笑いを浮かべた。

「お前さ、朝から数字並べるのやめてくれよ。頭痛くなってくる。」


「おい、タクミ、これでも簡略化したんだぞ。機動力のトルク換算で800N・m、装甲耐久72%の詳細まで出せば、お前もっと混乱するからな。」

ガイストが即座に反論し、タクミは肩をすくめた。

「はいはい、技術者の魂は分かったから。で、次の目的地は?」

コックピットの縁にドカッと腰掛けて聞くと、ガイストが少し得意げに答えた。

「魔脈ラインの収束点だ。強化素材の入手確率87%、未知のエネルギー反応も検知済み。どうだ、タクミ、俺の計算完璧だろ?」


「完璧なら、もう少し砕けて喋れよ。『お前らしく行こうぜ、タクミ!』とかさ。」

タクミがニヤリと笑うと、ガイストが一瞬沈黙した。

「……検討する。」

ぶっきらぼうな返答に、タクミは思わず吹き出した。


その時、広場の反対側から仲間たちがやってきた。カザンが熔雷槌を肩に担ぎ、ズシズシと地面を鳴らして近づく。バルドは風嵐の双剣を下げ、鋭い目でタクミを見据えた。セリカは跳ねるように駆けてきて、猫耳をピクピクさせながら短剣をくるりと回す。リアは魔導書を抱え、少し緊張した顔でタクミを見つめた。セシルとジンは並んで歩き、ジンの竪琴が風に軽く鳴り響く。


「おい、タクミ! 旅に出るってのに俺たち置いてく気じゃねえよな?」

カザンが豪快に笑い、熔雷槌を地面にドンと叩きつけた。タクミは笑顔で返す。

「当たり前だろ。熔鉄団の技術がなきゃ、ストームライダーが泣くぜ。頼りにしてるよ。」


「次は10万N・m級の鉄を打ってやる!」

カザンが胸をドンと叩き、タクミがガイストに目をやった。

「ガイスト、メモしとけよ。カザンが無茶言うから計算頼むわ。」

「10万N・mだと現在のフレームが耐えられん。強化素材必須だ、タクミ。お前がサボると俺の計算が無駄になるぞ。」

ガイストが即座に反応し、タクミが笑い返した。

「サボるわけねえだろ! お前と一緒に嵐起こすんだから!」


「ゼノス以上の敵がいるなら、俺の剣を試すいい機会だ。道を示せ、タクミ。」

バルドが静かに言い、双剣を軽く構えた。

「私も行くよ! 貴族の動き探りながら、タクミの旅に情報仕入れてくる!」

セリカが猫耳をピンと立て、短剣を手に跳ねた。

「タクミ、私も一緒だよ! 魔術で支えるから!」

リアが一歩踏み出し、魔導書をギュッと握った。

「エアリスの平和を守るなら、私の癒しが必要よね。」

セシルが優しく微笑み、地の種を手に持つ。

「大陸に歌を届けつつ、タクミの旅に花を添えるよ。」

ジンが竪琴を爪弾き、澄んだ音色を響かせた。


タクミは仲間たちを見回し、胸が熱くなった。

「みんな…本当にいいのか? ゼノス以上の嵐が待ってるかもな。」

真剣な目で問うと、カザンが豪快に笑った。

「嵐だろうが、タクミと一緒なら乗り越えられるさ!」

「そうだよ!」

セリカが跳ねて同意し、仲間全員が頷いた。


そこへエリナが歩いてきた。新政府の旗を手に、黒髪を風になびかせ、タクミたちを力強く見据える。

「タクミ、お前たちが旅に出るなら、新政府は私に任せて。大陸を一つにする基盤を、お前たちが戻るまでに作るよ。」

静かだが芯のある声に、タクミは力強く頷いた。

「頼んだ、エリナ。俺たちはストームライダーを強化して、次の脅威に備える。貴族が何企もうと、戻ってきたら全部片付けるぜ。」


「エネルギー残量84%、マグナ・ヴェストの同期準備完了だ、タクミ。お前がグズグズしてると減るぞ。」

ガイストが茶々を入れ、タクミが笑い返した。

「お前がうるさいと減る速度上がるだろ! 行くぞ!」


タクミはマグナ・ヴェスト――ストームライダーとワイヤレスで同期するパイロットスーツ――を着込み、コックピットに飛び乗った。スーツがタクミの心拍数や精神状態をガイストと共有し始め、ディスプレイにデータが映し出される。

「心拍数72、精神安定度95%。お前、意外と落ち着いてんな、タクミ。俺の整備のおかげだろ?」

ガイストが得意げに言うと、タクミがニヤリと笑った。

「自画自賛すんなよ。さあ、行くぜ!」


タクミがレバーを握り、仲間たちが歓声を上げた。ストームライダーの装備ラックから雷神の槍がストームライダーにガシャンと固定され、タクミが叫ぶ。

「ストームライダー強化の旅だ! 次はもっとでかい嵐を起こす!」


エンジンが唸り出し、地面が微かに震えた。

「機体状態良好、エネルギー出力安定、システムオールグリーン! 魔脈ラインへGOだ、タクミ!」

ガイストが叫び、ストームライダーが大地を蹴った。魔脈ラインを目指して走り出し、タクミとガイストの軽口、仲間たちの笑い声が朝陽に響き合った。


ヴェールウッドの住民が見送りに集まり、エリナが新政府の旗を高く振った。朝陽が空を染め、タクミ一行の背中を照らす。第1部の物語はここで一旦終わりを迎え、新たな冒険の幕が上がった。



第1部 完



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