第97話: ヴェールウッドでの休息
雷の神殿からヴェールウッドへの帰路、タクミはストームライダーのコックピットで風の翼を見つめていた。雷神の槍を手にゼノスをぶち抜いたあの瞬間――「ユニゾン・デスティニー・ノヴァ」の虹色の奔流が心臓部を貫いた興奮が、まだ胸の中で熱く燃えている。外部スピーカーから仲間たちの笑い声が響き、緑の大陸の森を抜ける風が機体を優しく揺らす。遠くにヴェールウッドの明かりが見えた瞬間、タクミの肩から力が抜けた。
「ガイスト、機体の状態はどうだ?」
「ゼノス戦後点検完了。装甲応力72%に回復、エネルギー残量50%、スラスター推力1万4000ニュートン維持。風の翼と雷神の槍の同期率95%。休息と補修を推奨。」
タクミはニヤリと笑い、操縦桿を軽く叩いた。
「了解だ。まずはみんなで勝利を祝うぜ!」
村に到着すると、ヴェールウッドの住民たちが一斉に駆け寄ってきた。その先頭に立つのは、村のリーダー格であるエリナだ。長い黒髪を風になびかせ、力強い瞳でタクミたちを見つめる彼女は、粗布のチュニックに革のベルトを締めた姿で堂々と立っていた。熔鉄団の仲間たちがストームライダーを囲む中、エリナが一歩踏み出し、温かくも頼もしい声で呼びかけた。
「タクミ、お前たち無事に帰ってきたんだな! ゼノスの雷鳴が止んだ時、村中が震えたよ。お前らがやってくれたんだろ?」
タクミがコックピットから降りると、エリナがガシッと肩を叩いて笑った。
「ああ、エリナ。ゼノスをぶっ潰してきたぜ。みんなのおかげだ。」
エリナはストームライダーの側面に装備された雷神の槍を見上げ、目を細めた。
「その槍と機体がエアリスの希望を繋いだんだ。ヴェールウッドは忘れないよ。お前たち、よくやった!」
エリナが手を振ると、村人たちが動き出し、広場に木製のテーブルを並べ始めた。カザンが汗まみれの顔で豪快に吠える。
「ゼノスをぶっ潰した英雄だ! 酒と飯を山ほど用意しろ!」
焼きたてのパンの香ばしい匂い、ジューシーな肉の脂が滴る音、色とりどりの果物が次々と運ばれてくる。リアがエリナの横に駆け寄り、魔導書を抱き締めて弾ける笑顔を見せた。
「エリナさん、タクミがすごかったんだから! 私たちの魔法も大活躍だったよ!」
エリナはリアの頭を優しく撫で、頷いた。
「リアの知恵がなければ、タクミの熱血も届かなかっただろうな。お前ら全員がヴェールウッドの誇りだ。」
バルドが風嵐の双剣を腰に下げ、肉を豪快に頬張りながらクールに呟いた。
「貴族の切り札があの程度か。次はあいつらの本隊を斬る番だな。」
カザンが酒杯を掲げ、テーブルを叩いて笑い声を響かせた。
「熔鉄団の鉄とタクミの機体があれば、どんな敵もぶちのめしてやるぜ!」
セシルが果物を手に穏やかに微笑み、ジンが竪琴を爪弾いて静かな旋律を流した。
「みんなが無事で良かったよ。」
「エアリスの風が穏やかになった。俺たちの勝利の証だな。」
タクミはテーブルにドカッと腰を下ろし、仲間たちの笑顔を見回した。エリナがタクミの隣に立ち、酒瓶を手に持って言った。
「タクミ、ゼノスを倒した一撃、見せてもらえなかったのが悔しいな。村の子供たちがお前を英雄扱いしてるんだから、しっかり姿を見せてやってくれ。」
タクミは笑って酒を受け取り、杯を掲げた。
「なら、ヴェールウッドのみんなと一緒に祝うしかねえな!」
広場は村人たちも加わって笑い声と音楽で溢れ返る。リアがタクミの隣にちょこんと座り、焼きたてのパンを差し出した。
「タクミ、これ食べて! あんな戦いの後だもん、お腹ペコペコでしょ?」
「ああ、ありがとな!」
タクミがパンをガブリとかじると、温かい小麦の甘さが疲れた体に染み渡った。カザンが酒杯を無理やり押しつけ、バルドが珍しく口角を上げ、セシルとジンが即興で歌を合わせる。エリナが村人たちを率いて拍手を送り、広場はまるで祭りのように熱を帯びた。
その時、ストームライダーのコックピットからガイストの声が静かに響いた。
「タクミ、ゼノスの残留波動解析を継続中。微弱だが、魔脈ラインに沿った異常反応を検知。報告を推奨。」
タクミは酒杯を手に持ったまま、少し眉を寄せた。
「残留波動か…。今はいいよ、ガイスト。みんなと祝うのが先だ。」
ガイストの通信が途切れ、タクミはエリナや仲間たちと杯を打ち鳴らした。ドンッと響く音と共に、ゼノスを倒した喜びがヴェールウッドの夜を熱く包み込んだ。
空を見上げれば、星々がエアリスの大地を祝福するように輝いている。タクミは酒を一気に飲み干し、仲間たちの笑い声に耳を傾けた。だが、心の片隅で、ガイストの「異常反応」という言葉が小さく引っかかっていた。それでも今は――この瞬間は――勝利と絆の熱に身を委ねる時だ。