第96話: ゼノス討伐
雷の神殿の尖塔前で、ストームライダーが壁に叩きつけられ、タクミの体がコックピット内でガクンと揺れた。ゼノスの雷撃が機体を直撃し、ディスプレイに赤い警告が乱れ点滅。装甲が焼け焦げ、風の翼がバチバチと火花を散らす中、タクミは操縦桿を握り直した。眼下ではゼノスの胸部心臓部が赤く脈打ち、魔鋼装甲が砕けた隙間からその核心がわずかに覗いている。
「ガイスト、機体の状況を教えろ!」
「装甲応力60%、エネルギー残量45%、スラスター推力1万4000ニュートン維持。ゼノスの心臓部露出、攻撃可能と推測。即時行動を推奨。」
タクミは汗を拭い、歯を食いしばった。
「よし、もう一発だ! みんな、俺に力を貸してくれ!」
地上では仲間たちがゼノスに立ち向かっていた。リアが上位魔導書を掲げ、鋭く叫んだ。
「タクミ、私が援護する! 雷の精霊よ、我が声に応え、全てを貫け――トーラス・ストライカー!」
雷神トーラスが轟音と共に現れ、雷槍をゼノスの脚に突き刺す。青白い稲妻が魔鋼を焦がし、巨体が一瞬よろめいた。
「熔鉄団はここで終わらねえ!」
カザンが熔雷槌を振り回し、全身の力を込めてゼノスの脚に叩きつけた。衝撃波が装甲を砕き、巨体が膝をつく。バルドが風嵐の双剣を閃かせ、冷たく言い放つ。
「大地の守護者よ、絆の力で俺を助けろ! 覚醒せよ、地神テラノス!」
巨岩の守護者がゼノスの両腕をガッチリ掴み、胸部をタクミに晒した。
セシルが地の種を握り、静かに祈るように呟いた。
「地の精霊よ、仲間を守って――アース・バリア!」
緑の結界が仲間を包み、ゼノスの雷撃を弾き返す。ジンが竪琴を優しく奏で、穏やかな声で歌った。
「水の調べよ、魔脈を癒せ――アクエリア!」
清らかな水流がゼノスの胸部を削り、仲間たちの傷を癒していく。
タクミは風の翼を全開にし、雷神の槍を構えて突進した。ストームライダーの巨体が支える巨大な槍がゼノスの胸部に突き刺さり、魔鋼装甲を貫く。だが、心臓部にはわずかに届かず、槍が装甲に食い込んだまま動きを止めた。ゼノスが咆哮を上げ、黒雷を放つ。ストームライダーが雷に掠められ、機体が軋む。ガイストが警告を発した。
「槍の貫通力不足。エネルギー残量40%に低下。ゼノスの反撃増強中。次の攻撃が最終チャンスと推測。」
「くそっ、刺さったままじゃ…!」
タクミが焦りを滲ませた瞬間、リアが鋭く叫んだ。
「タクミ、槍をそのままにして! 魔脈ライフル改に私の全属性魔法を!」
「そうか!ライフルのあの威力なら…リア!お前すごいこと考えるな! よし!頼んだ!」
リアが魔導書を両手で掲げ、全身から魔力が溢れ出した。
「全精霊よ、我が声に応え、絆を束ねよ――オール・エレメント・ユニゾン!」
炎、氷、雷、風、地、光が渦巻き、ストームライダーの右腕に流れ込む。
「ガイスト、魔脈ライフル改をフル稼働だ!」
「エネルギー収束開始。」
ガイストの声が響き、ストームライダーの右腕がガシャンと展開。ヴェールウッドで改良された魔脈ライフル改の銃口が開き、重低音の唸りが戦場に響いた。リアの魔法が虹色の輝きとなって銃口に収束する。それと同時にディスプレイのチャージゲージが跳ね上がる。タクミの額に汗が滲む。
「急げ、チャージを終わらせろ!」
ゼノスが黒雷を振り上げ、タクミたちに迫る。右腕から熱波が漏れ出し、ビリビリと空気が震える。ゲージが80%を超え、機体全体が微かに振動し始めた。ガイストの声が緊迫する。
「エネルギー残量35%…90%…発射準備完了! 警告:本攻撃後、エネルギー残量がゼロとなり、機体停止のリスクあり。」
タクミは目を閉じ、仲間たちの声を聞いた。リアの知恵、カザンの豪快さ、バルドの鋭さ、セシルの優しさ、ジンの旋律――そしてエアリスの未来。目を開け、操縦桿を握り締めた。
「例えエネルギーが尽きようが、この一撃に全てを賭ける! ゼノス、覚悟しろ!」
ゼノスの咆哮が響く中、タクミが右腕をゼノスの胸部に突き刺さった雷神の槍に狙いを定めた。一瞬の静寂が流れ、タクミが鋭く吠えた。
「ユニゾン・ディスティニー・ノヴァ!!」
操縦桿のトリガーを握り潰す勢いで引き、右腕が一瞬震えた――そして、轟音と共に虹色の魔脈エネルギーが奔流となって放たれた。太く鋭いビームが雷神の槍を直撃し、槍を心臓部まで押し込む。魔鋼装甲が砕け散り、心臓部が虹光に飲み込まれる。爆発が神殿を揺らし、ゼノスの巨体が雷と炎に包まれながら崩れ落ちた。衝撃波が尖塔を震わせ、焼けた魔鋼の焦げ臭さが戦場を包んだ。
ガイストの声が途切れ途切れに響く。
「ゼノスの魔脈エネルギー完全停止…エネルギー残量…0%…残留波動を微弱に検知…原因不明…システム…シャットダウン…」
ストームライダーが膝をつき、完全に停止。タクミはコックピットから這い出し、動かなくなった機体の横に立つ。雷神の槍はゼノスの残骸に刺さったまま、静かに輝きを失っていた。
「終わった…やっと終わったぞ!」
仲間たちが駆け寄り、リアが魔導書を握り締めて涙をこぼした。
「タクミ、私たちやったね…!」
「貴族の切り札をぶち壊したぜ。」バルドが双剣を肩に担ぎ、満足げに頷く。
「熔鉄団の鉄が勝ったな!」カザンが槌を地面に叩きつけ、豪快に笑った。
セシルが穏やかに微笑み、ジンが竪琴を静かに奏でた。
「みんな無事で良かったよ。」
「エアリスの意志が俺たちを繋いだんだな。」
タクミは仲間を見回し、ストームライダーの横で拳を握った。
「これが俺たちの絆の力だ。ゼノスを倒した。でも…」
ガイストの最後の言葉が頭をよぎる。
「残留波動を微弱に検知…原因不明…」
タクミがゼノスの残骸を見ると、崩れた魔鋼の奥に何か不気味な気配が残っている気がした。だが、今は勝利の喜びがそれを上回る。リアが心配そうに声をかけた。
「タクミ、どうしたの?」
タクミは笑顔で振り返り、仲間たちに手を挙げた。
「なんでもねえよ。ヴェールウッドに帰って、みんなで祝おうぜ!」
仲間たちが頷き、雷の神殿を後にした。ゼノスを倒したタクミ一行の背中に、エアリスの風が優しく吹き抜けた――。