第88話:風の神殿への突入
ヴェールウッドの村の朝は、熔鉄の匂いと仲間たちの喧騒で目覚めた。補強を終えたストームライダーが朝陽に輝き、タクミはその機体の前に立ち、風の神殿への出発を急かしていた。熔鉄団の職人たちが最後の熔鉄を流し込み、カザンが豪快に笑いながらタクミの肩を叩く。「これでゼノスだろうが何だろうがぶっ潰せるぜ!」
だが、タクミの視線は遠く、緑の大陸の北東にそびえる風の神殿へ向かっていた。ゼノスの咆哮が耳に残り、貴族が次の一手を打つ前に「風の翼」を手に入れなきゃならない焦りが胸を焦がす。汗と煤にまみれた手でヘルメットを握り締めた。
仲間たちが荷物をまとめ、武器を手に集まる中、一人の小さな影がタクミに駆け寄ってきた。「タクミ、私も行くよ!」
セリカだ。猫耳をピクピク動かし、短剣を手に軽やかに跳ねる彼女は、情報屋らしい敏捷さを見せつける。だが、タクミは静かに首を振った。「いや、セリカ。お前は風の神殿には連れていかない」
「えっ!?」セリカの尻尾がピンと立ち、驚きの声が上がる。仲間たちも一瞬動きを止め、タクミを見た。彼女が短剣を握り直し、抗議するように叫ぶ。「私だって戦えるよ! 足だって速いし、情報だって集められる! 置いていくなんてひどいよ、タクミ!」
タクミはセリカの瞳を見つめ、穏やかだが力強い声で返す。「戦うだけが仲間じゃない。貴族が次に何を仕掛けてくるか、ゼノスがどう動くか——それを知るのが今は大事だ。お前の速さと情報屋の目は、俺たち全員を救う。お前しかできないんだ、セリカ。頼む」
その言葉に、セリカの耳が少し垂れる。短剣を腰に戻し、唇を尖らせながらも小さく頷いた。「…わかったよ。タクミの頼みなら仕方ないね。貴族の動き、しっかり探ってくる。私が役に立つって証明してやる!」
彼女は風のようにくるりと向きを変え、森の奥へ駆け出した。その背中を見送りながら、リアがタクミの横に立つ。「タクミ、セリカなら大丈夫。私たちも頑張ろうね」
「ああ、行こうぜ」タクミの声が仲間を動かし、ストームライダーのエンジンが低く唸った。
緑の大陸の森を抜け、サンドリア大陸に入る。タクミ一行は風の神殿に到着した。以前訪れた神殿は、今や魔獣の咆哮と不気味な風音に包まれている。石造りの柱に爪痕が刻まれ、入り口には群れをなす魔獣がうごめく。タクミはコックピットでディスプレイを確認した。「ガイスト、状況は?」
「魔獣の数は30体以上。魔脈の影響で活性化している可能性が高い。戦闘準備を推奨する」
「よし、全員配置につけ!」タクミの号令一下、仲間たちが一斉に動き出す。
ストームライダーのスラスターが唸りを上げ、熱風が地面を焦がす。タクミが叫ぶ。「ガイスト時間がない、魔脈ライフル改を準備しろ!」
「了解。エネルギー収束開始」ガイストの声が響き、ストームライダーの右腕がカチリと展開する。ヴェールウッドで改良された魔脈ライフル改の銃口が開き、低い振動音が周囲に響き始めた。青白い光が徐々に収束し、ジジッと火花が散る。タクミの額に汗が滲み、ディスプレイにチャージゲージがゆっくり上昇する。
「フルチャージまだか!?」
魔獣の群れが唸り声を上げ、牙を剥いて迫ってくる。右腕の光が強まり、ビリビリと空気を震わせる音が神殿に反響する。ゲージが80%を超え、ストームライダーの装甲が微かに軋む。
「あと少しだ、タクミ。90%…95%…発射準備完了!」ガイストの声が緊迫感を帯びる。光が極限まで凝縮され、銃口から熱波が漏れ出す。
「みんなどけ!これで道をあける!!」タクミが吠え、操縦桿を握り締める。
一瞬の静寂が訪れ、魔獣の唸り声さえ遠くに感じる。タクミが右腕のトリガーに指をかけ、目を鋭く光らせて叫ぶ。
「くらえ、この野郎!!」
操縦桿のトリガーを力強く引き、右腕が一瞬震えた——そして、轟音と共に魔脈エネルギーが奔流となり、放たれた。太く鋭いビームが魔獣の群れを直撃し、30体全てが一瞬にして飲み込まれる。爆発が大地を揺らし、魔獣が灰と肉片に変わり、衝撃波が風を巻き上げて神殿の入り口を吹き飛ばした。硝煙と血の匂いが戦場を包み、タクミは目を丸くする。「どうなってんだこれ!?」
カザンが熔雷槌を担ぎ、豪快に笑いながら近づく。「今回のヴェールウッドで、これまでの旅で手に入れた素材と炎の炉の魔脈エネルギーを抽出して、そいつもパワーアップさせといた。まさかこんな強力になってるとは俺も思わなかったがな!」
タクミはコックピットで拳を握り、笑みを浮かべる。「カザン、最高だぜ!」
だが、魔獣の残骸が散らばる中、群れの奥から大型の魔獣が姿を現し、タクミに向かって突進してきた。「まだいるのか!」
「タクミ、私がやるよ!」リアがエーテル・ノヴァを掲げ、風の中で髪が乱れる。彼女の足元に巨大な魔法陣が広がり、赤、青、金、緑、白の光が渦を巻く。深呼吸と共に叫ぶ。「オールエレメント・ユニゾン!」
炎がうねり、氷が鋭く輝き、雷が迸り、風が唸り、大地が隆起する全属性魔法が解き放たれる。魔法陣が神殿の天井まで広がり、大型魔獣を包み込んだ。悲鳴と共に魔獣が崩れ落ち、血と焦げた臭いが漂う。タクミが叫ぶ。「ナイスだ、リア!」
「セシル、結界を頼む!」
セシルの声が風に乗り、地の種から緑の光が広がる。「みんなを守るよ!」
結界が仲間を包み、残った魔獣の爪や牙を弾く。ジンの竪琴が静かに鳴り始め、「エアリスの風よ、俺たちに力を貸せ!」と低く響く音色が士気を高めた。
「よし、奥へ突っ込むぞ!」
ストームライダーのスラスターが全開になり、タクミは魔獣の残骸を踏み越えて神殿の奥へ突進した。石の回廊を抜け、中央の大広間にたどり着く。そこは以前訪れた風の神殿の心臓部だ。だが、前回とは違い、空気が重く、魔脈の気配が濃く漂う。風が不自然にうなり、壁に冷たい汗のような水滴が滲んでいた。




