第87話:ヴェールウッドへの帰還と補強
雷の神殿のホールが崩れ落ちる轟音が背後に響き、タクミはストームライダーのコックピットで歯を食いしばった。目の前のディスプレイには、赤く点滅する警告が次々と浮かぶ。装甲のひび割れ、スラスターの出力低下、エネルギー残量の減少——雷神トーラスの試練を越え、ゼノスとの初戦を切り抜けたばかりなのに、風の神殿への焦りが胸を締め付ける。汗が額を伝い、煤けた手で操縦桿を握り直した。
「風の神殿に行かなきゃ…! ゼノスが動き出す前に!」
その瞬間、コックピットに冷徹な電子音が響いた。「待て、タクミ。機体状況を報告する。装甲耐久度32%、スラスター出力67%、エネルギー残量43%。このまま風の神殿へ向かうのは無謀だ。生存率12%と予測。」
ガイストの声が容赦なく数値を並べ立て、タクミの焦りを切り裂く。
「12%…だと?」
ディスプレイの数字が目に突き刺さり、一瞬、技術者の冷静さが揺らぐ。だがすぐに首を振って反論した。「数字なんかどうでもいい! 風の翼が貴族に奪われたら終わりだ。時間がないんだよ、ガイスト!」
外部スピーカーから別の声が割り込む。「タクミ、落ち着け! 機体がぶっ壊れたらどうやって戦うんだ!」
バルドだ。嵐の双剣を肩に担ぎ、雷の神殿の瓦礫に立つ彼の姿が視界に映る。隣には熔雷槌を握ったカザンが立ち、汗と血にまみれた顔で続ける。「熔鉄団の鉄は頑丈だが、お前の機体はボロボロだ。ストームヘイブンまでとは言わねぇ!せめてヴェールウッドで補強しろよ!」
「でも…!」タクミが言いかけた時、小さな影がストームライダーの足元に駆け寄ってきた。
「タクミ、無理しないで!」リアだ。エーテル・ノヴァを手に、タクミを見上げる彼女の瞳が揺れる。「私たちみんなで戦うんだから、ここで潰れたらゼノスに勝てないよ!」
その純粋な声が、かつての家族の温もりを呼び起こし、タクミの心を貫いた。
「……わかったよ」
タクミは小さく息を吐き、操縦桿から手を離す。ガイストが静かに補足する。「賢明な判断だ、タクミ。ヴェールウッドまで約20キロ。現在の出力で到達可能。補強が済めば戦闘効率は大幅に向上する。」
「行こう…」タクミの声が低く響き、ストームライダーのエンジンが微かに唸りを上げた。
緑の大陸の森を抜け、タクミ一行はヴェールウッドの村にたどり着いた。木々の間から見える小さな集落は、タクミがエアリスに来て初めて拠点とした場所だ。村人たちが慌ただしく駆け寄り、熔鉄団の仲間たちがストームライダーを囲む。熔けた鉄の匂いが風に乗り、森の静けさを切り裂いた。
カザンが熔雷槌を地面に叩きつけ、豪快に叫ぶ。「熔鉄団、動け! 鉄と火を準備しろ! この機体を最強の盾に鍛え直すぞ!」
職人たちが一斉に動き出し、熔炉の火が轟々と燃え上がる。ストームライダーのひび割れた装甲に熔鉄が流し込まれ、金属が軋む音が響いた。タクミはコックピットから降り、作業を見守る。
「タクミ、大丈夫?」
リアがそっと近づき、小さな魔術パーツ——全属性魔法を安定させる結晶——を手渡す。それは技術者のタクミが見れば言い方は悪いが粗末な作りのものだとすぐにわかった。「これ、私が作ったの。少しでも強くなればいいなって…」
タクミはその結晶を手に取り、リアの頭に手を置いた。「ありがとう、リア。お前がいてくれるだけで、俺は十分だよ」
彼女に笑顔が灯り、彼女の優しさにタクミの胸に温かいものが広がる。
その横で、バルドが嵐の双剣を磨き、低く呟く。「ゼノス…貴族の切り札か。次は俺の剣で仕留める」
セシルが地の種を手に近づき、優しく微笑む。「みんなが無事で良かった。地の力で守れるなら、私も頑張るよ」
ジンの竪琴が静かに響き、村に穏やかな旋律が流れる。「風の神殿か…エアリスの歴史が動く。お前らがその中心だ、タクミ」
熔鉄団の作業が進み、ストームライダーの装甲が熔鉄で補強される。ひび割れが埋まり、新たな輝きを放つ機体に、タクミの目が留まる。ガイストの声が響いた。「補強完了。装甲耐久度78%、スラスター出力89%まで回復。戦闘準備は整った。次は風の神殿か?」
タクミは仲間を見回す。カザンの豪快な笑い、バルドの鋭い眼差し、セシルの優しさ、ジンの旋律、リアの笑顔——そして、短剣を手に静かに佇むセリカが加わる。
タクミはふと貴族の魔導士の哄笑を思い出す。「俺達が勝手にゼノスというコードネームを付けて読んでたけど…アイツら、『ゼルガノス・エクスマキナ』とか言ってたな…それがゼノスの本当の名前か。だが名前なんかどうでもいい! ゼルガノス・エクスマキナなんて長すぎる。俺たちはこれからもゼノスと呼ぶ!」
彼の声が内心で響き、拳を握り締める。目の前の仲間たちが、その決意を静かに支えている。
「……ああ、行くよ。雷の神殿でゼノスを倒す。ゼルガノス・エクスマキナをぶっ壊すのは、俺たち全員だ」
タクミの声に、仲間たちが一斉に頷く。熔鉄の火花が散り、ストームライダーのエンジンが再び唸りを上げた。風の神殿での戦い、「風の翼」を手に入れるための新たな一歩が、今、始まろうとしていた。




