第85話：風の神殿の謎と雷の契約
雷の神殿の狭い回廊を抜けたタクミ一行は、セリカとの絆を新たにゼノスへの道を進んでいた。壁の雷神トーラスの彫刻は半ば崩れ、青白い雷光がバチッと火花を散らし、床には戦いの傷跡が深く刻まれている。空気は湿気を帯び、硫黄と焦げた金属の重い匂いが漂う。ゼノスの足音——ドォン、ドォン——が近づき、回廊の石が震え、緊張感が空気を締め上げていた。一行が「試練の間」の先にある広大な円形ホールに足を踏み入れると、魔脈炉の重低音が耳を貫き、天井から垂れる錆びた鎖がカタカタと不気味に揺れた。壁には雷神トーラスの巨大な姿が刻まれ、その瞳が一行を見下ろしている。
突然、ホールの中央で雷光が渦を巻き、青白い輝きが集まり始めた。ガイストの声がストームライダーのコックピットに鋭く響く。「魔脈反応、異常値！ 解析不能だ！」
「何だ！？」タクミが叫ぶと、雷光が形を成し、雷神トーラスの幻が現れた。全高10メートルを超える威厳ある姿は、雷を纏った鎧に身を包み、両手に雷槍を握っている。深い瞳がタクミとセシルを交互に貫き、低く響く声がホール全体を震わせた。
「風の精霊を従える者よ、調和の鍵を見極めよ。」
タクミは操縦桿を握り締め、汗が掌に滲む。「雷神トーラスか！ 雷神の槍はどこだ！」
幻が静かに続ける。「我はエアリスの調和を守りし雷の守護者。雷神の槍は風の翼と共鳴する力なり。風の翼は風の神殿に眠る。風の精霊を従えし者、その真実を解き明かせ。」
その言葉にセシルが息を呑む。「風の神殿…私のエアリス・ガーディアンと関係が？」
彼女がエアリスウィスパーを握り締めると、杖から微かな風が巻き起こる。63話で従えた風の召喚精霊、エアリス・ガーディアンの記憶が蘇り、セシルの瞳が揺れた。タクミが振り返り、「セシル、お前が風の鍵なのか？」と問う。だが、トーラスの幻が雷槍を掲げると、ホールが震え、雷光が奔り始めた。
「槍を渡せ、トーラス！ ゼノスがすぐそこまで来てるんだ！」タクミが叫ぶが、トーラスの声が響く。「雷神の槍はゼノスを討ち滅ぼす物なり、風の翼なくして槍は目覚めぬ。試練を課す！」
雷槍から放たれた雷撃がストームライダーを直撃した。装甲が黒く焦げ、コックピット内で火花がチカチカと散る。警告音が鳴り響き、タクミは歯を食いしばる。「くそっ…耐えろ！」
スラスターが唸りを上げ、熱風が床に焦げ跡を刻む。雷撃を正面から受け止め、タクミは機体を立て直すが、装甲にひびが入り、金属が軋む音が響いた。セリカが短剣を構え、「タクミ、無理はダメだ！」と叫ぶ。バルドが剣を握り、「凌げ！」と声を張り、カザンが熔雷槌を地面に叩きつける。だが、雷撃は容赦なく続き、ストームライダーが膝をつきそうなほど揺れる。
その時、リアが一歩前に進み出る。上級魔導書を手に、エーテル・ノヴァを掲げた。雷光の中で髪が乱れ、彼女はタクミを見つめて呟く。「タクミが危ない…私が守りたい！ トーラスの力を私が従えれば、タクミを救える！」
リアの瞳に涙が滲み、彼女は雷撃の中で一歩踏み出す。魔導書が風に煽られるようにページをめくり、足元に魔法陣が輝き始めた。「私が試練を受けるよ！ 仲間を守る気持ちなら、私にある！」
彼女の声がホールに響き、力強く詠唱が始まる。「我が魂の雷鳴の下、共に調和の力を守る運命を結べ——トーラス・ストライカー！」
魔法陣が一気に広がり、雷光がリアを中心に渦を巻く。トーラスの幻が彼女を見つめ、雷槍を下ろした。「汝、強大な力に立ち向かい、仲間を守る覚悟を示した。この試練は心の力を試すものなり。我が力を認めん。」
雷光が収束し、トーラスの幻がリアの前に跪く。彼女の手から放たれた魔力がトーラスと繋がり、契約の光がホールを照らした。雷鳴が轟き、風が巻き起こる中、トーラスの幻が消え、リアの魔導書に雷の紋章が刻まれる。
リアが息を整え、タクミを見つめる。涙が頬を伝い、笑みが溢れた。「タクミ…私、雷神トーラスと契約した。タクミを守りたい一心で咄嗟に契約の誓詞を唱えちゃった！」
タクミはコックピットで拳を握り、笑みを返す。「すげえよ、リア。お前のおかげで道が見えた。雷神の槍が風の神殿と繋がってるなら、そこに行くしかねえ。」
セシルが杖を握り締め、呟く。「私のエアリス・ガーディアン…風の翼ってそれと関係してるのかも。タクミ、私も行くよ。」
ゼノスの足音がさらに近づき、ホールが揺れる。ガイストが緊迫した声で警告する。「距離50メートル、急速接近中！」
タクミは仲間たちを見回す。バルドが剣を握り直し、静かに頷く。カザンが熔雷槌を担ぎ、鼻を鳴らす。セリカが短剣を構え、タクミに決意の瞳を向ける。リアが魔導書を手に、涙を拭って微笑む。セシルが杖を掲げ、風を纏う。
「ゼノスが来る前に雷神の槍の真実を掴む。風の神殿へ向かうぞ。エアリスの調和を取り戻す！」タクミの声がホールに響き、雷の魔脈が奔る中、一行は新たな決意を胸に雷の神殿を抜け、次の試練へと進む準備を始めた——。
