第84話:雷光の赦しと新たな誓い
雷の神殿の狭い回廊は、テンペスタ改との戦いで荒れ果てていた。壁に刻まれた雷神トーラスの彫刻はひび割れ、崩れた破片が床に散らばり、雷の魔脈がバチバチと火花を散らす。空気は湿気を帯び、硫黄と焦げた金属の匂いが鼻を刺す。ゼノスの足音——ドォン、ドォン——が背後から迫り、回廊の石壁を震わせ、緊張感が張り詰めていた。セリカは貴族の魔導兵に鎖で縛られ、雷光が奔る壁際に引きずられていた。彼女の告白——「雷の記録者」として一族の歴史を守るため、貴族に情報を流していた過去——がタクミたちの心を切り裂いていた。
テンペスタ改の残骸が床に散らばる中、貴族兵がセリカの鎖を締め上げ、「黙れ、スパイ! お前の一族なんて塵だ!」と嘲笑う。鎖が軋み、セリカのうめき声が雷鳴に混じる。彼女は膝をつきながらも、瞳に微かな光を宿していた。
「タクミ…私を見捨てていい…!」セリカが叫ぶが、声は雷の唸りにかき消されそうになる。タクミはコックピットで操縦桿を握り締め、歯を食いしばった。「セリカの過去…裏切りの理由がそれか…!」
「バルド、フォロー頼む!」タクミが声を張り上げると、バルドが嵐の双剣を手に進み出る。「シンダーリーヴスの名にかけて!」
風と雷が渦巻き、貴族兵の一人に斬りかかる。刃が魔術の鎖を擦り、火花が散った。兵がよろめくが、別の兵が雷槍を振り上げ、電流がバルドを襲う。雷霆の鎧が焦げ、彼が「まだ終わらねえ…!」と剣を支えに息を整える。
リアが上級魔導書を手に、エーテル・ノヴァを掲げる。彼女の瞳に決意が宿り、深呼吸とともに詠唱が響く。「炎の主よ、我が魂に宿り、雷の咆哮を焼き尽くせ——インフェルノ・ラグナロク!」
魔法陣が回廊に広がり、灼熱の炎が渦を巻いて貴族兵とテンペスタ改の残骸を包む。熱風が吹き荒れ、焦げた鱗の臭いが漂う。タクミはその隙を逃さない。「ストームライダー、全開だ!」
スラスターが轟音を上げ、熱風が回廊を揺らし、床に焦げ跡を刻む。ストームライダーが雷光を切り裂き、瞬時にセリカの前に着地した。
タクミは魔鋼剣を振り下ろし、セリカの鎖を一閃で断つ。ガキン!という金属の割れる音が響き、衝撃波が貴族兵を吹き飛ばす。彼らが悲鳴を上げて壁に叩きつけられ、鎖の破片が床に飛び散った。「立て、セリカ!」
解放されたセリカは膝をついたまま、雷光の熱気に耐えながら顔を上げる。涙が頬を伝い、声が震えた。「何で…私が裏切ったのに…! 私のせいで貴族に動きを読まれて、みんながこんな目に…!」
タクミはコックピットから降り、ストームライダーの影の中でセリカの前に立つ。雷の魔脈が背後で奔る中、彼は静かに言った。「お前がスパイだったのは許せねえ。怒りで拳が震えた。でも、お前が一族の歴史を守ろうとした想いを見て、俺の心が変わった。一緒に戦った時間は短くても、お前は仲間だった。それが俺の答えだ。」
バルドが剣を下ろし、肩の傷を押さえながら呟く。「恨みは消えねえ。だが、見捨てるのは俺の流儀じゃねえ。」
リアが魔導書を抱き締め、涙をこらえて言う。「セリカ、私たちを信じて。一緒に笑ったあの時間が、私には宝物なんだ。」
カザンが熔雷槌を担ぎ、「仲間なら助ける。過去なんざ関係ねえ。熔鉄団の鉄はそうやって鍛えられる」と低く唸る。
仲間たちの言葉がセリカの胸に刺さる。彼女は涙を拭わず、床に手を突いて立ち上がった。「私…貴族に情報を流して、自分を騙してた。一族の石碑を守れるなんて、ただの幻想だった。でも、タクミたちの戦う姿を見て、初めて気づいた。貴族は神殿を壊して、次元を歪める気だ。私、それを止めたい…!」
タクミはセリカの言葉を聞き、ストームライダーの影から一歩踏み出す。雷光が彼の顔を照らし、汗と煤にまみれた手でセリカの肩を掴んだ。「おう!これからもお前は仲間だ!一緒に止めるか?」と力強く言い放つ。 その瞳に迷いはなく、セリカを真っ直ぐ見据える。
猫耳が震え、彼女はタクミを見つめる。「こんな私を何で…?」
タクミが手を差し伸べ、「お前が今、ここで立ち上がったからだ。過去は変えられねえ。でも、今の気持ちで仲間になれる」と答えた。
セリカは涙を流しながらタクミの手を取る。雷光が彼女の顔を照らし、涙が床に落ちるたび、小さな光が反射した。「ありがとう…もう裏切らない。タクミたちに命をかけて誓う。一族の歴史と神殿の真実を、私が守る!」
その瞬間、ゼノスの足音がさらに近づき、ドォン、ドォンという振動が回廊を揺らす。ガイストが警告する。「距離60メートル、急速接近中!」
タクミはセリカを支え、仲間たちを見回す。バルドが剣を握り直し、静かに頷く。リアが魔導書を構え、涙を拭って微笑む。カザンが熔雷槌を担ぎ直し、鼻を鳴らす。セリカが短剣を拾い、決意の瞳でタクミに寄り添った。
「ゼノスが来る前に神殿を抜ける。お前たちの力を貸してくれ!」タクミの声が回廊に響き、雷の魔脈が奔る中、一行は新たに結ばれた絆を胸に最深部へと進んだ——。




