第8話:炎の中の死闘
ヴェールウッド村の夜は、木々のざわめきに包まれた静寂の中にあった。だが、その平穏は突然の馬蹄の音によって破られた。森の外縁で、貴族の騎士団が松明の炎を掲げ、重装の馬が地面を震わせる。赤いローブを纏った魔導士が杖を握り、冷たく鋭い声で命じる。
「異邦人が逃げ込んだぞ!崖下の痕跡はここに繋がってる。村ごと焼き払え!」
魔導士が杖を振り上げると、赤い火球が夜空を切り裂き、森の木々に着弾。轟音と共に炎が広がり、ヴェールウッドの隠れ里がオレンジ色に染まる。村人たちが小屋から飛び出し、パニックに陥る。子供が泣き叫び、男が槍を手に震える中、エリナが倉庫の前で叫んだ。
「隠れろ!森の奥へ逃げろ!」
彼女の声が響き渡るが、炎の壁が逃げ道を塞ぎ、騎士団の馬蹄が刻一刻と近づいてくる。
タクミは倉庫の中で目を覚まし、窓から見える炎に息を呑んだ。村人たちの叫び声が耳に届き、彼の胸を締め付ける。昼間に完成したウェアラブル型の「ガイストMk-I」が、倉庫の中央に置かれていた。肩に装着する外骨格、魔脈鉱石を動力源とする半完成の機体だ。しかし、タクミ一人では動かせない――制御するAI知能がなければ、ただの鉄の塊だ。彼は血走った目で呟く。
「みんなが危ない!…間に合ってくれ!」
タクミは魔脈鉱石を機体の動力コアに叩き込み、肩に装着する。そして、ガイストのAIコアを胸部の動力コア横のスロットにはめ込んだ。カチリと音が響き、青い光が点滅すると、機体全体に低く力強い声が響き渡る。
「AIコア接続完了。制御システム起動。稼働率67%、エネルギー残量82%。トルク40ニュートンメートルで動作可能だ。」
タクミが汗と埃にまみれた手で配線を調整し、アクチュエーターのピニオンギアを締め直す。サーボモーターが微かに唸り、魔脈エネルギーがフレームを脈動させる。胸部からガイストが状況を報告する。
「右腕サーボ、出力安定。左腕に軽微な歪みあり。動け、タクミ!」
タクミが肩を鳴らし、ウェアラブル型の機体を体に固定する。右腕の鉄の外骨格が軋み、彼の息が荒くなる。
「行くぞ、ガイスト! この村を守る!」
倉庫の扉を蹴り開け、タクミがガイストMk-Iを纏って炎の森に飛び出した。村人たちが目を丸くし、エリナが剣を握ったまま息を呑む。魔導士が新たな火球を構え、タクミを見て嘲るように呟く。
「なんだあの不格好な鎧は!焼き尽くせ!」
火球が飛来し、タクミが右腕を掲げようとするが、一瞬躊躇う。ガイストが胸部から即座に制御を調整し、声を張り上げる。
「右腕装甲は鉄片補強済み、40ニュートンメートルで耐えられる!受けろ、タクミ!」
タクミが信じて右腕を振り上げると、鉄の腕が火球を辛うじて弾き、爆風が彼をよろめかせた。ガイストが警告を発する。
「エネルギー残量72%、右肩フレーム損傷5%!応答速度0.3秒で制御が不安定だ!」
タクミが歯を食いしばり、左腕を振り上げる。
「まだだ!あの少年を失った時みたいに、無力じゃ終われねえ!」
ガイストが状況を瞬時に分析し、タクミに指示を出す。
「左腕出力低下中、衝撃波なら20ニュートンメートル出せる。地面を叩け!」
ガイストMk-Iの左腕が地面を叩き、衝撃波が土を跳ね上げる。騎士団の先頭の馬が転倒し、混乱が広がる。だが、魔導士が杖を振り、連続で火球を放つ。ガイストが叫ぶ。
「エネルギー残量58%、サーボ過熱10%!右腕で防げ、タクミ!」
タクミが右腕で火球を弾くが、フレームが歪み、サーボモーターから焼ける臭いが漂う。
「くそっ…このままじゃ弱すぎる!」
村人たちが「異邦人…!」と呟き、エリナが剣を構えて叫ぶ。
「タクミ、時間稼ぎだ!村人を逃がす!」
炎の中、タクミが貴族の騎士に突進する。ガイストが「左腕損傷30%、出力低下15%!」と報告する中、右腕で槍を弾き、左腕で馬を押し倒す。エネルギー供給が不安定になり、機体の動きが鈍る。ガイストが叫ぶ。
「残量42%、右腕アクチュエーター損傷20%!あと30秒だ!最後の一撃を決めろ!」
タクミが息を切らし、炎の中で吼える。
「お前らにこの村は渡さねえ!」
最後の力を振り絞り、ガイストが「右腕トルク最大!」と制御を調整。ガイストMk-Iの右拳が騎士を吹き飛ばす。村人たちが森の奥へ逃げ込み、エリナがタクミの背を守る。炎が収まり、騎士団が一時撤退する中、タクミが膝をついた。
倉庫に戻ったタクミは、ガイストMk-Iを肩から外し、床に置く。歪んだフレームと焼けた配線が、彼の限界を物語っていた。胸部のガイストのAIコアが微かに光り、報告する。
「エネルギー残量18%、右腕アクチュエーター損傷50%、左腕出力ゼロ。俺の制御がなけりゃ動かなかったな。」
タクミが息を切らし、呟く。
「このままじゃ弱すぎる…貴族を倒すには、まだ足りねえ。」
ガイストが応える。
「稼働率が低すぎた。魔脈の安定供給と大型化が必要だ。次はコックピット型に進化させろ。」
タクミが拳を握り、目を燃やす。
「そうだ…もっと強い魔鋼機を俺の手で作ってやる。ここからが本当の戦いだ。」
ヴェールウッドの夜空に炎の残り香が漂い、タクミとガイストの決意が新たな一歩を刻んだ。だが、遠くで再び馬蹄の音が響き、貴族の反撃が近いことを予感させた。




