第69話:水の神殿とエアリスの歴史
タクミ一行はセリカの情報をもとに、テンペスト大陸の港町「ストームヘイヴン」に到着していた。灰色の空の下、海風が唸りを上げ、波が岩壁に打ちつけるこの町は、貴族に焼かれた過去を残しつつも活気に満ちている。港の錆びた鉄骨の桟橋では船乗りたちが魚の塩漬けや網を運び、市場では潮の匂いと商人たちの叫び声が混じり合う。街の中心には巨大な鍛冶場がそびえ、かつて熔鉄団がこの町の依頼により総がかりで作り上げた「世界最高の炉」から赤い火花が飛び散り、煤けた煙が空に昇っていた。
タクミがストームライダーを降り、鍛冶場の熱気を感じながら仲間たちに声をかける。
「この炉、すげえな。焔嵐大陸のアジトの炉じゃ火力が足りない時、カザンたちがここまで来るって話も分かるぜ。」
カザンが炉のそばに立ち、熔雷槌を軽く振り回して笑う。
「熔鉄団がこの町の連中に頼まれて作った炉だ。世界最高の火力で、魔獣だろうが貴族だろうが溶かせる装備が生まれるぜ。」
ガイストの声がコックピットから響く。
「魔脈エネルギー残量75%、ドリルアーム稼働率84%。水の魔脈を融合させれば、出力が上がるぞ、タクミ。」
タクミが頷き、熔鉄団の鍛冶師たちと作業を始める。
「よし、カザン、手伝え。ガイスト、魔脈の調整頼むぞ。」
水の神殿に向かう前にストームライダーの点検と調整をしておこうという考えだ。
鍛冶場では、熔鉄団の職人たちが炉に薪をくべ、熔嵐合金が赤く熱せられる。カザンが地元の鍛冶師に軽く挨拶を交わしつつ言う。
「この炉、俺たちが焔嵐大陸から出張ってきて作った時、火力に驚いたもんだ。アジトじゃ加工しきれねえ魔鋼も、ここなら楽勝で加工できる。」
タクミが水の魔脈結晶を炉に投じると、金属が冷たく青白く輝き、ストームライダーの魔鋼剣の刃先が鋭さを増す。ハンマーの音と火花が響き合い、カザンが満足げに笑う。
「これなら貴族の魔獣も一撃だな!」
タクミが汗を拭いながら応じる。
「そうだな。次の戦いが楽しみになってきたぜ。」
バルドが鍛冶場の外で立ち止まり、遠くの丘に目をやる。
「このテンペスト大陸…俺の故郷、シンダーリーヴスが近い。あの村も貴族に焼かれたが、ストームヘイヴンみたいに今もまだ生き残ってる。」
タクミがバルドの横に立ち、静かに言う。
「シンダーリーヴスか…貴族の罪を終わらせて、故郷に本当の平和を取り戻そうぜ。」
鍛冶場での調整を終えた一行は、セリカに導かれて港の地下へ向かう。市場の裏手にある古びた石段を降りると、湿った空気と水の流れる音が響き、水の神殿の入り口が姿を現す。青い魔脈が石壁を這い、薄れた壁画には「水神アクエリア」が描かれている。波を鎮める神官と船を守る光景が、エアリスの栄光を静かに物語っていた。
ジンが壁画の前で竪琴を軽く爪弾きながら仲間たちに語りかける。
「1100年前、この神殿が海を鎮めてたんだ。エアリス文明の交易を支えた水の柱さ。貴族が略奪しなけりゃ、嵐だってこんなに荒れなかった。」
セシルが壁画に目をやり、少し声を震わせる。
「こんな美しい場所まで壊すなんて…貴族の罪って、どこまで深いんだろうね。」
タクミがセシルの肩に目をやり、力強く言う。
「だから俺たちが取り戻すんだ。エアリスの調和を、今の仲間たちのためにさ。」
リアが明るく笑いながら仲間を見回す。
「水の遺物があれば、私たちの力ももっと強くなるよね。一緒に頑張ろうよ!」
カザンが熔雷槌を肩に担ぎ直し、豪快に笑う。
「この炉で鍛えた力だ。貴族の魔獣だろうが、ぶち抜いてやるぜ!」
セリカが神殿の奥を指さし、軽く跳ねるように言う。
「遺物は奥にあるよ。貴族の秘密も見つかるかもしれないから、気をつけてね。」
その時、セリカが一行から少し離れ、港の桟橋の影に消える。黒ローブの男が待っていて、彼女が小声で報告する。
「タクミたちは神殿に潜った。水の遺物を狙ってるよ。」
男が金貨の袋を渡し、低く返す。
「ゼノスが動くまで続けろ。」
セリカが金貨を受け取り、一瞬目を伏せるが、何も言わず立ち去る。
タクミがストームライダーのレバーを握り、ガイストに確認する。
「調整の結果はどうだ?」
ガイストが冷静に答える。
「水の魔脈融合によりエネルギー効率2%向上。魔鋼剣の切れ味も強化済み。準備は整った、タクミ。」
タクミが仲間を見回し、力強く言う。
「風の神殿に続いて、次は水だ。エアリスの遺産で貴族を倒す。行くぞ!」
一行が神殿の奥へ進むと、水の魔脈が静かに流れ、青い光が石壁を照らす。バルドがシンダーリーヴスを思い出しながら一瞬立ち止まるが、タクミが軽く肩を叩いて促す。ストームヘイヴンの地下で、水の神殿の試練が待っていた。貴族の罪を裁き、故郷の平和を取り戻す戦いが、新たな一歩を踏み出していた。




