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第68話:嵐の大陸への旅立ち

砂の大陸での激戦を制したタクミ一行は、ダストホロウへと帰還していた。まずは大衆浴場へ向かい、戦いの汗と砂塵を洗い流す。砂岩造りの浴場は湯気で霞み、中央に厚い石の仕切りが男湯と女湯を分けている。仕切りの上部にはエアリス文明の風神像が彫られ、湯煙越しに静かに一行を見下ろしていた。


男湯では、カザンが熱い湯船にどっぷり浸かり、熔雷槌を手に持つふりをして豪快に叫ぶ。

「熔鉄団の鉄は熱いぜ!この湯だって俺が沸かしたようなもんだ!」

タクミが湯船の縁に肘をつき、苦笑しながら返す。

「お前、それ何度目だよ?浴場まで戦場にすんなって。」

バルドが湯の中で目を閉じて静かに言う。

「騒がしいが…この熱さは悪くない。戦いの前には必要だ。」

ジンが湯面を叩いて笑う。

「エアリスの歴史にも大衆浴場は出てくるよ。風神の息吹で湯を温めたってさ。浪漫だねえ。」

カザンが湯をかき回し、タクミに絡む。

「浪漫より実用性だろ、タクミ。湯上がりの酒が待ってるぜ!」

タクミが湯から上がって体を拭きながら応じる。

「それは同意だ。砂狼亭の一杯が楽しみすぎるな。」


女湯では、リアが湯船に浸かり、顔を赤らめる。

「男湯、うるさいね…カザンってほんと声大きいんだから。」

セシルが珍しく柔らかい声で言う。

「でも、この熱さ…悪くないよ。影脈会じゃ冷たい川で体を洗うのが精一杯だったから。」

セリカが猫耳をピンと立て、湯をかぶりながら軽やかに笑う。

「リア、顔赤いよ。湯に弱いの?それともカザンの声にびっくりしただけ?」

リアが湯をバシャバシャとかけて反撃する。

「セリカだって耳ピクピクしてるじゃん!情報屋の癖にお風呂で油断しすぎ!」

セシルが小さく笑い、二人を眺める。

「二人とも楽しそうでいいね。私もこのお風呂、気に入ったよ。」


湯上がりの一行は酒場「砂狼亭」に繰り出した。冷えた麦酒の泡が火照った体に染み渡り、テーブルには香ばしい獣肉の串焼き、スパイスが効いた豆の煮込み、焼きたての平パンにオリーブ油が絡んだ一皿が並ぶ。客たちが杯を掲げて歌い、酔っ払いがテーブルを叩く喧騒が響き渡る。


セリカが軽やかな足取りで近づき、猫耳を揺らして笑う。

「やっと会えた。このあいだ言った通り、ダストホロウで情報が待ってたよ。ほら、これ。」

差し出したのは砂塵にまみれた革の手帳。タクミが受け取り開くと、貴族の暗号文と地図が記されていた。

「昨夜、酒場の裏で密偵から奪ってきた。嵐の大陸の水の神殿…貴族の秘密が眠ってるってさ。」

バルドが「嵐の双剣」を手に持ち、セリカに冷たく刃先を突きつける。

「お前、急に現れて俺たちに情報を流す理由はなんだ?何か企んでるだろ。」

空気が張り詰め、タクミがバルドの肩に手を置いて制する。

「落ち着け、バルド。セリカが敵なら、とっくに仕掛けてる。」

セリカが目を細めて笑い、剣先を指で押しのける。

「疑うのも無理ないよね。情報屋なんて信用されない商売だし。でも、私には私の理由がある。それが何かは…まあ、いつか分かるよ。」

バルドが低く唸りながら剣を収める。

「なら行動で証明しろ。貴族の首を斬るまで見張ってる。」

タクミが小さく笑い、セリカに言う。

「お前が仲間なら、それでいい。次の神殿、頼むぜ。」


カザンが串焼きを豪快にかじり、麦酒を一気に飲み干す。

「情報もいいが、この肉と酒だぜ!貴族なんざ忘れて、今日は騒ぐしかねえ!」

リアが木杯を手に持つが、少しこぼして慌てる。

「カザン、男湯で叫んでたの聞こえたよ!でも、この豆の煮込み美味いなぁ…。」

セシルが笑みを浮かべ、豆の煮込みを掬う。

「本当に美味しい。この味、影脈会じゃ夢にも思わなかった。」

リアが目を輝かせてセシルに絡む。

「セシル、ほんと珍しい!豆で笑うなんて、もっと見たいよ!」

タクミが麦酒を飲み干し、テーブルを叩いて笑う。

「お前ら、戦いのこと忘れて楽しみすぎだろ!でも、この騒ぎ…悪くねえな。」

酔っ払いが「砂狼亭名物、獣肉の大食い勝負だ!」と叫び、客たちが拍手と野次で盛り上がる。カザンが立ち上がり、タクミを指さす。

「タクミ!俺とお前で勝負だ!負けたら次の一杯奢りな!」

タクミがニヤリと笑い、串焼きを手に持つ。

「熔鉄団のリーダーに勝てるか分からねえけど、やってやるよ!」

セリカが平パンをちぎって口に放り込む。

「私は審判ね。どっちが勝っても、私にも1杯奢りなよ!」

バルドが麦酒を傾け、口角を上げる。

「なら俺は見物だ。勝負の後に残りを貰う。」


その夜、セリカは酒場の裏路地に姿を消す。暗がりで黒ローブの男と接触し、小声で囁く。

「タクミたちは水の神殿へ向かう。ゼノスへの動きも早まるよ。」

男が低い声で応じ、金貨の袋を渡す。

「続けろ。貴族に忠誠を忘れるな。」

セリカが金貨を手に目を伏せるが、何も言わず闇に溶ける。


宿屋の自室に戻ったタクミは窓辺に立ち、砂嵐が唸る夜空を見上げる。ストームライダーのコックピットからガイストの声が響く。

「タクミ、魔脈エネルギー残量75%。次の戦いに備えろ。」

タクミが窓枠に手を置き、元の世界のことを思い出す。

「なぁ、ガイスト。元の世界のこと、時々思い出すよ。ロボットいじって、同僚と飯食って…平和だった。」

ガイストが少し間を置いて、柔らかい口調で返す。

「感情の変動を検知。…私には同僚の概念はないが、タクミにとってのそれは大事な記憶なんだな。」

タクミが小さく笑い、首を振る。

「大事だったよ。でも、今は違う。あの酒場で騒ぐ仲間たち…あいつらが俺の仲間だ。未来を懸けて戦う。それで十分だろ?」

ガイストが静かに応じる。

「理解した。なら、私もその未来の一部だな。エネルギー残量は気にせず、仲間と共に戦え。」

タクミが拳を握り、窓の外を見据える。

「ああ、お前もだよ、ガイスト。俺の相棒なんだからな。」


翌朝、タクミ一行は嵐の大陸へ旅立つ。ストームライダーが砂漠を飛び越え、海の風が吹き荒れる港町「嵐の港」に降り立つ。波が岩壁に打ちつけ、塩の匂いが漂う中、バルドが港の焼け跡を見つめ、目を伏せる。

「ここが俺の故郷だ…貴族に焼かれた。家族も、全部…。」

ジンが竪琴を弾き、低く歌う。

「1100年前、水の神殿がこの海を守った。貴族が略奪し、嵐が荒れ狂うようになった。エアリスの調和はここでも失われたんだ。」

タクミがバルドの肩に手を置き、力強く言う。

「なら水の神殿を探す。貴族の罪を終わらせてやるぜ。」

リアがエーテル・ノヴァを握り、バルドに笑いかける。

「バルドの家族…私たちで守るよ。一緒にね。」

カザンが熔雷槌を手に、歯を剥いて笑う。

「熔鉄団の鉄で港を護るぜ。貴族が来てもぶち抜いてやる!」

セリカが港の地下を指さし、軽やかに言う。

「神殿は港の地下だよ。私が導くから、準備してね。」

ガイストがコックピットから補足する。

「魔脈反応を追跡中。次の戦いに備えろ、タクミ。」

タクミがストームライダーのレバーを握り、仲間を見回す。

「風の神殿を手にしたら、次は水だ。エアリスの遺産でゼノスを倒す。行くぞ!」

嵐の港の風が吹き荒れ、タクミ一行の新たな旅が幕を開けた。



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