第45話:魔法の極みと剣の絆
鉄都ガルザードの城壁前、戦場は魔獣の咆哮に飲み込まれていた。ヴォルガノスの溶岩が大地を焦がし、赤黒い熱が空気を歪ませる。テンペスタの嵐のような翼が風を切り、鋭い爪が朝霧を血に染める。硝煙と焦げた臭いが鼻を刺し、耳を劈く咆哮が骨まで響く。ストームライダーのエンジンが唸りを上げ、タクミがコックピットで汗に濡れた手をレバーに叩きつけ、魔獣の群れを睨む。だが、魔獣の数は増え続け、包囲網がじりじりと狭まる。
その中心で、リアが倒れたレオンを抱きかかえ、風魔コアを握り潰す。涙が熱く頬を伝い、彼女の瞳に決意が燃える。叫びが戦場を切り裂く。
「兄ちゃんを守る!」
立ち上がり、コアを高く掲げる。彼女の心が魔法と共鳴し、これまで暴走を恐れていた力が、初めて制御された形で解き放たれる。
「燃え盛る深淵よ、紅蓮を呼び起こせ——フレア・テンペスト!」
リアの声が風を震わせ、彼女の足元に炎の魔法陣が広がる。赤い紋様が地面を焼き、風魔コアから渦巻く紅蓮が魔獣の群れに襲いかかる。熱波が頬を焦がし、ヴォルガノスの鱗が焼け焦げ、テンペスタの翼が燃え上がる。焦げた臭いが戦場を包み、魔獣の悲鳴が空を裂く。
「凍てつく虚空よ、嵐を解き放て——アイシクル・ストーム!」
次の瞬間、リアの周囲に青白い魔法陣が浮かび上がり、冷気が風と混ざる。空から氷柱の嵐が轟音と共に降り注ぎ、鋭い刃が魔獣を貫く。冷たい風が頬を叩き、ヴォルガノスの溶岩が凍りつき、カチカチと砕ける音が響く。テンペスタが氷に閉ざされ、地に落ちる。
「雷鳴の裁きよ、大地を穿て——サンダー・ウェーブ!」
リアの声が天を震わせ、黄金の魔法陣が彼女の頭上に展開。青白い電撃が雷鳴と共に迸り、魔獣を麻痺させる。痙攣する巨体が大地を震わせ、一瞬の静寂が戦場を包む。
リアが息を整え、タクミに目を向ける。魔法を完全に制御した瞬間だ。彼女が叫ぶ。
「タクミ、魔鋼剣に全属性を付与するよ!」
タクミがニヤリと笑い、ストームライダーのブレードを構える。
「ガイスト、準備しろ! リアの魔法で魔鋼剣をぶち上げるぜ!」
ガイストの冷静な声が響く。
「了解、タクミ。魔鋼剣の魔脈回路を全開放。リアの力を待つ。」
リアが魔導書を両手で掲げ、全属性の上級魔法を詠唱する。
「全精霊よ、我が声に応え、絆を束ねよ——オール・エレメント・ユニゾン!」
彼女の周囲に巨大な魔法陣が広がり、炎、氷、雷、風、地、光が渦を巻く。赤い炎がうねり、青い氷が輝き、黄金の雷が迸り、緑の風が舞い、茶色の土が隆起し、白い光が天を貫く。その力が魔鋼剣に流れ込み、剣が眩しく輝く。タクミがストームライダーを急降下させ、魔獣の群れを統べるボス——熔岩魔帝ヴォルガノス・レックスに突っ込む。
「くらえ——トリニティ・ヴォルテクス!」
魔鋼剣が唸りを上げ、炎と氷と雷が渦を巻く一撃がヴォルガノス・レックスの巨体を切り裂く。溶岩を纏った鱗が焼き尽くされ、凍りつき、電撃が中枢を貫く。魔帝が断末魔の咆哮を上げ、大地が震え、熱と冷気が戦場に渦を巻く。巨体が砕け散り、溶岩と血が大地に染みる。
その時、バルドが「デュアル・ヴォルティス」を手に、テンペスタの群れに飛び込む。雷を纏った双剣が風を切り、戦場の喧騒の中で閃きが走る。倒れた熔鉄団の戦士の槍が視界に映り、仲間の血が彼の冷たい決意を燃やす。
「雷鳴斬じゃ足りねえ…こうだ!」
双剣を交差させ、雷が嵐のように渦を巻く。
「雷嵐双刃——サンダーストーム・スラッシュ!」
剣がテンペスタの尾を両断し、血飛沫がバルドの顔を濡らす。魔獣が墜ち、風がその死にざまを運ぶ。バルドが吼える。
「俺の剣は仲間のためだ! お前らに屈しねえ!」
地上では、カザンが熔鉄団の戦士たちを率い、最後の反撃を叩き込む。
「熔鉄団、行くぜ! 魔脈水をぶちかませ!」
戦士たちが魔脈水の入った容器を魔獣に投げつけ、カザンが熔雷槌を振り下ろす。雷撃が魔脈水に反応し、大爆発が戦場を包む。青い炎が広がり、残る魔獣が一掃される。爆風が土煙を巻き上げ、熱と硝煙が鼻を刺す。カザンが豪快に笑う。
「これが熔鉄団の力だ! 貴族の犬ども、終わりだぜ!」
戦場の喧騒が収まり、土煙の中でリアがレオンのそばに膝をつく。レオンが微かに目を開け、妹を見つめる。
「リア…強くなったな…。」
唇がわずかに微笑み、声は弱々しい。禁忌魔法の代償が彼の体を蝕み、息が浅くなる。リアが涙をこぼし、レオンの手を握る。
「兄ちゃん、死なないで! 私、強くなったよ。一緒に帰ろうって言ったよね!」
風魔コアを握り、回復魔法を詠唱する。
「癒しの聖域よ、命を灯せ——ヒール・ルミナス!」
彼女の足元に白い魔法陣が広がり、淡い光がレオンを包む。傷がわずかに癒え、光が彼の顔を照らす。リアが泣きながら続ける。
「兄ちゃん、私には兄ちゃんが必要なんだよ! 目を閉じないで、お願い…!」
レオンの手が微かに動き、リアの手を握り返す。その温もりに、彼女の涙が止まらない。
タクミがストームライダーを着地させ、コックピットから飛び降りる。
「レオン、まだ終わってねえぞ。貴族を潰すなら、生きて見届けろ!」
ガイストが冷静に補足する。
「レオンの状態は深刻だが、リアの回復魔法で崩壊が遅れている。治療すれば生きられる。」
レオンがリアを見つめ、掠れた声で呟く。
「お前が生きてて…俺は…。」
その言葉を最後に意識が途切れ、彼が倒れる。リアが泣き叫び、レオンを抱きしめたまま魔法を続ける。
「ヒール・ルミナス!ヒール・ルミナス!!兄ちゃん! 起きて、私と一緒に…!」
タクミがリアの肩に手を置き、熱く言う。
「レオンは死なねえよ。ガイストが言うなら間違いねえ。お前が強くなったからだ、リア。」
バルドとカザンが近づき、戦場を見渡す。バルドが双剣を鞘に収め、低く呟く。
「仲間のために戦った。お前らのおかげでなんとか戦えた。」
カザンが熔雷槌を肩に担ぎ、豪快に笑う。
「熔鉄団は負けねえぜ。貴族の城、次の標的だ!」
戦場に静けさが戻り、リアはレオンを抱きしめたまま涙を流す。タクミがストームライダーに戻り、ガイストに話しかける。
「相棒、次の準備だ。貴族を潰して、レオンを救うぜ。」
「同意する、タクミ。戦いはまだ終わっていない。リアの成長と我々の力があれば、勝利は確実だ。」
遠く、崩れかけた城壁から貴族の叫びが響く。タクミたちの戦いは、新たな局面へ突き進む。風がレオンの髪を揺らし、リアの涙が大地に染みていた。




