第42話:出陣の焔と兄の記憶
焔嵐大陸の朝焼けが熔鉄団の工房を赤く染め、朝霧が大地に薄く漂う。空気が冷たく湿り、馬の息が白く立ち上る中、タクミ、リア、バルド、カザン、そして熔鉄団の精鋭10人が貴族の鉄都ガルザードへ向けて出陣の準備を整える。タクミがストームライダーのコックピットに飛び乗り、エンジンを起動させると、低く唸る機体の振動が朝霧を震わせる。金属と魔脈エネルギーの焦げた匂いが鼻を刺し、青白い光が翼から迸る。地上では、馬車に乗り込んだリアが風魔コアを手に握り締め、瞳に燃える決意と兄レオンへの想いを宿す。
「兄ちゃんを救う…!」
その呟きは小さく、馬車の軋む音にかき消されそうだが、彼女の胸には森での再会が熱く疼いていた。
一行が動き出す。ストームライダーが空を切り裂き、朝焼けに青い軌跡を刻む。馬車を先導する熔鉄団の戦士たちが槍を手に大地を踏み鳴らし、土埃が朝霧に混じる。馬車の中で、リアがエリナから届いた手紙を握り潰すほど強く持つ。粗い紙に綴られた反乱軍のリーダーらしい筆跡が、レオンの過去を冷たく暴く。
「レオンは貴族に村を焼かれ、妹を失ったと思い禁忌に染まり、復讐に走った。彼は影脈会に身を寄せ、貴族を潰すためなら全てを捨てる覚悟だ。リアを頼む。」
手紙を読み終えたリアの目から涙が一滴こぼれ、紙に染みる。彼女が風魔コアを握り締め、掠れた声で呟く。
「私、生きてたのに…兄ちゃんに会えなかったなんて…でも今は知ってる。私が生きてるって、兄ちゃんも分かってる…!」
森での再会——レオンの仮面が外れ、驚きと苦しみが溢れた瞬間が脳裏に焼き付く。
馬車が揺れる中、タクミの声が通信機越しに響く。
「リア、聞こえるか? お前がレオンを連れ戻す。俺とガイストがバックアップするぞ。」
その力強い言葉に、リアが涙を拭い、通信機に頷く。
「うん、タクミ。私、頑張る。兄ちゃんを…家族を、取り戻すよ!」
その声に、レオンとの戦いを経た決意が宿る。
馬車の中でカザンが熔雷槌を膝に置き、リアに目をやる。
「おい、リア。お前の兄貴、禁忌に染まったって手紙にあったな。熔鉄団の鉄で引きずり戻してやるぜ。」
その豪快な声に、リアが小さく笑う。
「カザンさん、ありがとう。でも、兄ちゃんは私が説得するよ。熔鉄団には…貴族をぶち壊すのを頼むぜ!」
カザンが笑いながら喉を鳴らす。
「お前、言うようになったな。貴族の城は俺が叩き潰す。約束だぜ!」
バルドが馬車の縁に腰掛け呟く。
「お前の兄貴がどんな道を歩もうと、俺には関係ねえ。貴族を斬る。それだけだ。」
その冷たい声に、リアが目を細める。
「バルド…ありがとう。兄ちゃんを傷つけないでね。私が連れ戻すから。」
バルドが鼻を鳴らし、
「お前がそう言うなら、剣を抑えるさ。だが、貴族には容赦しねえ。」
その言葉に、仲間への微かな温もりが滲む。
ストームライダーからガイストの声が通信機に割り込む。
「リアの魔脈、微かに揺れてる。感情が乱れてるな、タクミ。制御を頼む。」
タクミが笑いながら応じる。
「相棒、心配性だな。リア、お前なら大丈夫だろ? レオンに届ける言葉、考えておけよ。」
リアが風魔コアを握り、頷く。
「うん、タクミ。兄ちゃんに…『一緒に帰ろう』って言うよ。」
その声に、仲間への信頼が響く。
馬車の揺れがリアの視線を遠くへ飛ばす。彼女の故郷、シルヴァレーの記憶が鮮やかに蘇る——。
緑の大陸の小さな村、シルヴァレー。森と川に囲まれた静かな土地で、野花の甘い香りが風に乗り、川のせせらぎが耳を撫でる。リアとレオンは母と父と共に穏やかに暮らしていた。母は野花を摘んでリアの髪に飾り、柔らかな笑顔で囁く。
「リア、綺麗だよ。」
父は猟師として弓を手に家族を支え、夕暮れに鹿肉を焼く香ばしい匂いが家を包む。5つ年上のレオンは、いつもリアを背中に乗せて川辺を走り回った。
「リア、俺がいるから大丈夫だ。怖いことがあったら、いつでも兄ちゃんに言えよ。」
その笑い声が、リアにとって何よりも温かい盾だった。
だが、ある日、貴族の騎士団が村に現れた。馬蹄が土を叩き、鎧の軋む音が静寂を切り裂く。税を払えぬ村人への見せしめとして、略奪と破壊が始まった。父が弓を手に立ち上がり、矢を番えるが、騎士団長が冷たく嘲笑う。
「下民が貴族に歯向かうとはな。この村ごと燃やしてやる。」
父が矢を放つが、騎士の剣に斬られ、血が土に染まる。母がリアを抱き寄せ、逃げようとした瞬間、松明が投げ込まれ、家々が炎に包まれる。焦げた木と煙の匂いが鼻を刺し、母の悲鳴が耳に焼き付く。
レオンがリアの手を掴み、森へ逃げ込む。貴族の追っ手が迫り、剣の擦れる音と馬の嘶きが背後に響く。レオンは必死にリアを守り、川沿いの茂みに彼女を隠す。
「リア、ここにいろ。俺が追っ手を引きつける。絶対生きててくれ…!」
幼いリアは泣きながら頷き、レオンの背中を見送る。彼が剣を手に追っ手に向かい、叫び声を上げながら森の奥へ消える。それが、リアにとって兄との最後の記憶だった。
その後、リアは貴族の兵士に見つかり、奴隷として連れ去られた。シルヴァレーは焼け落ち、灰と焦げた匂いだけが残る。レオンがどうなったか分からず、リアは長い間、兄が死んだと思い込んでいた。だが、森での再会で、レオンが生きていること、そして貴族への復讐に燃えていることを知った。
「兄ちゃん…私、生きてたよ。ずっと会いたかった。でも今は、私が兄ちゃんを救う番だ…。」
馬車の中で、リアの涙が風魔コアに滴り落ち、微かに光が揺らぐ。
ストームライダーのコックピットで、タクミが通信機越しに仲間たちを見やる。
「ガイスト、出力全開だ。貴族の城まで一直線!」
ガイストが冷静に響く。
「了解、タクミ。風魔冷却システム、安定稼働中。リアの魔脈も準備OKだ。」
その声に、相棒への信頼が宿る。
馬車の中で、リアが風魔コアを手に立ち上がる。涙は乾き、燃えるような決意が瞳に宿る。
「兄ちゃん、私が救うよ。貴族を倒して、家族を取り戻す…!」
その声が馬車の軋む音を越え、タクミに届く。彼女の心には、レオンとの再会とシルヴァレーの炎が映り、魔脈が熱く脈打つ。
その時、遠くで鉄都ガルザードの輪郭が朝霧に浮かぶ。城の門が軋みながら開き、ヴォルガノスとテンペスタの咆哮が大地を震わせる。熔けた溶岩の匂いと風の唸りが混じり、タクミがレバーを握り直し、通信機越しに叫ぶ。
「行くぞ、みんな! 家族のために、貴族をぶっ潰す!」
ストームライダーが空を切り裂き、熔鉄団の馬車が大地を駆ける。リアの瞳に、レオンの背中とシルヴァレーの記憶が宿り、彼女の決意が焔となって貴族の城へと突き進む。戦いの風が焔嵐大陸を切り裂き、家族を取り戻す戦いが始まった。




