第39話:涙の焰と再会の鎖
焔嵐大陸の朝が熔鉄団の工房を包み、朝陽が煤けた壁に淡い光を投げる。炉の残り火が微かに唸り、熔けた鉄の匂いが冷えた空気に混じる。静寂を切り裂くように、熔鉄団の斥候が息を切らせて工房に駆け込む。汗と土埃にまみれた顔で、カザンに叫ぶ。
「森に怪しい影が動いてる! 5人だ…魔脈の気配が異常すぎる!」
その声に、緊張と焦りが滲む。
タクミが設計図を乱暴に机に置き、「マグナ・ヴェスト」を着込んで立ち上がる。金属の擦れる音が響き、彼が鋭く言う。
「貴族の動きか? ストームライダーで確かめに行く。」
コックピットに飛び乗り、レバーを握ると、ガイストが即座に反応する。
「マグナ・ヴェスト接続、魔脈エネルギー増幅130%! システムオールグリーン。森の座標、入力済みだ、タクミ。」
その合成音に、冷静な信頼が宿る。タクミがニヤリと笑う。
「さすが相棒だ。行くぜ!」
ストームライダーの翼が唸りを上げ、工房から飛び立つ。朝陽を切り裂く青白い光が森の上空へと伸びる。
森の奥、木々が朝霧に霞む中、仮面の男と影脈会の5人が姿を現す。黒いローブが風に揺れ、魔獣の骨でできた杖から微かな魔脈の唸りが漏れる。仮面の男がタクミを見上げ、低く響く声で言う。
「異邦人、タクミ…貴族を潰す力が欲しいか? その力が本物か、俺たちで試させてもらうぜ。」
その声に、不気味な誘いと冷たい挑発が混じる。ガイストが警告する。
「魔脈波動、異常検出! 異常な魔脈魔法の兆候だ、タクミ。こいつら、貴族じゃない!」
その声がコックピットに鋭く響き、タクミが機体を旋回させ、男に問う。
「お前、何者だ?」
その瞳に、警戒と動揺が宿る。
男が低く笑い、杖を振る。
「貴族の敵だ。お前と目的は同じ…だが、価値があるか見極める。」
杖の先から黒い霧が溢れ、森に幻影が広がる。タクミの目に、燃える村の炎と鎖に繋がれた人々の姿が映る。炎の熱が頬を炙り、鎖の軋む音が耳に刺さる。彼が動揺し、呟く。
「何だ…この記憶…? 知らない村だ…なのに、胸が締め付けられる…。」
その声が震え、過去の傷が疼く。
バルドが工房から駆けつけ、「デュアル・ヴォルティス」を手に突進する。刃が朝霧を切り裂き、彼が吼える。
「罠だ、タクミ! 敵か味方か分からねえ奴らに気を緩めるな!」
だが、影脈会の1人が手を振ると、紫の毒霧が森に広がる。バルドが霧に包まれ、喉を焼くような臭いに咳き込む。
「くそっ…毒か…! 息が…!」
彼が膝をつき、剣を地面に突く。タクミがストームライダーを急降下させ、叫ぶ。
「バルド、下がれ! ガイスト、毒の分析を急げ!」
ガイストが冷静に応じる。
「魔脈由来の毒霧、解毒にはリアの風が必要だ。周辺の毒霧を飛ばす必要がある! タクミ、彼女を呼べ!」
その声に、緊急性と信頼が滲む。
リアが工房から森へ走り、タクミの叫び声を聞いて試練場を抜ける。エーテル・ローブが朝風に揺れ、彼女の足音が土を叩く。影脈会の男が再び言う。
「貴族を倒すなら我々の魔脈を。異邦人、その力の価値を試す。」
その声に聞き覚えを感じ、リアが足を止める。彼女の心臓がドクンと跳ね、呟く。
「お前…誰だ…? その声…どこかで…。」
男がリアを見た瞬間、杖を持つ手が一瞬震え、仮面に手をやる。彼が仮面を外すと、そこにはリアと同じ赤い髪と瞳を持つ青年の顔。頬に涙が流れ、彼が震える声で言う。
「リア…生きてたのか?」
その声に、驚愕と愛情が滲み、過去の記憶が溢れ出す。リアの目が大きく見開き、トームが手から落ちて地面に転がる。
「兄ちゃん…? レオン…どうして!?」
その叫びが森に響き、彼女の視界が涙で歪む。
レオンが杖を握り潰し、木々が軋む音と共にリアに近づく。彼が涙を流しながら告白する。
「貴族に家族を殺され…お前を守れなかった。あの日、村が焼けた時、俺は貴族に捕まり、影脈会に拾われた。貴族の中に入り込んで奴らの隙をうかがってた。リアが死んだと思って…貴族を潰すために禁忌の魔脈に手を染めたんだ。」
その声が嗄れ、過去の苦しみが彼の瞳に宿る。燃える村の炎、母の叫び、鎖に繋がれた妹の幻影が彼の脳裏を焼く。
リアが泣き崩れ、地面に膝をつく。冷たい土が膝に刺さり、彼女が嗚咽する。
「兄ちゃん…私、ずっと一人だと思ってた…貴族に家族を奪われて…でも生きてたなんて…! どうして置いてったの!?」
その声に、孤独と再会の喜びが交錯し、涙が土を濡らす。
彼女の魔脈エネルギーが暴走し、エーテル・ローブが赤く輝く。森の空気が震え、朝霧が熱に揺らぐ。リアが立ち上がり、涙を流しながら叫ぶ。
「なんで置いていったんだ!」
無意識に放たれた火球が唸りを上げ、工房の屋根を焼き、炎が森の木々を焦がす。焦げた木の匂いが鼻を刺し、炎の熱が頬を炙る。タクミがストームライダーから飛び降り、リアに駆け寄る。
「リア、落ち着け!」
その声が森に響き、彼の足音が土を叩く。
だが、リアの涙が止まらず、感情がさらに魔法を引き起こす。
「ずっと独りだと思ってた!」
氷柱が轟音と共に森に降り注ぎ、地面が凍りつく。冷気が影脈会の足元を包み、彼らが後退する。レオンが叫ぶ。
「リア、やめろ! お前まで禁忌に染まるな!」
その声に、恐怖と妹への愛が滲む。氷が木々を砕き、冷たい破片が朝陽に輝く。
リアが膝をつき、嗚咽する。涙が凍りついた地面に落ち、彼女の声が震える。
「兄ちゃん…私、貴族を許せない…でも兄ちゃんが生きてて…どうしたらいいか分からない…!」
その言葉に、混乱と愛情が溢れる。
タクミがリアを抱きしめ、彼女の震える肩を強く握る。
「お前を放っておかねえ! 俺もバルドも、カザンもいる! 家族ってのはここにあるんだ、リア!」
その声が森に響き、タクミの温もりが彼女を包む。リアがタクミの胸で泣き、涙を拭う。彼女がレオンを見つめ、震える声で言う。
「兄ちゃん…貴族を倒すなら、私と一緒に戦って…! 兄ちゃんをまた失いたくないんだ…!」
その瞳に、涙と決意が宿る。
レオンが目を閉じ、苦しげに呟く。
「リア…俺は禁忌に手を染めた。影脈会に縛られてる。お前をこの戦いに巻き込みたくない…俺の手はもう汚れてる。」
その声が嗄れ、彼の背中に過去の重さがのしかかる。彼が一歩後退し、影脈会の仲間と共に言う。
「貴族を倒す力があるなら、試してみせる。お前らの覚悟をな。」
その言葉を残し、レオンが杖を手に森の奥へと歩き出す。朝霧が彼の姿を薄く隠し、足音が遠ざかる。
タクミがリアを支え、ストームライダーに目をやる。ガイストが報告する。
「魔脈波動安定、リアの禁忌魔法の痕跡消滅。タクミ、リアの感情が制御を取り戻した。」
その声に、冷静さと安堵が混じる。タクミがガイストに笑う。
「相棒、今回は俺たちの絆が効いたな。兄貴が出てくるとは…レオンをどうすりゃいいんだか。」
その声に、レオンへの複雑な思いが滲む。ガイストが低く応じる。
「予測不能だ、タクミ。お前の絆がリアを救った。次は貴族をぶち抜く番だ。」
その声に、相棒への信頼が響く。
バルドが毒霧から回復し、双剣を手に立ち上がる。喉を焼いた臭いがまだ残り、彼が吐き捨てる。
「影脈会か…貴族を潰すなら俺の剣で十分だ。こんな怪しい連中に用はねえ。」
その声に、苛立ちと冷たい決意が滾る。
カザンが工房から駆けつけ、熔雷槌を手に森に立つ。槌が地面を震わせ、彼が吼える。
「禁忌魔法は己の身体を蝕む代わりに強力な魔力を生み出すという…。そんなもんに手を染めやがって。」
カザンが続けてタクミとリアに言う。
「タクミ、リア、貴族を潰すなら熔鉄団も一緒だ。熔嵐谷の仇も忘れねえ。家族ってのは、こうやって守るもんだぜ!」
その声に、豪快さと深い絆が響く。
リアがタクミの手を握り、レオンが消えた森の奥を見つめる。涙が頬を伝い、彼女が震える声で言う。
「兄ちゃん…私、貴族を倒すよ。家族を奪った奴らを許さない。兄ちゃんと一緒に戦いたい…!」
その言葉に、妹の愛と覚悟が溢れる。レオンが朝霧の中で立ち止まり、振り返らずに呟く。
「リア…生き抜いてくれ。貴族は俺が終わらせてみせる。」
その声が風に溶け、背中に孤独が滲む。影脈会の仲間と共に、彼の姿が霧の向こうに消えていく。




