第36話:氷雷の覚醒
焔嵐大陸の夜が熔鉄団の地下工房を包み、炉の赤い光が壁に揺らめく影を刻む。熔けた鉱石の焦げた匂いが漂い、熱気が静寂を重くする。タクミがストームライダーのそばで設計図を確認していると、突然地面が低く唸り、震えが工房全体を揺らす。遠くで野太い咆哮が響き、土埃が舞う。熔鉄団の戦士ゴランが工房の入り口から飛び込み、息を切らせて叫ぶ。
「タクミ、カザン! ヴォルガノスだ! 5体の群れが工房に迫ってるぞ!」
地面の震えが強まり、入り口の外で溶岩の赤い目が不気味に光る。
カザンが「熔雷槌」を手に立ち上がり、吼える。
「貴族の差し金だ! 熔鉄団、迎え撃て!」
その声が工房に響き、熔鉄団の戦士たちが槍を手に外へ飛び出す。ヴォルガノスの群れが荒野を踏み砕き、溶岩弾が飛来する。工房の壁がジュウジュウと焦げ、熱波が戦士たちを押し返す。槍が魔獣の鱗に突き刺さるが、溶岩の熱に押され、彼らが後退を余儀なくされる。
タクミが「マグナ・ヴェスト」を着込み、ストームライダーのコックピットに飛び乗る。
「貴族がヴェールウッドを狙う前に潰す! 魔脈感知、フル稼働だ!」
ガイストが即座に反応し、コックピット内で報告する。
「マグナ・ヴェスト接続により、魔脈エネルギー増幅130%! システムオールグリーン。5体確認、全方位から接近中! 溶岩弾の軌道予測、回避率75%。タクミ、飛び立つなら今だ!」
タクミがレバーを握り、ニヤリと笑う。
「130%か、いい感じだな、ガイスト。回避率は頼むぜ。ストームライダー、離陸!」
翼が唸りを上げ、機体が工房の上空へ飛び立つ。風が装甲を叩き、夜空に青白い光が弧を描く。
リアが「エーテル・ローブ」を羽織り、「エレメンタル・トーム」を手に工房の外へ駆け出す。彼女が火球を構え、叫ぶ。
「フレア・ヴェント!」
小さな火球がヴォルガノスに飛ぶが、魔獣の鱗に跳ね返され、荒野に落ちて消える。リアが息を切らし、呟く。
「だめ…効かない…!」
タクミがストームライダーから鋭く叫ぶ。
「火属性に火じゃダメだ、リア! 頭使え!」
その声に焦りと頼もしさが混じる。
バルドが「フレイムガード・アーマー」を着て、「デュアル・ヴォルティス」を手に突進する。
「旋風双刃!」
高速回転斬りが1体の脚を切り裂き、溶岩と血が飛び散る。だが、熱波が剣に襲いかかり、刃が赤く輝く。バルドが後退し、歯を食いしばる。
「くそ、焼ける! このままじゃ剣が溶けちまう!」
その声に苛立ちと執念が滲む。
ヴォルガノスの溶岩弾が工房の屋根を直撃し、木と鉄が砕ける音が響く。熔鉄団の戦士が熱波に倒れ、ゴランが槍を手に叫ぶ。
「カザン、工房が危ねえ!」
カザンが熔雷槌を振り下ろし、1体の頭部を叩き潰す。
「熔鉄団は負けねえ! タクミ、リア、援護しろ!」
槌が地面に衝撃を刻み、溶岩が飛び散る。だが、溶岩弾が再び飛び、工房の壁が崩れる。焦げた木材の匂いが鼻を刺し、炎が工房を舐める。
リアがその光景を見つめ、目を見開く。貴族に焼かれた故郷の村が脳裏に蘇る。燃える家々、逃げ惑う家族、貴族の冷たい笑い声…。彼女の目に涙が溢れ、トームを握る手が震える。
「家族が…また…! もう…奪わせない…!」
その叫びが夜空に響き、魔脈エネルギーが彼女を中心に渦を巻く。エーテル・ローブが青白く輝き、トームが宙に浮かぶ。風が彼女の髪を乱暴に揺らし、ローブの裾が翻る。地面が凍りつき、工房の熱気が一瞬にして冷える。
リアの声が震えながらも力強く響く。
「凍てつく虚空よ、嵐を解き放て…アイシス・テンペスト!」
彼女の周囲に巨大な魔法陣が広がり、夜空から氷柱の嵐が轟音と共に降り注ぐ。鋭い氷の槍がヴォルガノス2体を貫き、溶岩が瞬時に冷えて黒い石と化す。魔獣の咆哮が凍りつき、動きが止まる。氷が地面に突き刺さる音が響き、冷気が工房を包む。タクミがストームライダーから叫ぶ。
「おおー! リア、すげえ! 今だ! ガイスト、魔振剣に合わせろ!」
ガイストが即座に応答する。
「魔脈調整、氷属性を剣に転送。出力最大だ、タクミ!」
タクミが吼える。
「リア! 氷魔法を頼む!」
リアが涙を拭い、力強く頷く。
「わかった、タクミ!」
彼女が再びトームを握り、詠唱する。
「氷の精霊よ、大地を凍てつかせ、敵を封じ込めなさい——クリスタル・ブリザード!」
エレメンタル・トームから青い魔法陣が広がり、魔振剣が眩しく輝く。氷の結晶が刃に纏わりつき、冷気が剣先から霧のように溢れる。
タクミがストームライダーを急降下させ、凍ったヴォルガノスの首に突進する。魔振剣が高速で振動し、氷と溶岩が砕け散る轟音と共に首を切り裂く。2体が崩れ落ち、地面に氷の破片が飛び散る。リアが息を切らし、次の詠唱を続ける。「雷よ、全てを貫け…サンダー・パルス!」彼女の手から雷撃が迸り、工房の周囲に青白い電光が走る。残る3体目のヴォルガノスに直撃し、魔獣が痙攣する。雷が鱗を焦がし、タクミが氷属性の魔振剣で突き刺す。電流が機体を通じて流れ、3体目が地面に倒れる。雷鳴が荒野に木霊し、リアが膝をつく。トームが手から落ち、彼女が呟く。
「私…やった…?」
視界がぼやけ、力が抜ける。
タクミがストームライダーを着陸させ、コックピットから飛び降りる。リアに駆け寄り、彼女を支える。
「リア、無茶したな! でも、お前すげえよ、おかげで助かった!」
その声に、驚きと感謝が弾ける。ガイストが報告する。
「敵残存2体、戦闘能力低下。エネルギー残量70%、装甲損傷15%。リアの魔脈出力が戦局をひっくり返した。」
バルドがデュアル・ヴォルティスを手に、残る2体に突進する。「旋風双刃!」剣が麻痺したヴォルガノスの脚を切り裂き、鋭い金属音が響く。カザンが熔雷槌で頭部を叩き潰す。
「熔鉄団の鉄は砕けねえ!」
槌が地面を震わせ、溶岩が飛び散る。ゴランと熔鉄団の戦士が最後の1体を槍で仕留め、群れが全滅する。槍が鱗を貫く音が静寂に溶ける。
カザンが「熔雷槌」を肩に担ぎ、熔鉄団の戦士ゴランと共に近づく。煤と血にまみれた顔で、タクミ、リア、バルドを見回し、静かに言う。
「熔鉄団はお前らを家族と認める。熔嵐谷の仇を討つ仲間としてな。リアの涙は、俺たちの誇りだ。」
その声は低く、熔鉄団の魂が重く響く。ゴランが槍を地面にガツンと突き刺し、豪快に笑う。
「タクミの鉄、リアの魔法、バルドの剣…貴族が泣くぜ。」
その笑い声が工房に木霊し、荒々しい頼もしさが夜を切り裂く。
タクミがリアを背負い、ストームライダーを見上げ、拳を握る。青白く脈打つ機体が月光に映え、翼が静かに佇む。
「こいつで貴族を潰す。熔鉄団と一緒に、鉄都ガルザードを落とすぜ。」
その言葉に、戦闘後の疲れを越えた覚悟が宿る。ガイストがコックピットから低く応じる。
「次はお前が試される番だ、タクミ。魔脈エネルギー安定、戦闘準備は整ってる。」
その合成音に、冷静な信頼が滲む。タクミがガイストに目をやり、ニヤリと笑う。
「試されるのは貴族だろ、ガイスト。お前と俺でぶち抜く。」
その軽い口調に、相棒への揺るぎない絆が響く。
バルドが剣を手に、溶岩の残骸を睨む。
「シンダーリーヴスの仇を討つ。貴族の魔獣が来ても、この剣で斬り刻む。」
その声に、冷たい決意が滾る。
リアが目を薄く開き、涙が頬を伝う。彼女の声が震えながら呟く。
「家族を…守れた…よね…?」
その言葉に、貴族に焼かれた故郷の記憶が滲み、儚い希望が宿る。タクミがリアの肩を軽く叩き、力強く頷く。
「ああ、お前が工房を守った。熔鉄団もヴェールウッドも、お前のおかげだぜ。」
その笑みに、仲間への確信が輝く。
カザンが熔鉄団の戦士たちを見回し、笑う。
「タクミ、リア、バルド、熔鉄団の鉄はお前らに預けた。鉄都ガルザードをぶち抜け!」
その笑い声が夜空に響き、熔鉄団の魂が荒野を包む。
焔嵐大陸の夜空の下、リアの覚醒が貴族との戦いに新たな力をもたらしていた。氷と雷が静かに消え、工房の炉が再び赤く燃え始める。彼女の魔脈が、決戦への道を切り開いていた。




