第29話:熔鉄団の炎と氷
焔嵐大陸の荒野は灼熱の風に支配されていた。赤茶けた大地が熱波に揺らぎ、遠くの地平線が陽炎で歪む。ガイストMk-I改が荷車を牽いて進む中、地面が低く唸り、震えが足元を這い上がる。荒野の裂け目から魔獣
「ヴォルガノス」
の群れが姿を現す。溶岩を纏った5体の巨体が咆哮を上げ、焼けた土を踏み砕いて突進してくる。熱気が鼻をつき、汗が目に入って滲みる。タクミがコックピットに飛び乗り、吼えた。
「またこいつらか!」
ガイストMk-I改から荷車のフックを外し、彼が魔脈ガンランチャーを構え、爆裂弾を連射。弾が唸りを上げて1体の前脚を砕き、溶岩と血が地面に飛び散る。だが、残り4体のヴォルガノスが口を開き、溶岩弾を吐き出す。赤黒い塊が荒野を焦がし、熱風が髪を焼く。ガイストの声が鋭く響く。
「魔脈波動、複数検出! 5体確認、混乱中! 距離30メートル、回避困難!」
リアが風魔コアを握り、両手を広げて叫ぶ。
「風を…!」
冷たい風が渦を巻き、溶岩弾をわずかに逸らすが、熱波に押されて彼女がよろける。足元の砂が焼けてガラス質に変わり、熱が靴底を溶かす。リアが息を切らす。
「熱い…! 押さえきれないよ…!」
バルドが双剣を手に突進し、1体の脇腹に斬り込む。刃が鱗を裂き、血が噴き出すが、熱気が彼を包み、膝をつかせる。剣が地面に突き刺さり、低く唸る。
「くそっ…! 熱すぎる…!」
タクミが魔振剣を振り下ろす。青い光が弧を描くが、ヴォルガノスの硬い鱗に浅く跳ね返される。直後、溶岩弾が機体に直撃し、装甲がジュウジュウと焦げる。ガイストが警告する。
「装甲損傷20%! 炉温度急上昇! このままじゃ持たない、タクミ!」
ヴォルガノスが一斉に咆哮し、溶岩弾が雨のように降り注ぐ。荒野が赤く染まり、熱が肺を焼く。
その時、荒野の奥から重い足音が響き渡る。地面が震え、砂塵が舞い上がる。屈強なドワーフ族の男、カザンが率いる熔鉄団が現れる。赤い髭を生やしたカザンが大槌を手に豪快に笑い、声が戦場を貫く。
「軟弱な異邦人か! この土地で貴族の魔獣にやられちゃ、熔鉄団の面目が立たねえ!」
カザンが大槌を振り下ろす。轟音と共にヴォルガノス1体の頭部が粉砕され、溶岩が飛び散って瞬時に冷える。熔鉄団の戦士たち――黒鋼の鎧に身を包んだ屈強なドワーフたちが鉄槍とハンマーを手に動き出す。鉄槍が2体のヴォルガノスを貫き、ハンマーが残り1体の脚を叩き潰す。溶岩が地面に流れ、冷えて黒い石と化す。戦闘開始からわずか20秒、5体の魔獣が沈黙した。
タクミがコックピット内で目を丸くし、呆然と呟く。
「何!? つぇ〜…! 何だよ、この圧倒的な強さ…!」
ガイストが報告する。
「魔脈波動消失! 敵勢力全滅! 装甲損傷22%、炉温度安定!」
カザンが大槌を肩に担ぎ、タクミを見下ろす。赤い髭が風に揺れ、灰色の瞳が鋭く光る。
「俺が熔鉄団の頭領、カザンだ。貴族の魔獣がうろつくのも、異邦人が来たのも、俺たちには関係ある話だ。エリナから話は聞いてる。工房へ来い。」
タクミがコックピットから這い出し、息を切らしつつ見上げる。
「お前ら…熔鉄団か? こんな簡単に魔獣を片付けちまうなんて…つぇ〜ってレベルじゃねえぞ。」
熔鉄団の地下工房は、溶けた鉱石の匂いと熱気に満ちていた。鉄槌が金属を叩く音が響き、赤い火花が飛び散る。タクミがガイストMk-I改をカザンに見せる。
「こいつをストームライダーに進化させたい。飛べる機体にするには、もっと強い素材と冷却が必要だ。」
カザンが機体を拳で叩き、鈍い音を響かせて頷く。
「魔鋼だな。焔嵐大陸の洞窟に眠ってる。貴族が隠してる分だ。熔鉄団なら手に入れられるぜ。」
彼が風魔コアを手に取る。
「こいつに魔脈水を仕込めば、冷却が強化できる。熱を吸って冷やす、熔鉄団の技だ。」
カザンが熔けた鉱石を手に持つと、タクミが目を細めて聞く。
「お前ら、なんで協力してくれる? 貴族と何かあるのか?」
カザンが目を細め、低く笑う。
「貴族か…。あいつらは魔脈を私利私欲で荒らし尽くしやがった。熔鉄団の故郷、熔嵐谷は魔脈鉱石の宝庫だった。だが、貴族が鉱石を奪うために谷を焼き払い、俺たちの仲間を半分殺した。20年前だ。生き残った俺たちは焔嵐大陸で力を蓄えてきた。あいつらをぶっ潰すためにな。」
バルドが双剣を手に、カザンを見やる。
「俺も貴族に家族を焼かれた。シンダーリーヴスって村だ。お前らと一緒なら、貴族を斬れる。」
カザンが頷き、言う。
「シンダーリーヴスか…。似た運命だな。お前ら異邦人が貴族を潰すなら、熔鉄団の敵も減る。協力して損はねえさ。」
リアがカザンのそばに近づき、呟く。
「私も強くなりたい…。魔法で、タクミを助けたい。」
カザンが熔けた鉱石を手に持つ。赤く輝く石をリアに渡し、言う。
「魔脈を感じてみろ。焔嵐大陸の鉱石は、力を秘めてる。」
リアが恐る恐る触れると、炎の魔脈が指先に走る。
「熱い…!」
彼女の手から小さな火球が飛び出し、工房の壁を焦がす。リアが目を丸くする。
「私、できた…!」
カザンが笑い、冷えた青い鉱石を渡す。
「お前、才能あるな。次は氷だ。やってみろ。」
リアが青い鉱石を握り、集中する。
「冷たい…!」
指先から氷の結晶が生まれ、工房の床に小さな氷塊が落ちる。リアが笑う。
「私…できる! タクミ、見てて!」
タクミが魔振剣を手に持つ。
「剣に纏わせてみろ。お前の魔法なら、もっと強くなる。」
リアが炎の魔脈を呼び、魔振剣に集中する。
「炎を…!」
剣に赤い炎が纏わりつき、刃が熱く輝く。タクミが剣を軽く振ると、炎が弧を描き、工房の鉄板に焦げ跡を刻む。カザンが豪快に笑う。
「いいねえ! お前ら、熔鉄団の素材で貴族をぶちのめす気だな!」
バルドがカザンに近づく。
「俺の剣も強化しろ。お前らの技なら、貴族を斬れる刃にできるだろ。」
カザンが頷き、言う。
「魔鋼の剣なら、貴族の鎧も貫くぜ。任せとけ。」
タクミがガイストMk-I改を見上げ、呟く。
「熔鉄団のおかげで、ストームライダーが見えてきた。貴族の洞窟へ行けば、完成する。」
ガイストが報告する。
「魔脈水導入で冷却効率120%予測。環境適応力向上。魔脈波動、微増中。洞窟への接近に警戒しろ。」
リアが炎と氷の魔脈を感じながら、タクミに笑う。
「私、新しい魔法でタクミを助けるよ。貴族に負けない!」
カザンが大槌を手に、タクミたちを見回す。
「貴族が焔嵐大陸に援軍を送ってくるぜ。熔鉄団はヴェールウッドの隠し洞窟を守る。お前らは洞窟へ急げ。俺たちの素材で、貴族をぶっ潰してこい。熔嵐谷の仇を、お前らにも預けるぜ。」
タクミが拳を握り、言う。
「熔鉄団と組めば、貴族も魔獣も終わりだ。ストームライダーで、鉄都ガルザードを叩く。」
バルドが双剣を手に、低く呟く。
「熔嵐谷か…。俺のシンダーリーヴスと同じだ。貴族を斬る理由が、また増えた。」
一行は熔鉄団の工房を後にし、貴族の洞窟へと向かう。焔嵐大陸の荒野に新たな絆が生まれ、灼熱の風が彼らの背を押していた。




