第24話:風と剣の絆
ヴェールウッドの広場は、燃え盛る炎の残骸と剣戟の鋭い響きに支配されていた。焦げた草の匂いが鼻をつき、風が灰を巻き上げる中、ガイストMk-I改がバルドの猛攻に耐えていた。機体の装甲が軋む甲高い音が響き、コックピットでタクミが汗に濡れた手でレバーを握り直す。モニターに映る赤い警告灯が点滅し、ガイストの冷静な合成音が低く耳に届いた。
「稼働率78%、装甲損傷30%。戦闘継続可能。お前ならいける、タクミ。」
タクミの目が鋭く光り、喉から叫びが迸る。「今だ、リア! 風を乗せろ!」
広場の端、崩れた石壁の影に立つリアが跳ね起き、両手を広げて風魔法を解き放つ。「風を…刃に…!」 彼女の声が震え、冷たい風が一瞬で渦を巻き始めた。ガイストMk-I改の右腕に装備された魔振剣に風が絡みつき、刃が唸りを上げて高速で振動する。青い光が尾を引き、まるで風そのものが刃と化したかのように空気を切り裂いた。金属と大気が擦れる甲高い音が広場に木霊し、タクミが機体を一気に前進させる。
魔振剣がバルドを圧倒する高速斬撃を繰り出し、風の刃が空気を震わせる。バルドが双剣を交差させて防ごうと構えるが、風を纏った一撃が彼の剣を弾き飛ばし、肩に浅い切り傷を刻む。血が一筋流れ、バルドが歯を食いしばって後退する。タクミは追撃の手を緩めない。「風魔コアの魔脈エネルギー、ガンランチャーにぶち込め!」 スイッチを叩き、風魔コアが赤く脈打つ光を放つ。魔脈エネルギーがガンランチャーに流れ込み、低い唸りが機体を震わせた。
発射された爆裂弾は風を纏い、鋭い唸りを立てて宙を裂く。轟音が大地を揺らし、炸裂した瞬間、風が炎と土煙を渦巻かせ、バルドを吹き飛ばした。彼が地面に叩きつけられ、土煙の中で膝をつく。血を吐き出し、額の汗を拭いながら低く呟く。「鉄の怪物…貴族が恐れるわけだ…」
タクミがガイストのハッチを開け、這い出して魔振剣を手に握る。バルドに剣先を突きつけ、冷たい声で言い放つ。「貴族に言え。次はお前らが死ぬ番だ。」 眉を寄せ、鋭く問いかける。「何で村を焼いた!? 貴族の犬なら、こんな無垢な場所を灰にする理由を吐けよ!」
バルドが双剣を地面に落とし、無表情の顔に微かな苦しみが滲む。目を伏せ、かすれた声で吐き捨てる。「俺は傭兵だ。貴族に家族を奪われて、生きるために剣を握った。逆らえば死ぬだけだ。奴らの命令で村を焼くしかなかった…貴族が憎い。それだけだ。殺すなら殺せ。」
タクミの目が揺らぎ、剣を握る手が一瞬震えた。バルドの言葉が胸に突き刺さり、鉱山で死んだ少年の笑顔が脳裏に蘇る。「お前…俺達と同じか?」 声がかすれ、剣が地面に落ちる音が小さく響いた。彼の脳裏に、少年が最後に見せた笑顔と、貴族の冷酷な鞭が交錯する。バルドがタクミを見上げ、低く呟く。「異邦人…お前も貴族に奪われたのか?」
タクミが剣を地面に突き刺し、バルドに手を差し伸べる。「ああ。でも俺は貴族に屈しない! なら…味方になれ。貴族を潰すなら、俺たちと一緒に戦え。」
リアがタクミのそばに駆け寄り、息を切らしながら叫ぶ。「私も…家族を貴族に殺された! バルドさん、私たちと一緒なら…もう一人じゃないよ!」 彼女の瞳が潤みつつも力強く輝く。
エリナが剣を手に近づき、静かに頷く。ヴェールウッドの風が彼女の髪を揺らし、穏やかだが芯のある声で言葉を紡ぐ。「ここには自由がある。貴族に縛られた傭兵の鎖を断ち切る力もある。お前が本当に貴族を憎むなら、タクミと戦うべきだ。」
広場に重い沈黙が流れる。バルドが地面に落ちた双剣を見下ろし、微かに震える手で額の汗を拭う。彼の耳に、家族の叫び声と貴族の嘲笑が今もこだまする。目を閉じ、深く息を吐く。やがて目を開け、タクミの手を見上げる。鋭い瞳に微かな光が宿り、かすれた声で言う。「…貴族を潰すなら、裏切られる覚悟もしてやる。お前らの目が…俺に初めて希望を見せた。」
バルドがタクミの手を掴み、立ち上がる。鋭い目が微かに和らぎ、低く呟く。「分かった。貴族を潰すなら、俺の剣を貸してやる。」
タクミが笑い、バルドの肩を叩く。「いいぜ。次はお前と一緒に鉄都ガルザードを叩く。」
夕陽がヴェールウッドに差し込み、広場の炎が静かに消えていく。村人たちが戻り、タクミとバルドを囲む。子供たちがバルドに近づき、彼の双剣を見て「おじさん、強いの?」と笑う。バルドが無言で子供の頭を撫で、初めて微かな笑みを見せる。
ガイストMk-I改が膝をつき、タクミが機体を見上げる。ガイストの声が報告する。「エネルギー残量55%、装甲損傷35%。風魔コアと魔脈エネルギーの応用は効果的だった。お前の判断は正しかった、タクミ。」
タクミが設計図に目を戻し、呟く。「ストームライダーの試作が急がれるな。貴族が次を送ってくる前に、こいつを飛ばす。」
リアがタクミのそばに立ち、風を手に感じながら言う。「私も…もっと強くなるよ。バルドさんも一緒なら、貴族に勝てるよね?」 彼女の声に希望が宿る。
バルドが双剣を拾い、低く答える。「ああ。お前らと一緒なら…俺の家族の仇を討つためだ。」 剣を握る手に力がこもる。
エリナが村人たちに呼びかける。「新たな仲間が加わった。私たちは負けないよ。」 彼女の静かな声に、確かな決意が響く。
タクミが空を見上げ、星が輝く赤い空を見つめる。「貴族も魔獣も、次はお前らが終わりだ。」
森の奥で魔獣の目が光り、遠くの鉄都ガルザードでは、貴族長が新たな策謀を練る。影脈会の黒いローブの男が城の闇で呟く。ローブが風に揺れ、指が魔術的な印を結ぶ。「傭兵が裏切ったか…異邦人、面白い駒だな。」
ヴェールウッドの戦士たちは、タクミ、リア、バルドの力と共に、新たな戦いの火蓋を切る準備を進めていた。風が静かに木々を揺らし、遠くで魔獣の咆哮が響く。鉄都ガルザードの貴族たちが気づかぬうちに、彼らの刃はすでに忍び寄っていた。




