第21話:魔獣の襲来・後編
ヴェールウッドの広場は業火に呑まれていた。炎が空を焦がし、ヴォルガノスの咆哮が大地を震わせる。タクミがガイストMk-I改を立て直し、レバーを握る手が汗で濡れる。煤と熱にまみれた顔に、決意だけが刻まれていた。リアがそのそばに立ち、風魔法を呼び起こす準備で掌を広げる。タクミが吼えた。
「リア、お前の風だ!魔振剣に力を貸せ!」
その声は炎の唸りを切り裂き、彼女に届く。リアが小さく頷き、唇から呪文が零れ落ちた。
「風を…刃に…!」
彼女の手から吹き出した風が、ガイストMk-I改の右腕に装備された魔振剣に纏わりつく。刃が高速で振動を始め、青い光が炎を裂くように迸った。鋭い唸りが空気を震わせ、剣が生き物のように脈動する。
タクミが機体を操作し、ヴォルガノスの背後に回り込んだ。熱風が装甲を煽り、視界が歪む。魔振剣を振り上げ、上空から魔獣の首に突き刺す。刃が硬い鱗を貫き、赤黒い血が噴き出した。熱気を帯びた血飛沫が地面に落ち、ジュッと音を立てて蒸発する。ヴォルガノスが咆哮し、タクミが吼え返す。
「喰らえ!」
だが、魔獣が巨尾を振り回し、灼熱の風圧と共に機体を叩き飛ばした。ガイストMk-I改が地面に激突し、土が爆ぜる。タクミがコックピット内で歯を食いしばった。
「まだだ!立て直すぞ!」
リアが風魔法を再び解き放ち、風魔冷却ユニットを援護する。冷たい風が機体を包み込み、炉から立ち昇る蒸気が白い尾を引いた。熱が収まり、青い光がコアに宿る。ガイストが淡々と報告する。
「冷却効率110%維持、装甲損傷50%。戦闘継続可能だが、限界が近い。」
タクミが機体を起こし、魔脈ガンランチャーを肩に担いだ。爆裂弾がヴォルガノスの頭部に連射され、轟音が広場を震わせる。爆発が魔獣の目を直撃し、鱗が剥がれて赤い滴が飛び散った。ヴォルガノスが咆哮を上げ、タクミが叫んだ。
「目が潰れた!今だ、リア!」
盲目と化したヴォルガノスが暴れ狂い、前脚の爪がガイストMk-I改に振り下ろされる。タクミが魔振剣で迎え撃ち、爪と刃が激突した。火花が散り、リアの風で強化された振動が魔獣の爪を弾き返す。金属と鱗が軋む音が響き、タクミが吼えた。
「この剣ならお前を止められる!」
リアが風をさらに集中させ、魔振剣の振動が加速する。刃が青く輝き、空気を切り裂く唸りが強まった。タクミが機体を操作し、側面に回り込んで剣を魔獣の脇腹に突き刺した。刃が鱗を切り裂き、深い傷を刻む。血と溶岩が混じり合い、地面に黒い染みを広げた。
ヴォルガノスが魔脈炎を乱射し、広場が炎の海に呑まれる。燃え盛る小屋の残骸が崩れ、熱気が視界を歪ませた。タクミが機体を跳ばせ、上空から再び攻撃に転じる。魔振剣がヴォルガノスの首に突き刺さり、振動が骨まで達した。刃が肉を裂き、骨を砕く音が低く響く。魔獣が最後の咆哮を上げ、タクミがレバーを力任せに押し込んだ。
「終わりだ!」
剣が首を貫通し、ヴォルガノスが地面に倒れ伏した。溶岩が冷えて固まり、巨体が黒い石像のように動きを止める。静寂が炎の残響を押し退けた。
ガイストMk-I改が膝をつき、タクミがコックピットから這い出した。汗と煤にまみれた顔が、夕陽の薄光に照らされる。ガイストが報告する。
「エネルギー残量30%、装甲損傷60%、ヴォルガノス撃破。予測を超えた勝利だ。」
村人たちが森から這うように戻り、「勝った!」と歓声が上がる。子供たちがタクミとリアに駆け寄り、戦士たちがウェアラブル型を外して肩を叩いた。土と汗の匂いが、勝利の熱気に混じる。
リアがタクミのそばに立ち、息を切らしながら呟いた。
「私…役に立てた?」
その声には疲労と、微かな希望が宿る。タクミがリアの頭を撫で、煤けた手で乱暴に笑った。
「お前がいなけりゃ、俺は溶けてた。お前の風が勝敗を分けたぜ。」
エリナが剣を手に近づき、静かに言った。
「二人とも立派だったよ。魔獣を倒したのは、村の希望だ。」
その瞳に、穏やかな誇りが揺らめく。
タクミがガイストMk-I改を見上げ、呟いた。
「貴族が魔脈を弄ったせいでこいつが来たなら、次は奴らを潰す番だ。」
ガイストの声が低く響く。
「魔脈の不安定化が魔獣を誘発した可能性は高い。貴族の策謀が裏目に出たか、あるいは意図的か。さらなる分析が必要だ。」
村人たちが燃えた小屋の残骸を片付け始め、リアが風魔法で小さな火を消した。微風が灰を舞わせ、彼女の髪を軽く揺らす。タクミが設計図に目を戻し、決意を込めて言った。
「次はもっと強い盾だ。そして、貴族の根っこを叩く。」
夕陽が沈み、ヴェールウッドに静けさが戻った。だが、森の奥から微かな唸り声が響き、次なる脅威を予感させる。炎の残響が消えても、村の戦いは新たな段階へと進んでいた。




