違う気持ち
……ああ。
彼女への気持ちを、どう言葉にしたらいいのだろう?
好き。大好き。愛してる。
思い浮かんだこれらの言葉は私の気持ちを彼女に正しく伝えてくれるのだろうか?
「まやさん……?」
後ろから私の名前を呼んでくれる声が聞こえる。
大好きな人の綺麗な声だ。
「風邪をひきますよ?」
彼女はそう言って私に傘を差し出す。
自分が濡れるのもお構い無しに。
誕生日なんて私にとっては普段と変わらない日のはずだった。
でも、今日は違った。
私の誕生日だからと彼女がそれでお祝いをしてくれた。
だけど……。
「……ありがとう、はなちゃん」
私は差し出された傘を受け取らずに、雨に濡れている。
「まやさん?」
彼女は不思議そうに私の名前を呼んでくる。
……彼女は知らない。私が本当は誕生日なんて来なくていいと思っていることに……。
いや、違う。そうじゃない。
今日だけは違う。楽しく幸せだった。
誕生日だからと今日彼女はずっと側に居てくれた。
彼女がいてくれれば私は幸せだ。
そのはずなのに……。
「……はなちゃん」
「はい?」
雨の音にかき消されるほどの小さな呼びかけにも彼女は返事をしてくれる。
どんな言葉で何を言えばいいか分からないまま、ただ思いついたことを口する。
「……私ね、今日が誕生日なんだ」
「はい、知っていますよ。だからお祝いをしたんじゃないですか」
彼女はそう言って笑う。
「うん……そうだね」
私も彼女の笑顔に釣られて笑うけど、やっぱり違う。
だって、私が本当に言いたいのは……。
「……はなちゃんはさ、私と一緒にいて楽しい?」
「はい!もちろんですよ!」
彼女は自信満々に答える。
その答えが嘘じゃないことなんて彼女の目を見ればすぐに分かる。
だけど……。
「本当に……?」
「? どういう意味ですか?」
「言葉通りの意味だよ」
彼女は私の言葉の真意を理解出来ていないようだった。……でも、それでいいんだ。これは私が勝手に思っていることだから。彼女にどうこうできる問題じゃない。
「……まやさん」
彼女は何か言いたそうな表情を浮かべていたけど、結局何も言わなかった。その代わりに、また私に傘を差し出してくれた。
「風邪をひいてしまいますよ?ほら、帰りましょう?」
そんな彼女の優しさに甘えながら、私たちは帰路についた。
「……はなちゃん、今日は本当にありがとう」
帰り道の途中で私は彼女に感謝の気持ちを伝える。
すると彼女は少し照れくさそうに笑った。
「いえいえ、こちらこそありがとうございます」
「え?どうしてはなちゃんがお礼を言うの?」
私が疑問に思ったことを素直に聞くと彼女は答えた。
「だって、まやさんと一緒にいられて嬉しかったですから!」
「……っ!」
ああ……やっぱり私は……。彼女が好きだ。
「まやさん?」
不思議そうな顔をしながら彼女は私の名前を呼ぶ。
「……はなちゃん」
「はい?」
「はなちゃん、ちょっと来て?」
そう言って、私は彼女の手を引いて走り出す。そして誰もいない場所まで来ると、そこで立ち止まった。
「まやさん、一体どうしたんですか?」
彼女が心配そうに声をかけてくるけど、今の私にはそれに答える余裕はなかった。
だって……自分の気持ちを抑えるのでいっぱいいっぱいだから。
「はなちゃん」
「はい」
私は彼女に向かって両手を広げる。すると彼女は驚いたような表情を浮かべた後すぐに笑顔になってくれた。そしてそのまま私を抱きしめてくれる。
雨に濡れたせいで冷たいけれど、そういうのとは違う温かさを感じながら私は言った。
「はなちゃん、大好きだよ」
「はい、私もですよ」
彼女はそう言ってくれるけど、そうじゃないんだ。私の好きと彼女の好きは違うから。でも……。それでもいい。だって私は……。
「まやさん?」
「……ううん!何でもないよ!」
私は笑顔を浮かべながら答えると彼女の胸に顔を埋める。そして心の中で呟いた。
『本当に大好きだよ』と……。




