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環境格差

「あ、ちょっとまって。俺ペットボトル捨てて来る。」

マンションを出て、和人は小走りで隣のコンビニにごみを捨てに走った。

いつも塾に行くとき母親に隠れて買っている、炭酸水のペットボトルを捨てに行ったのだ。

塾に行く前に何か口にするようにと渡されているお小遣いで、

隣のコンビニで炭酸水を買うルーティーンになっていた。


和人は昨晩の暗い食卓のことを思い出してため息をついた。

勉強や宿題は真面目にやっているのに、いつもテストでは力を出せない。

塾の開始時に行われるミニテストではいつも満点なのに、

塾の途中、もしくは大きなテストでは、どんどん集中力が無くなって、頭がボーっとしてくるのだ。


真面目に勉強しているのに下がる一方の成績。

一方隣にいる相棒の青はずっとアルファの上位だ。


青は保育園の時は、何かにつけていつも和人が手助けをしていた。

青の姉の紅には、いつも言われていた。

「和人くん、青をよろしくね。」と。

昨年、御三家の女子校と千葉の最難関校に合格したと聞き、

そんな優等生に弟を託されている自分は結構すごいのではないかと思ったこともある。


週に1度の金曜日、青と和人は区民間で遊んでいる。

遊んでいるというよりも、塾の宿題をやりに行っている。

青も和人も、家が共働きなので、母親同士が協定を組んで

一緒に監視し合って?勉強をしているのだ。

同じマンションだが、室内だと遊んでしまうため、

わざわざ行かされている。


とはいえ、もう成績の差は明らかで、和人は最近青の母に会うのが憂鬱だ。

本当はもう一緒に勉強させたくないと思っているのはないだろうか。


区民間には二人の他にも、約束したわけではないのに同級生が集まってくる。

全員が共働き家庭の子ではないし、同じ塾でもないけれど、毎週集まっている。

この辺りは家が高いらしく、家庭に勉強に集中できる環境が整っているとは限らないので

みんなここに集まって勉強しているのだ。


転勤で名古屋に住んでいる父親はいつも、

「俺の小4の時なんて宿題以外勉強なんてしたことなかったけどなぁ。普通やらないよ?」

と憐れみと、自由にさせない母への批判を含んだ口調で言ってくる。


普通の小4は、放課後に集まって勉強はしないらしい。


もうすっかり暗くなった午後6時、二人は外へ出た。

和人の頬は赤く染まっている。寒いわけでもなく、乾燥しているわけでもない。

のぼせているのだ。


「お前、寒くないのかよ」

半袖のTシャツで上着を振り回す青を見ながら、和人がつっこみを入れる。

「和人こそいつも服沢山着てて寒がりだな。」

「そうかな?暑いけどな。塾もいつも暑くね?」

「だから、俺いつも半袖下に着てってるよ。」

「え、どういうこと?」

「アルワンは教室広いから暑くなることねーけど、今アルサンだから教室狭いし、

 エアコンの温度に文句言えねーからな。アルワンはエアコン調整できるけど、サンは権利ないし。」

「あ、それ確かに。俺もクラスによってはエアコン替えてもらえるけど、ほとんど調整してもらえないクラスだ。」

「だよな。」

「それに、アルワンって教室広いの?」

「広いよ。一人で机2つ使えるからな。」

「机2つも使えんの?!」

「そりゃそうだよ。アルワンだからな。アルさんの机1個しか使えないから狭いし。」

「俺、机1つしか使ったことねーよ。いつもテキスト全部広げられないから、狭くて大変だよ。」

「え、マジで?!クラスで環境に格差付けんのかよ。塾もひどいな。」

二人で軽口を言いながら、和人は何かに気付きそうになった。


和人の母の里美は、いつもヒートテック、長袖のトップス、セーターに

更に中綿入りの上着を着せて、更にマフラーに手袋をさせてくる。

健康や漢方に凝っていて仕事にもしている母は、体を温めることを大事にしている。


でも和人はいつも塾では暑くて頭がボーっとしてくる。

塾前のコンビニだけは、友達とのコミュニケーションということで許してもらっているが、

和人にとってお腹を満たすことより必要なのは、頭をボーっとさせないための炭酸水だ。

一度見つかった時に小言を言われたので、炭酸水のペットボトルは帰りに捨てている。

お腹がパンパンになるし、トイレも近くなるので、授業中に席を立つ羽目になるが、

戻ってくる頃には少し頭も冴えるのだ。


母親と二人きりの晩御飯を終えて、母親がお風呂に入っている間に、こっそり椅子をウォークインクローゼットに運んだ。

夏服のしまってある衣装ケースを開けて、Tシャツを何枚か取り出した。

明日は半袖を着て行ってみよう。和人はそう思ってTシャツをタンスの奥に隠した。

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