友里ちゃんのママ
中受沼界隈には、人に教えることが大好きな人が沢山います。
その情報を取捨選択できないと、ちょっと怖いかもしれません。
佳代は一家で品川にあるオフィス家具メーカーのショールームに来ていた。2月から入塾の決まった涼介のデスクを選ぶためである。
佳代の家は70平米台で、子供たちの部屋は8畳である。幸い男の子同士なので、個室を与えなくても何とかなりそうだが、机を置くスペースはない。機能性よりも老舗ブランドであることを重視する夫の英介側の実家から、ランドセルを決め打ちされるのを防ぐため、年長の3月には佳代の実家から買ってもらった。代わりにと義母は学習机のパンフレットを持って来て、これを買うようにと強く勧めてきたが、重くて暗い色で艶々としたあの学習机なんかを子供部屋に置いたら、一気に理想の住まいが古臭くなってしまう。狭いことを理由に断った。代わりに制服のある公立小学校の制服を一式買ってもらった。
今まではリビングのダイニングテーブルで勉強をしてもらっていたが、弟がいたずらをするのでそろそろ学習専用の机を必要としていたが、リビングに置くしかないため、リビングにおいてもあまり違和感のない机をリーズナブルに探していたところ、オフィス家具という視点にたどり着いた。流石に義母はこれを買ってはくれないだろう。
幅を110cmか120cmかどちらにするかで迷っている。2台置くことを考えると110cmが良さそうだが、実際に座って体験授業でもらったB4サイズ横開きのテキストを置くと、少々心許ない気もするが、110cmの幅の机を選ぶことにした。これなら圧迫感もないし、価格的にも気軽に買い替えられるし、オフィス家具なので場合によっては下取りもしてもらえるかもしれない。
学習机は決まった。あとは通塾カバンと文房具と、左上に視線をやり、佳代は揃えるべきものを考える。卓上ライトは今度のボーナスでとび切り高いものを買う予定だ。椅子は一旦様子を見て、成長に合わせて姿勢がよくなる椅子をいうものを買おう。全て友里ちゃんママの受け売りだ。
通塾カバンは、近所の開成に受かったお兄ちゃんがいつも持っていたフランスのスキーメーカーのものと決めている。今度神保町に買いに行く予定だ。
シャーペンは友里ちゃんママに強く勧めてもらった0.7mmの鉛筆シャープをアマゾン大量に購入した。0.9mmは持っていたが、どうにも涼介の筆圧が強く、何度も消しているうちに汚くなってやる気がそがれてしまうことを相談したところ、0.7mmを勧めてもらった。友里ちゃんのお兄ちゃんは3種類使い分けているらしい。子供のシャーペンで芯のサイズにこだわるなんて、思ってもみなかったことだ。
11月に受けた入塾テストで、涼介はそこそこの結果を残してくれた。見直しをしたらもう少し取れたんじゃないかという気もするが、受験マニアのママ友、友里ちゃんのママ曰く、おそらくαからのスタートを切ることはできそうだというので、2月からの入室を決めた。1月の組分けテストがシビアらしいということで、そこをスキップするのも狙いの一つらしい。いきなりアルファ。素敵な響きだ。うちの涼介がいきなりαになれるなんて、思ってもみなかったことである。
友里ちゃんママにお薦めされたテキストをしっかりこなしたらαにたどりつくことができた。感謝してもしきれない。友里ちゃんは一番上のクラスにいるらしい。週1でお茶をしているが、今度は一番上のクラスの男の子も紹介してくれるそうだ。きっと役に立つだろう。
友里ちゃんのママは佳代にとっての先生だ。友里ちゃんのママはLINEのオープンチャットとXで情報収集しているらしい。情報収集というより多分みんなに知識を与える側なのだと思う。受験のことでわからないことがあった時、友里ちゃんのママに聞けば喜んですぐに回答してくれる。聞かれることも教えることも好きなのだろう。
入塾まではどの問題集をやらせればいいのかしらと思い、いつものようにLINEスタンプを沢山使って、友里ちゃんママにお伺いを立てた。
30分後には長文の返信が来て、佳代はそのリンクから全て購入した。